「2人で、親になる」たとえ実子を授からなくても、養子という選択肢もあるー。石井さん38歳、留衣さん40歳のときに結婚。結婚当初から子どもを持つことを望み、現在不妊治療中のお2人。2人で相談をし、2人で戦略を立て、2人で動く。「オープンすぎるほど、オープンかも」と明るく笑うお2人に、岡山と東京2つの地での治療経験や、病院を選ぶ際に感じた疑問、子どもを持つことについての考えを伺った。
石井 大輔 / Daisuke Ishii(夫) 株式会社ジェニオ代表取締役。1975年岡山県生まれ。京都大学卒業後、伊藤忠商事に入社しPaul Smith等の事業開発を担当。2011年ジェニオを創業。長期出張も含めた住んだ事のある街は、岡山、関西、東京、上海、ロンドン、ミラノ、ローマ、バルセロナ、ロサンゼルス、サンフランシスコ、という転勤族。ラテンの国の陽気に人生を謳歌するライフスタイルに大きな影響を受ける。
石井 留衣 / Rui Ishii(妻) 株式会社ジェニオ オペレーションマネージャー。1973年東京都生まれ。東洋短期大学卒業後、デサント、IBM、富士通、PGMなどで勤務。自分のやりたいことをしたく、職も転々とし最後はゴルフの世界へ。「ゴルフは奥が深くハマったこともありましたが、今は練習ゼロのお気楽ゴルファーです。」
結婚当初からあった、「子どもが欲しい」という想い
出会いから4ヶ月でスピード結婚
留衣 結婚は2014年の3月にしました。出会いから結婚までがすごく短くて、4ヶ月くらいしかなかったんですね。友達を介して知り合って、その1ヶ月後には告白され、4ヶ月後には結婚していました。まぁ、タイミングですね。年齢が年齢だったので。
石井 確かに20代ではこうはなっていないよね(笑)。当時、彼女は40歳、私が38歳でした。
留衣 20代の頃は2人とも酒におぼれて飲み会ざんまい…(笑)。出会った時はお互い大人で良かったなっていうね。
「子どもが欲しい」想いと、不妊検査
留衣 結婚当初から子どもが欲しいねという話はしていました。そのときすでに私は40歳だったので、急いだほうがいいとも思っていました。
でも、結婚してからすぐに主人が仕事で2ヶ月くらい海外に行って、戻ってきたらまたすぐ行って、という感じで、最初の一年のうち、実質半年くらいしか日本にいなかったんですね。なので、自分が妊娠できるのか、不妊体質なのかもあまり分からなくて。
石井 2人とも子どもが好きで欲しかったので、年齢を考えると急いでつくらないといけないね、とは話していたんです。彼女はその時点で産婦人科と相談していたので、医学の力を使って、どうにかすすめていこうと思っていました。
留衣 当時も一応産婦人科には通っていたんですけど、不妊専門ではないので、「見た感じ、あなたはだいじょうぶよ!」という感じで。「ご主人がちゃんと日本に帰ってきたら、タイミング法や人工授精にトライしてみたらいいんじゃない?」と言われたので、私も、そうか、と思っていたんですね。
主人の帰国後、結婚2年目くらいからタイミング法を試しても妊娠しなくて、卵管造影検査をしてみたら、実は両方の卵管が詰まっていることが分かりました。急いで不妊治療をした方がいいと言われたんですが、また主人が海外に行くことが決まり、私もついて行きました。そこでは治療ができなくて。
帰国後、岡山の病院で不妊治療スタート
留衣 2015年に 帰国した後は、主人の実家がある岡山の病院で治療を始めたんです。そこでもまずはタイミングをとってみようと言われて、やってみたんですけど妊娠しなくて。年齢も年齢なので、人工授精よりも、もう体外受精をやりましょうという話になって、昨年はずっと治療していました。
岡山には7ヶ月いたんですが、結局一回しか採卵できなくて。そのときに採卵したものを戻さないまま東京に来て、今は東京の大学病院で1月から治療を続けています。そこで採卵して、受精卵を昨年の6月に戻したんですが、8、9週目で流産してしまいました。その後採卵できない周期もあり、今は次の治療をするために期間を空けているところです。
― 岡山と東京で不妊治療をご経験されて、それぞれどのような印象をお持ちですか?
