「流産・死産・中絶」は「出産」制度の対象になる場合も。いざというときのために、知っておきたい出産制度や手当について。

みなさんは、「出産」という言葉の定義を知っていますか?
広辞苑には、「子が生まれること。子を分娩すること。」と書かれています。その言葉のとおり、出産と聞くと無事に子どもを産むことをイメージする方がほとんどだと思います。しかし制度上の「出産」には、「流産・死産・中絶」も含まれることがあります。
この記事では、制度上の「出産」を切り口とし、流産や死産などで活用できる制度について解説していきます。

 

  出産とはなにか ~イメージと制度の違い~

出産という言葉を聞くと、子どもが無事に生まれるのことをイメージすることがほとんどでしょう。しかし制度上の出産の定義は、「妊娠4ヶ月以上85日以上/妊娠12週以上)の分娩」を指します。※1
つまり、妊娠4ヶ月以上の流産や死産、中絶も制度上の「出産」に含まれるということになります。流産と死産、中絶の定義もみてみましょう。

・流産とは、妊娠22週(妊娠6ヶ月)より前に妊娠が終わること ※2
・死産とは、妊娠12週(妊娠4ヶ月)以降に死亡した胎児を出産すること ※3
・人工妊娠中絶とは、人工的に胎児およびその附属物を母体外に排出すること ※4

厚生労働省が発表した「2019年人口動態統計」によると、死産した赤ちゃんは約2万人います。出生数は約86.5万人なので、約45人に1人の赤ちゃんが死産していることになります。※5 

この数字からも分かるように、残念ながら失われる命は少なくありません。しかし流産や死産が出産に含まれることはあまり知られておらず、「産後休業や出産手当の申請をしなかった」、「制度が使えることを後から知った」という声も。もちろん流産や死産というかたちではない出産を全員できることが望ましいのですが、やむを得ず赤ちゃんを諦めなければいけない状況になってしまった場合でも、条件を満たしていれば制度を活用できるのです。

 

  出産後(流産・死産・中絶を含む)に活用できる制度や手当の概要

出産後に活用できる制度を紹介する前に、出産に関わる健康保険の適用範囲についてご説明します。
経腟分娩(自然分娩)や経済的な理由による中絶は、健康保険が適用されないため一般的には全額自己負担です。しかし、帝王切開は医療行為のため、手術や投薬費用などは健康保険が適用されます。このように出産の方法や理由によって健康保険が適用されるかどうかは異なります。※1

それでは、出産後の制度や手当についてみていきましょう。
流産・死産・中絶を含む出産後に使える制度やもらえる手当は、自治体によって独自の助成制度を設けている場合もありますが、ほとんどは国民健康保険(国保)または健康保険(健保)
に関するものです。国保の被保険者、健保の被保険者・被扶養者に分け、項目ごとに制度や手当が対象か否かを示したものが下記の図になります。

 

国保被保険者 健保被保険者 健保被扶養者 備考
出産育児一時金
(家族出産育児一時金)
条件を満たしていれば原則受給できる
出産手当金 条件を満たしていれば原則受給できる
高額療養費 該当する場合に申請できる
傷病手当金 該当する場合に申請できる
産後休業の取得 法律で定められているため必ず取得できる
社会保険料の免除
(産後休業中)
条件を満たしていれば原則免除される

健保の書類は、被保険者の事業主の証明が必要になることが多いため、ほとんどの場合、人事担当者に提出します。状況によっては、追加の添付書類や、会社独自の申請書の提出を求める会社もあります。詳しくは被保険者の所属する会社の人事担当者に問い合わせてみてください。

国保については、ご自身の住む自治体(区役所・市役所など)に相談してみましょう。そのほか、医療費控除については管轄税務署へ、医療保険は加入している保険会社が問い合わせ先になります。なお、以下8つの制度の概要は、記事執筆時点(2020年11月)の情報に基づいています。

 

1. 出産育児一時金/家族出産育児一時金
申請先:(国保)ご自身の住む自治体 (健保)被保険者の人事担当者経由 健康保険組合または協会けんぽ、共済組合など
被保険者またはその被扶養者が出産した場合、1児につき42万円支給されます。※1

2. 出産手当金
申請先:(健保)被保険者の人事担当者経由 健康保険組合または協会けんぽ、共済組合など
被保険者が出産のために会社を休み、事業主から報酬が受けられないときに支給されます。なお、退職後であっても一定の条件を満たしている場合には、支給を受けることができます。※6

3. 高額療養費
申請先:(国保)ご自身の住む自治体 (健保)被保険者の人事担当者経由 健康保険組合または協会けんぽ、共済組合など
1ヶ月にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額を超えた分が払い戻しされます。流産や死産のため帝王切開をした際など、治療にかかった費用が対象です。※7

4. 傷病手当金
申請提出先:(健保)被保険者の人事担当者経由 健康保険組合または協会けんぽ、共済組合など
被保険者が病気やケガにより会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。これは、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度です。例えば、産後休業以降にも休む場合に対象となる可能性があります。※8

5. 産後休業の取得
産後休業を取得するための届け出は不要ですが、会社勤めの場合には休業期間について事前に上司や人事担当者に伝えましょう。労働基準法の第65条に定められている通り、原則、産後8週間は就業できません。ただし6週間経過後に本人が申請し、医師が許可した業務に就くことは認められています。※9

6. 産後休業中の保険料免除
申請先:(国保)ご自身の住む自治体 (健保)被保険者の人事担当者経由 日本年金機構、共済組合など
被保険者が産後休業中に支払うべき健康保険料と厚生年金保険料が免除される制度です。※10

7. 医療費控除
申請先:確定申告を管轄する税務署
一定額以上の医療費を支払った場合に、確定申告をして所得控除(所得税の還付)を受けることができる制度です。申告者の所得税法上の扶養配偶者が出産した場合には、申告者分と合算した医療費を確定申告できます。※11

8. 医療保険
申請先:契約先の保険会社
医療保険に加入している場合には、
経腟分娩以外の出産(帝王切開など)に関わる費用が保障されることもあります。詳しくは、加入している保険内容をご確認ください。

 

  まとめ

妊娠4ヶ月以上の流産や死産、中絶も制度上の「出産」に含まれる。このことは、あまり知られていないように思います。
死産や中絶など、誰も望まないケースで出産を迎えた場合、制度や手当はその悲しみを癒すものではありませんが、一時的に心身を休ませたり、経済的な負担を軽減したりするのに役立つかもしれません。
必要な人に、正しい情報が届きますように。

 

「働きながらの流産・死産」を経験した女性32人へのアンケート取材記事はこちら

<参考>

※1 協会けんぽ「出産に関する給付」
※2 公益社団法人 日本産科婦人科学会「流産・切迫流産」
※3 厚生労働省 eヘルスネット「死産」
※4 公益社団法人 日本産婦人科医会「母体保護法」
※5 厚生労働省「2019年人口動態統計」
※6 協会けんぽ「出産で会社を休んだとき」
※7 協会けんぽ「高額な医療費を支払ったとき」
※8 協会けんぽ「病気やケガで会社を休んだとき」
※9 厚生労働省「働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について」
※10 日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が産前産後休業を取得したときの手続き」
※11 国税庁「No.1124医療費控除の対象となる出産費用の具体例」

(文・中山萌/UMU編集部)