聞きなれないホルモンや薬、注射の名前。
クリニックから渡される重要書類はサイズがまちまち。
あっという間に積もり積もっていく、会計の記録ー。
マメに記録を取っておいたほうがいいことはわかっていても、なかなか継続するのは難しいと感じている方も多いのではないでしょうか。
不妊治療を経験された方たちは、どのように記録をとって、治療を進めてきたのでしょうか?
また、記録を通して、どのような変化が生まれたのでしょう?
治療を経験した方たちに聞きました。
—– この方に聞きました! —-
お名前:さとこさん(仮名・42歳)
不妊治療の内容:体外(顕微)受精
治療期間:合計10年
子ども:7歳と1歳半(双子)
*情報は全てインタビュー掲載当時のもの
不妊治療の知識を得て、しっかりスケジュール管理をするために、記録をつけ始める
ーー不妊治療は、何歳の時からどのくらいの期間、されていましたか?
29歳で治療を始めて、一人目を生んだのが34歳の時です。
28歳で結婚してしばらく子どもはいいかなと思っていたのですが、病院に行ったら排卵しにくいのがわかって。そこで診てくれた先生の紹介で、不妊治療専門の某有名クリニックに通うことになりました。
そこには1年半ほど通っていたのですが、その後セカンドオピニオンを求めに行った他の不妊治療専門クリニックに転院し、そこで妊娠することができました。
一人目の出産後は、約2年間おいて治療を再開しました。4年ほどの治療期間を経て今度は双子を授かり、40才で出産しました。
ーー治療を始めたときから、記録はずっとつけていたのですか?
そうですね。
基本的には、1周期ごとにファイルにまとめていました。採卵周期の紙を一番はじめに挟んで表紙にして、移植が終わりその結果までを1つのファイルに入れる感じで記録していました。
あとは、スケジュールや薬の管理をするために簡単に手帳にも記録をつけていました。転院前は、基礎体温なども記載して。
ーーなぜ記録をつけ始めたのか、きっかけについて教えてください。
一人目の時は、知識もあまりないところから始めたので「何が起きているのか知りたい」という気持ちが一番強かったように思います。
自分の体に合う治療内容やそのタイミングが、記録をつけることで徐々に把握できてきたように感じました。
一人目出産後に再開したときは、子育てに加えて友人と会社を立ち上げたばかりだったので、「スケジュール管理」がなにより大事になりました。
子どもと仕事と家のことがもろもろある中に治療が入るわけですから、わりとしっかりとスケジュールを管理する必要がありました。
「クリニックの治療方針が、自分には合ってない?」記録を見返して分析、転院を決意
ーーお一人目の治療中に転院なさったということですが、何かきっかけがあったのでしょうか?
はじめに通っていたクリニックは、非常に高い体外受精の成功率で知られていましたが、方針が私の体には合っていないのでは? と思ったことが初めのきっかけです。というのも、私の場合、採卵はできても受精卵が育たなかったり、分割が途中で止まってしまったりということが多くて。
そこでは大体DAY14〜15(月経がきた当日から14〜15日後)に、卵子が未成熟であっても採卵する方針だったのですが、私はゆっくりと卵が育つタイプのようで、卵が成熟するのを待たずに決められた日に採る、というその方針が自分に合っているのか疑問が出てきたのです。
それも、それまでの治療内容と結果の記録から、自分なりに分析して気づいたことでした。
ーー転院して、治療方針は変わりましたか?
変わりましたね。
前のクリニックでは治療方針がある程度固定化されていましたが、転院先のクリニックは「あなたの体にはどんな治療や薬が合うかわからないから、いろいろ試してみましょう」と、個々人に合わせて便宜を図ってくれるところでした。ホルモン値をほとんど重視しないところで、基礎体温も測る必要はありませんでした。
治療の内容と結果の記録を医師と共に見返して、「次はこうしてみよう」と方針を一緒に決めることもありました。
ーー医師とのコミュニケーションに、記録が役立ったということですね。
そうですね。
記録を見返しながら、私もだんだんと自分に合っている採卵方法がわかってきたと感じたのです。卵はこのくらいの日数でこのくらいの大きさに育つ、という傾向が把握でき、未成熟卵を採るのではなく、成熟するまで待ってから採卵する方が移植につながりやすい、ということもわかってきました。
そのことを医師に共有し、私に合う治療法を共に探っていきました。
「できることはやっている」という気持ちから、精神的にも安定
ーー今回はダメだった、よかった、と一喜一憂するのではなく、記録に基づいて結果を客観的に分析されたんですね。
はい。例えばホルモンの値が悪いとか卵の質が悪いとか、そうしたことは自分の努力ではどうしようもありませんから、自分の努力の及ぶ範囲でできることについてはしっかりやろうという気持ちでいました。
治療や自分の体のタイプについて詳しくなってきたことや、「できることはやっている」という気持ちから、精神的にもそこまでアップダウンすることが少なくなってきたように思います。
医師にも、自分の「感覚」だけを頼りに相談するのではなく、記録を一緒に見返しながら、「今回はこの治療をして、この結果だった。前回はこうだった。ということは、次はこれを試してみたいけれど先生はどう考えますか」など、具体的な作戦を共に練ることができました。
自分の気持ちを奮い立たせる意味でも、賢く治療を進めていくという意味でも、記録をとっておくのはオススメです。
私は特に、「結果に一喜一憂しない」「人と自分を比べない」ことを大切にしていました。
冷静に自分の体質や傾向を把握することができれば、前向きに治療と向き合えるのではないかな、と思います。
(取材・文/瀬名波 雅子、写真/内田 英恵)