留衣 岡山は先生たちがとても親身で、聞けば丁寧に説明をしてくれていました。アットホームな雰囲気でメンタルケアルームもあって。そこでも一人にかける時間が長いと感じましたね。一人20分とか、30分とか。東京だと患者さんの数が多いこともあり、10分もないことがほとんどなので。
石井 サポートはすごいしっかりしてたよね。金額も適切だと感じられるものだったし。
一方で、岡山は東京に比べて症例数が少ないと感じましたね。人口も若い人も少ない。若くして結婚して子どもを産む人も多いので、都会のように行列ができるようなことはなかったです。
留衣 確かに岡山では採卵のとき、手術室みたいなところに通されて着替えもさせられて、病院の先生たちが見学に来たり、私大きな手術するのかな、っていう感じだったんですが、東京の大学病院だと普通の診察室で普通に行われるので、だいぶ違うなと思いました。
石井 東京の病院では毎日やるようなことを、岡山だと稀にしかやらない、という感じかな。
留衣 治療のスピードも違いますね。岡山では採卵後2ヶ月くらい周期を空けてくださいと言われたんですが、今通っている東京の大学病院はすぐに次のステップにすすめますよ、という感じで。
石井 あと、東京は岡山より全般的に高額な印象がありましたが、その中で今の病院は、値段の設定が良心的なのがいいよね。
分かりにくい不妊治療を目の当たりにして
治療の金額や方針。あらかじめしっかり理解して治療をすすめたい
― 治療の金額というのは、お2人にとって病院選びの重要な判断基準でしたか?
石井 予算が最優先というわけではないけれど、お金を払うからには何にどのくらいお金を払うのか、しっかり理解した上で払いたいと思いました。東京の病院は治療費が高いところも多いですが、会社経営をしている自分の職業柄、その金額設定って本当に正しいのかな?と思ってしまって。
留衣 治療の内容に関しても、技術的なことを公開していない病院も多くて、結局その病院で治療を受けてから説明する、という感じなので。いち患者としては、もっと病院を選ぶ時点でオープンな情報を得られたら、という思いはありますね。
石井 日本で不妊治療を受けるにあたって、複数の病院を検討しました。お勧めされた、東京にあるクリニックに行ってみたんですが、治療にかかる具体的な金額を教えてもらえなかったんです。技術的な話も、うちは最先端の技術なんで、と言って詳しい説明がない。
難しい話でも、簡単にわかりやすく説明をして、お金を払う人の同意を取ってすすめていくという、ビジネスでは当たり前のことが、不妊治療に関してはしっかりなされていない病院もある。僕の感覚としては、不妊治療がブラックボックス化してしまっているようにも感じます。
だから、自分たちが誤った決断をしないよう、患者の立場からしっかり調べて、わからないことは医師に直接聞いて、という基本的な姿勢が大事だと思いました。
医師は、一番知識もあって症例もある。なので、直接質問したり、コミュニケーションをとらないのはもったいないと思うんですね。民間療法的なものや漢方もいいですが、まずは医師の話を聞くのが一番だろうと私は思っているので。
論理的に考えることも大切
― 有名な病院だと、通っている人も、そこに通えているのだから安心。たとえ治療の詳細がわからなくても、いくらお金がかかっても、というように、だんだん感覚が麻痺してきてしまうという話も聞きます。その辺り、石井夫妻は石井さんがビジネスマン感覚で、治療方針や金額を冷静にジャッジされているようにお見受けします。女性だと感覚的に判断してしまいがちだったりしますよね。
留衣 そうそう、彼はビジネス担当(笑)。
石井 でも彼女は彼女で、僕から見たらけっこうスピリチュアルっぽいこともやっていますけどね。体を温めるとか、あと、なんだっけあのお茶?
留衣 ああ、ルイボスティー(笑)。でも、気休めかもしれないとしても、いいだろうって言われることはとりあえず後悔しないようにやってみて、っていうのはありますよね。冷え性だからダメなんじゃないかとか、お酒ばっかり飲んでたからダメなんじゃないか、とかそういうのはやっぱりちょっとよぎってしまいますし。
石井 彼女の気持ちは分かるし、病院以外でもできることを全部やるっていうのはいいんですけど。かたや専門家の意見を聞いたり、論理的に考えることも大切だと考えています。
後になって悔やまないよう、今できることを最優先に
「もっと早く体外受精をしていたら」という気持ちも、ある
― 今後はどのように治療をすすめていかれるご予定ですか?
