体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)を行う際、排卵誘発から胚移植、着床後のホルモン補充に至るまで各ステップで様々な治療法が存在します。
現在では患者にあったオーダーメイド治療を提供するクリニックも多数存在しますが、主治医やクリニックの治療方針をそのまま受け入れ、その方針のままに治療をしているカップルも、少なくないのではないでしょうか?
ただでさえ、心身への負担が大きい不妊治療。
出産というゴールに向けて、患者もより能動的に知識や情報をつけ、積極的に自身に合った治療法を選択ができれば納得感の高いものになるはずです。
IVF/ICSIで、特に女性への負担が大きい排卵誘発と採卵。今回はIVF/ICSIでの採卵個数と出生率に関する論文を2つ、ご紹介します。
*この記事では、編集部が選んだ「不妊・産む・産まない」にまつわる国内外のニュースやリサーチを、コラム形式でお届けします。
採卵数が多いほど、出産率は増加する
一つ目の論文は、IVF/ICSIにおいて、累積出産率(一回の採卵で得られた卵子を、複数回移植した場合の結果も併せた出産率)は採卵数が多いほど上昇することを示した論文です。
18~40歳の1099名の女性にGnRHアンタゴニスト法(一般的に高刺激にカテゴライズされる刺激法:以降、高刺激法)にて採卵し、新鮮胚及び凍結胚移植を行いました。採卵した卵子の個数の違いによる出産率を示した結果が以下になります。
図1.高刺激法における採卵個数と出産率の関係(論文Ⅰ)
新鮮胚移植における出産率は、採卵個数が1~3個のグループ(低反応群)と比較すると、4個以上のグループでは優位に高まりましたが、4個以上のグループ間では採卵個数による優位な差は示しませんでした。
それにもかかわらず、凍結胚移植も含めた累積出産率は、採卵数とともに増加する結果となりました。
採卵数が少ないと妊娠率は低いの?
二つ目の論文は、クエン酸クロミフェン(排卵誘発剤、商品名:クロミッド)のみを使用した比較的刺激の少ないIVF(以降、低刺激法)の場合でも、良好な出産率を得られたことを示す論文です。
839人の女性(平均年齢:38.4±0.1歳)に、クエン酸クロミフェンを月経周期の3日目から経口投与し、排卵誘発はブセレリン(ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニスト)を点鼻スプレーの形で投与しました。
被検者の採卵個数の平均は1.5個、出産率は採卵1回で22.6%、採卵3回の累積では39.2%と、高刺激法によるIVFの「低反応~最適以下」群と同程度の出産率となりました。(図2)
図2.低刺激法における出産率(論文Ⅱ)
クエン酸クロミフェンによる刺激法は薬の内服のみであり、患者への身体的・金銭的負担が少ない一方、低刺激により採卵個数が少なくなるため、一つしか卵子が採れずその卵子で妊娠しなかった場合には、次の妊娠に向けて再度採卵を行わなければならないというデメリットもあります。(表1)本論文では、クエン酸クロミフェンのみの低刺激法によるIVFでも、十分な出産率が得らることを示しています。
「自分に合った治療法を選択する」にはどうしたらよいか
論文Ⅰは採卵個数が多いほど、一回の採卵あたりの出生率が高まるとの結果。そして論文Ⅱでは、採卵個数が少なくても、高刺激法の「低反応~最適以下」群と同程度の出生率であるとの結果を示す、という研究事例でした。
不妊治療中の当事者にとっては、「結局、高刺激法を選んでたくさん採卵したほうがよいの?それとも、体の負担が少ない低刺激法を選んだほうがいいの?」となる結果ですよね。
海外の論文を参照しているため、日本とは人種や治療方法も異なり単純に比較することは難しいですが、この違いを推察するにあたり、患者女性の年齢を比較してみます。(表2)
論文Ⅰと比較し、論文Ⅱは患者の平均年齢が約7歳高くなっています(表2 ※1)。
UMU読者はご存じの方も多いかと思いますが、女性の年齢は妊娠率・出産率に大きな影響を及ぼし、30歳を超えると女性が自然に妊娠する可能性は少しずつ低下し、35歳くらいから急激に低下します。(参考:www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa22.html)
論文Ⅱでも年齢別の出産率が示されており、年齢が上がるにつれ出産率は低下しています。(図3)
今回も、論文Ⅰの患者女性の平均年齢は31歳と比較的若かったため、高刺激による採卵において良質な卵子が得られ、その結果、採卵個数が多かった女性ほど出産率が上昇したのではないかと考えられます。
一方、論文Ⅱでは卵巣刺激をマイルドにすることで、少ないながらも良質な卵子を採卵出来た結果、高刺激法の「低反応~最適以下」群と同程度の結果が得られたのではないかと推察します。
実際に、論文Ⅰから低反応群の抽出をすると、低刺激では年齢が高くても同程度の出産率となることが示されています(表2 ※2)。
表1.高刺激法と低刺激法の特徴比較
高刺激 | 低刺激 | |
体の負担 | 高い | 低い |
経済的負担 ※採卵一回当たり |
高い | 低い |
胚凍結が出来る確率 | 高い | 低い |
胚移植キャンセル率
※採卵個数が少ないため、受精卵が成長せず移植可能な卵子が少なくなる可能性 |
比較的低い | 比較的高い |
表2.試験概要と結果の比較
論文Ⅰ | 論文Ⅱ | |
卵巣刺激 | 高刺激
月経2~3日目からFSH製剤を注射し、卵胞がある程度発育してきたらGnGHアンタゴニストを注射 |
低刺激
月経3日目からクエン酸クロミフェンを経口投与 |
排卵誘発 | hCG注射(10000 IU) | ブセレリンを点鼻スプレー |
平均年齢 | 32.8歳 (採卵個数1~3個の群)(※2) |
38.4歳(※1) |
採卵個数 | 2.3個 | 1.5個 |
出産率 (採卵1回あたり) |
21.7% | 22.6% |
図3.IVFを受けた女性の年齢と出産率(論文Ⅱ)
「採卵数が多いほど出産率が高くなる」という報告は国内外で数多く報告されており、卵巣刺激により多くの卵子を採卵する方法(高刺激法)が、グローバルスタンダードとなっています。
一方、日本では自然派志向や、不妊治療をする患者年齢層が高いことから、自然周期や低刺激法を選択する人も多いようです。各国のIVF/ICSIを受けた女性の年齢比率を見てみると、日本は他国と比較し、圧倒的に40歳以上の比率が高いことが分かります。(図4)
図4.IVF/ICSIを受けた女性の年齢(2011年)(Fertility and Sterility (2018) 110(6):1067–1080)
高刺激法がグローバルスタンダードになっているとはいえ、論文Ⅱからは、低刺激で採卵数が少なくても出産率が論文Iの高刺激の低反応および最適以下の出産率と同程度であり、高刺激によるIVFの心身の負担、金銭的負担を鑑みると低刺激を選ぶ利点は大いにあると言えます。
ただしいずれの場合も年齢は出産率に影響するため、高刺激法を選ぶか、低刺激法を選ぶかは一律に決定できるものではなく、患者の年齢・AMH(抗ミュラー管ホルモン:卵巣内の卵子数を予測する指標)やライフプラン(子どもを複数持ちたいか否か等)によって柔軟に考えていく必要があることが示されているのではないか、と思います。
このコラムが、自分自身の体やライフプランに合った治療方針の選択の一助になれば幸いです。
文 / 石動 更、協力 /三澤 知香