「仕事を辞めたのに、妊娠できなかったらどうしよう」ー。退職後の不妊治療、そこにある当事者の思いと葛藤について知る。

2017年に実施された、NPO法人Fineの調査「不妊治療と仕事に関するアンケートPart 2」によると、仕事をしながら不妊治療を経験したことがある当事者5,526人のうち、95.6%が「仕事との両立が困難」と回答したという結果が出ています。
このうち「仕事との両立が困難で働き方を変えざるを得なかった」と答えた人が約41%(2,232人)と4割を超え、さらにその半数、全体の約2割が「退職を選んだ」と答えていました。
やむを得ない状況とは言え、退職は収入やキャリアに紐づく大きなこと。

退職を決め、不妊治療に専念することにした当事者の方がどのような心境や葛藤に直面しているのか、リアルな声をお届けします。


*この記事では、編集部が選んだ「不妊・産む・産まない」にまつわる国内外のニュースやリサーチを、コラム形式でお届けします。


  リミットを決め、限られたお金の中で治療に専念

退職をしてまず直面する現実的な問題としてあるのは、お金のこと。人工授精や体外受精は保険外診療となり、助成金も治療費を全てカバーできるものではない上に収入や年齢の制限があるため、共働きであっても経済的に厳しいのが実情のようです。

不妊治療を続ける方たちは、退職後の医療費をどのように工面しているのでしょうか。
福祉施設で働いていた39歳、妊活歴1年の女性は、このように話します。

「今までは不妊治療のために仕事をセーブし、どちらも中途半端になってしまって……。年齢とお金と自分の精神を天秤にかけたときに、仕事を両立させようとすることでかかる自分への精神的負荷と年齢を考えて、思い切って退職し、治療に専念することにしたんです。ただ、まずは何もしていないと収入がないので、夫と相談して300万円という上限を決めました。金額でリミットを設定して、それまでは頑張ろうと思います(39歳 / 元・福祉施設勤務)

退職して収入源がなくなると、共働きのとき以上に経済的なリミットが課せられ、それによる焦燥感が増したという声もありました。
また、再就職をする時期の目処をつけるために「金額」ではなく、治療をいつまで続けるかという「時期」を設定したご夫婦もいらっしゃいました。

仕事を再開する方の場合は、不妊治療を終える時期の目安として何かしらのリミットを夫婦間で予め決めておくと、「やめどき」についての迷いが小さくなるかもしれません。

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  「妊娠できなかったらどうしよう」というプレッシャー

お金の問題など、物理的な負荷もありますが、退職することによる精神的な負荷も当然ながら続きます。
退職後、無事に子どもを授かることができた41歳の女性も、仕事を辞めて妊娠するまではかなりのプレッシャーを感じていたようです。

「流産して初めて妊娠のしくみを知りました。最初の妊娠までは基礎体温もつけていなくて、普通に暮らしていればできるもんだろうと思っていたんです。37歳以降は少なからず焦り始めて、仕事を辞めました。ただ、退職が生活改善に繋がったようで、仕事辞めた年の8月に妊娠できてホッとしました。自分自身で辞める選択肢を選んだものの、『このまま妊娠できなかったら何なの私?』と、辞めた手前、会社に対してもプレッシャーを感じていたので」(41歳 / 主婦)

 

  不妊治療は「いつ終わるかわからない長期戦」

不妊治療のほとんどは、いつ終わるかわからない長期戦、かつ、努力が必ず実るとは限らないという現実があります。周りの方の理解やケアが得られるよう、心が安定する環境を整えておくことが大切です。

少しでも負荷が減らせるようにパートナーや友人の理解・ケアを得ることや、予めお金や時期で治療を辞めるリミットを設けておくことも治療に専念するための1つの方法かもしれません。

 

(文・佐々木 ののか)