留衣 また採卵を試みようと思っています。
石井 東京で採卵できるだけして、もう採卵できなくなったら岡山にある受精卵を戻して、というのが一番理に適っているかなと話をしています。彼女ももう43歳になっているので、少しでも早いうちに採卵できたらと。
留衣 高齢になればなるほど、出産時の母体の危険もあるだろうと思います。産んでから育てていくことも考えると、私の想いとして、卵をおなかに戻すのもそんなに高齢になってからでは不安な気がするので、なるべく早めに。
石井 さかのぼって考えると、2年くらい前に治療を始めたとき、初めから体外受精をしていたらそこで妊娠できていたかもしれないという気持ちもあるんです。年齢のことを考えると、タイミングや人工授精を長く続けるよりは、相対的に妊娠確率の高い体外受精をはやく始めたほうがいいと、僕は同じような境遇にある方に伝えたいかな。
留衣 そうですね。自分たちの実感から言えば、20代や30代でも、なかなか妊娠できないようであれば早めに治療をステップアップしていくのも良いことなのも知れません。
不妊治療以外の選択肢も持つこと
石井 不妊治療を現在がんばっている、その一方で、治療が成功しない場合のことも考えなきゃいけないと思っています。養子も選択肢に入れていて、後から「こんなはずじゃなかった」ということにならないように、下調べをしっかりするというのが僕の役割だと思っています。
― いろんな選択肢を想定しながらリサーチしてくれるというのは、とても頼れるパートナーですね。
留衣 そうですね。不妊治療の話を敬遠する男性も多いと思うんですが、彼はすごく積極的に医師ともコミュニケーションを取っていて、すごく頼もしく思っています。
最初は手探りで。夫婦2人で戦略を練って、共にすすんでいく
― お話をお伺いしていると、石井さんと留衣さんで一緒に作戦を立てながらすすめているということが伝わってきます。
留衣 はい。不妊治療の話をここまで受け止めてくれる旦那さんはなかなかいないと思います。一人で決めなくていいというのは心強いですね。最初の頃から病院にもついてきてくれたので、次先生にこれを話そう、聞いてみようと2人で相談したり。私にはない視点からアドバイスしてくれたりもするので、ありがたいです。
石井 僕は元々理系のマニアックな話が好きなんですね。だから不妊治療の専門家とも、突っ込んだ話をたくさんしたい(笑)。
留衣 えっ、そういうことなの(笑)? もっとメンタル的なことだと思うんだけど。
石井 いや、これは科学だからね。でも最初は2人とも何も分かっていなかったんで、一緒に手探りで調べて、という感じでやってきました。
今、不妊治療は僕の中でかなり優先順位が高いんです。仕事も確かに重要で大事なんですが、不妊治療は今のタイミングでしか取り組めないこと。後から考えたときに、あのときもっとやっておけばよかった、ってならないように考えています。
どんな形でも、親になれる可能性がある。暗くなる必要は全くない
いつかはなりたかった、「親」というもの
― お2人と話していると、その明るさがすごく印象的です。
留衣 確かに、不妊治療って言っただけで暗い感じになっちゃうイメージありますよね。でも、風邪と同じだって私は思っているので。
― 先ほどお話の中で、養子を迎えることも検討していると仰っていましたが、お2人の「子どもを持ちたい」という想いについて、もう少し詳しくお伺いできますか。
留衣 私は小さい時から子どもが大好きで、幼稚園の先生になりたかったくらいなんですね。子どもはいつか持つだろうなと思いつつ、結婚してからと思っていたらそれが40歳くらいになっちゃって。20代は子どもより仕事、と思っていたし。30代ではそんな気持ちもなくなったんですけどね。
石井 僕は23歳くらいから結婚願望もあったし、子どもが欲しいとも思っていました。でも、そういう状況になってなかったので。
もし2人の間に子どもができなかったら、養子をもらいたいと考えています。採卵や体外受精もできるところまでがんばって、それでダメだったら養子という選択肢がある。そう考えると、どんな方法でも親になれる。暗く考える必要は全くないと思っています。
留衣 私はアメリカに1年いたことがあって、その時ホームステイ先のファミリーが韓国人の養子をもらっていたんですね。白人しかいない地域だったのに。それを目の当たりにしながら一緒に過ごして、これは本当にすごいことだなって思ったんです。引き取った両親はもちろん、周囲の人たちもすごいなって。
それを見て、養子ってこういうことなんだ。肌の色だとか、自分の子どもとか、関係ないんだと思いました。育てたら自分の子なんだって。
そんな経験もあり、養子に対する偏見もないし、逆に自分もやってみたい、というふうに思いますね。
石井 アンジェリーナ・ジョリーみたいな人もいますしね。
「子どもを持つ」ことの意味
― 少し漠然とした問いかもしれませんが、子どもを持つ、育てるというのは、お2人にとってはどんな意味がありますか?
石井 僕は、我々2人ともまだ子どもっぽいと思っているので(笑)、子どもができたら自分も大人になれるかなと思ったりしますね。
留衣 子どもを育てるって、未知の世界でワクワクします。人間ってやっぱりすごいから。その人間を育てていくって、大変だろうけど、すごくおもしろいことなんだろうと思いますね。
― お2人のコミュニケーションがとてもオープンで素敵なので、子育ても同じようにオープンに、ご夫婦で一緒にされていくんだろうなと想像しています。
石井 そうだといいですけどね。でも僕、子どもをいじくりすぎたりしちゃうかも。あれしろ、これしろ、とかしょっちゅう言うタイプかもしれない(笑)。
留衣 確かにオープンすぎるほどオープンなので、こんなこと言ってもいいのかな?と思うこともしょっちゅう(笑)。でも一人で抱え込まなくていいというのは、子育てでも大事なことだと思うので、子どもも、そんな風に育てられたらいいですね。
取材 / UMU編集部、文 / 瀬名波雅子、写真 / 望月小夜加
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