2018年、ライターである筆者・若林は33歳で「PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)」と診断されました。
著者はもともと子どもがほしくないと思っていたのですが、「産まない」から「産むことができないかも知れない」という意識の変化により、不妊治療をしたほうがいいのではないか、という焦燥感にとらわれます。
子どもをもつこと、不妊治療をすることを女性が自分の意志で選ぶためには、どのようなことが必要なのでしょうか。多様性を認める社会になってほしいという気持ちをこめて、自らの経験談を語ります。
*この記事は、【ミレ二アル世代コラム】と題して、等身大の30代が「産む・産まない」について思うこととモヤモヤ、意見、願いなどをコラム形式でお届けする、新シリーズです。
「子どもを産まない」から「産めないかもしれない」という、意識の変化 ~33歳、PCOSと診断される
私が最初にPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の診断を受けたのは2018年のことです。
生理が来る頻度が少なくなっているという意識はあったのですが、親しみのない病名を告げられ首をかしげていると、医師からは続けて、「子どもを望むならすぐに不妊外来に通ったほうがいい」と伝えられました。
当時私は33歳で、五つ年下の彼(現夫)と、人生二度目の結婚をしようと考えているときでした。それにも関わらず、PCOSという診断を受け、まず私の心をよぎったのは、「子どもを産まない理由ができた」という不謹慎な安心感でした。
振り返ると、「子どもをもたない人生を歩むのだろうな」と漠然と思っていたのは、幼少期からのことです。思春期を過ぎてもその気持ちは変わらず、友だちに話すと、「変わっているね」と言われたのを覚えています。
1歳で両親が離婚し、6歳のとき母が再婚しました。実父と過ごした記憶は完全になく、通っていた保育園にも母子家庭の子どもがたくさんいました。
「夫婦と子ども」という絵図は、私にとっては身近なものではなく、私の考え方の根底にも、それがあったのかも知れません。
医師にPCOSだと告げられ、「今、自分の出産についての意識が、“産まない”から“産めない”へと変わったな」と感じました。
PCOSとは何か。不妊との関係は、年齢によっても差が出る?
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)とはいったい何なのでしょうか。周りに聞いても、ほとんどが「知らない」と言います。
島根大学医学部産科婦人科によると、PCOSとは、“卵巣で男性ホルモンがたくさん作られてしまうせいで、排卵しにくくなる疾患”だそうです。
さかのぼると20代前半の頃、初めて婦人科で内診を受けた際、医師から「無駄になっている卵子があるが、まだ若いし、不妊とまではいかない」と言われました。「PCOS」とそのときははっきりとは診断されませんでしたが、兆候は出ていたのかも知れません。
20代後半から32歳までは、二年に一度、子宮頸がん検診を受けるようになりました。すべて「異常なし」という結果でしたが、生理不順や不正出血は始まっていて、三か月生理が来ない時期も度々ありました。
そして33歳、PCOSの診断を受け、妊娠を望むなら不妊外来、望まないなら投薬治療という二択の道を選ぶよう求められます。20代の頃は言われなかったことでした。
図では加齢による卵子の数の変化が示されていますが、PCOSについても、“PCOSの排卵障害は年齢とともに進み、月経周期はどんどん長くなっていく傾向にあります”(聖マリアンナ医科大学病院 生殖医療センター)とある通り、加齢との相関性があるようで、私の場合もこの傾向に該当しました。
当初はそこまで妊娠へのモチベーションが高くなかったのと、無月経が続くと骨が弱まり、将来的に骨粗しょう症になる危険がある、と医師に言われたのもあり、いったん投薬治療を開始することとしました。
処方されたのは中容量ピルです。十日間続けて服用し、その後一週間ほど待てば生理が来る、という話で、確かに生理は来るようになりましたが、投薬中、後述する副作用にも悩まされました。
現在、どのくらいの女性がPCOSになっている?
一般的に、「ピル」は避妊したいときに使うものだという認識が広まっていると私は感じていました。私自身もPCOSの治療にピルを使うとは考えていませんでした。
「無月経で排卵障害を患っているから、ピルを服用している」と言ってもなかなか周囲からの理解を得られません。「子ども、欲しくないの?」「避妊以外でピルを使うことってあるの?」私の周りからは、そのような返事ばかりが返ってきます。
前述した島根大学医学部産科婦人科のPCOSについての情報を振り返ると、“女性の20〜30人に1人”がPCOSであると書かれています。決して少なくはない数です。
“無月経や月経不順、にきび、多毛、肥満”が症状として出ることが多いそうですが、私の場合は月経不順が前兆として表れ、無月経になりました。にきび、多毛、肥満は自覚症状はなかったので、すべての人に同じ症状が該当するわけではなさそうです。
このPCOSをきっかけに、不妊 外来への通院を開始するか、もしくは子を産まない人生を明確に決断するか、少なくとも現時点では、私の手に選択権があるように思われます。
わたしはどちらを選ぶのだろう。
33歳の私は、投薬によってやっと訪れた生理があっという間に去っていくのを感じながら、自分が選択しなければならないことをその時はまだ、他人事のように感じていました。
ピルの副作用
20代の頃に避妊を目的として低用量ピルを飲んだことがあったので、生理を起こさせるために中用量ピルを処方されたときは「副作用はかなりきついのだろうな」という覚悟はありました。
実際に私が服薬したピルで表れる症状は、様々のようです。もちろん、全く無症状の人もいると思われます。一般的な副作用情報が書かれているサイトを見てみました。
まず5%未満の人に現れるのは、吐き気や食欲不振などの消化器症状、頭痛や倦怠感などの精神神経系症状だそうです。腰痛や肩こりなどを感じる人もいるようです。重大な副作用としては血栓症がありますが、これは服用者のうち0.1~0.2%の人に表れる症状だ、と述べられています。
私は副作用が出やすい体質だという自己認識を持っていたのですが、まず悩まされたのが、日中の眠気と吐き気、倦怠感でした。
医師と相談し、夜寝る前に服用するようにすると改善されましたが、朝まで副作用が続き、電車の中で苦しんだこともありました。
最初にPCOSと診断された病院ではピルを処方されましたが、数か月後、他の病院を受診し副作用の話をすると、筋肉注射を打たれ、その後数日で生理がきました。(通常は一週間~十日程度でくるそうです)
あくまでこれは私の個人的ケースなので一般化はできませんが、聞いた話でも、病院によっては副作用がよく出る人に対し、筋肉注射で対処することもあるようです 。
不妊治療を始めるか始めないか、婦人科で選択を迫られる
話は少しさかのぼります。最初の病院で診断を受けた当時、直面した二択の道に、私は明確な意思決定ができないままでした。
このまま投薬のみで生理を起こさせるのか、それとも不妊外来に通うべきなのか。思い返すとそれは、私にとって、「子どもは望めばできるもの」と考えているように見える、“世間”との対峙を感じた瞬間でもありました。
私の周りには「不妊治療すれば子どもができるんだよね。じゃあやっておいたほうがいいんじゃない?」と軽く言う人もいました。
ここで、改めて不妊治療の実態をもっと深く知りたいと思った私は、一般的な治療について調査を始めることにしました。
一般的に、不妊治療を始めてすぐ子どもを授かる女性もいれば、十年を超える治療を続け、不妊治療をあきらめた女性もいると聞きます。
さらに、現在不妊治療をしている友だちに相談したところ、「不妊治療を始めるなら、どこまでやるのか、お金はどのくらいかけるのかあらかじめ決めておいたほうがいい」というアドバイスをもらいました。
情報が集まれば集まるほど、まさにその現実が浮き彫りになってきます。
そして肝心の「私」自身は、不妊治療という道を選んで、子どもをもつことを望んでいるのか。
PCOSの診断が下った当初は他人事に近かったこの問いも、徐々に「産まない」から「産めない」へと意識が本格的に変化していき、気づけば焦燥感でいっぱいになっていました。
自分の中でPCOSとの向き合い方についての意識が、再度変化
そうした気持ちの変遷を経た私は、不妊治療を始めなければならない、ととっさに思い、近所にある不妊外来を調べ始めました。
都内には多数の不妊外来があり、それぞれ治療方針も異なっていました。検索してもなかなか追い切れず、疲れてキーボードを打つ手を休めたとき、私は自分が自分ではなくなっているような気持ちになっていました。
二度の結婚を経てもなお、私は産まない選択をし続けて、30代を迎えたのではなかったのか。
幼少期から当然のように考えていた自分の選択した道を、「産めない可能性があるかも知れない」と宣告されただけで、「産まなければならない」と簡単に方向転換させてしまってもいいのか。
何かがおかしい、と感じ、私は不妊について、出産についての書籍を読み漁りました。5冊ほど読み終えてようやく気づいたのは、私の背中を押していたものの正体です。
国の抱える「少子高齢化」や「子どもができたら楽しいよ」という友人たちの声、老後不安…私を不妊治療へと向かわせていたものは自分の意志ではなく、「外部からの意見」だったのです。
まとめ
現在(2019年)、不妊治療をするという選択肢はいったん私の前から消え、定期的に婦人科に通い、筋肉注射をして生理を促すことを続けています。新しく通っている病院では、典型的なPCOSの症状は見られないと言われましたが、無月経ということは排卵はしていないだろう、と告げられています。
「子どもができにくい体だ」という旨の指摘を複数の医師から受けてもなお、私は自分のスタンスを最終決定した訳ではなく、「子どもが欲しくない」と周囲に断言できる段階にも、未だに至っていません。
現代、女性の生き方は多様化しています。それにも関わらず、「産むこと」「産まないこと」を女性が選ぼうとすると、「産んで当たり前」という意識が国にも世間にも少なからずあり、私の印象では、産まない選択をした女性に対して世間は不寛容だと感じることも多いです。
私はPCOSになり、不妊の可能性を指摘され、ようやく自分で自分の道を決めることの重要性に気づきました。
子どもをもつ人生もあれば、もたない人生があってもいい、すべての人がそう思えたら、どのような女性も生きやすい社会になるのではないでしょうか。
若林理央:ライター
多様化する現代において、女性の出産することへの意識はどう変化しているのか興味を持ち、「UMU」を読み始めた。その後、排卵障害と診断されたことにより、女性の生きやすい社会とはどのようなものなのか問い直したいと感じ、執筆を志願した。
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