「子どもを産み育てる」選択をした同性カップルのドキュメンタリー映画『ふたりのまま』特別座談会 前編:変わらない日常、だからこそ際立つ社会の不条理

大切な人と子どもをもち、家族を築きたい。

その思いは、性別や年齢、セクシュアリティに左右されるものではありません。

日本にも、子どもを育てている同性カップルの「家族」はたくさん存在します。しかしその大多数が、差別や偏見を懸念し、関係性を隠して暮らしています。それがゆえに「見えない」存在になってしまい、「いないこと」にされてしまっている実情があります。

そうした家族の存在を知ってほしいという願いから一本のドキュメンタリー映画が生まれました。タイトルは『ふたりのまま』。製作したのは、子育てをしている、あるいは子どもを望むLGBTQの人たちのサポートを10年以上続けてきた一般社団法人こどまっぷの代表・長村さと子さん。

長村さんには以前UMUの対談企画で取材したご縁があり、9月20日からの新宿K’s cinemaでの公開に先立ち、UMUコミュニティのメンバーに向けた特別先行試写会を開催してもらいました。映画鑑賞後に長村さんを交えて感想を語り合った時間を、今回記事でお届けします。


【映画『ふたりのまま』概要】

同性婚が認められていない日本にも、子どもを育てている同性カップルの「家族」はたくさん存在します。しかしその大多数が、差別や偏見を懸念し、関係性を隠して暮らしています。そんな「見えない」家族のことを知ってもらいたいと4組の「子どもを育てている/子どもを望む」同性カップルの日常をカメラに収めました。

精子提供をしてもらった友人と本人の両親たちと一緒に、生まれたばかりの赤ちゃんを育てるカップル。ステップファミリーになるために同棲を始めたシングルマザーと同性のパートナーのカップル。長年不妊治療に時間もお金も心も注いできたが、様々な「期限」にプレッシャーを感じているカップル。精子バンクを通じた精子提供で生まれ、育ててきた娘がまもなく成人を迎えるカップル。

4組4様の「家族」の選択のなかにある、子どもへの愛情、子育ての悩み、未来への願い……。「ふたりのまま」の思いに耳を傾けます。


【UMUコミュニティ】

多様な人がステータスの違いで分断されず、ともにいられて、世間的には大声で言いにくい『産む〜育てる』にまつわる個人の選択や体験を、包み隠さずわかち合える場所として2021年にスタートしたUMUコミュニティ。少しずつかたちや運営方法を変えながら、メンバーが集い、オンラインでおしゃべりをしたり、読書会をしたりしています。

座談会に参加したメンバーは8人。異なる経験や思いを持つ一人ひとり、それぞれの視点からの感想を語ってもらいました。


 

 映画全体を通じて。どうして見たいと思った?どんなことを感じた?

長村さと子監督(以下、長村監督)子どもを欲しいと思っていたり、子育てをしているLGBTQの人たちを、団体として10年以上サポートしてきて、これまでたくさんのカップルと出会ってきました。でもこの社会に一緒に生きているということがちゃんと伝わっていない、見えない存在になっているように感じることが多くて、ずっとモヤモヤしてきました。

日々親として子育てをし、家庭を築いているその姿は、異性カップルと変わらない、ありふれたものです。一緒に食卓を囲み、子どもの面倒を見て、時にはちょっと喧嘩もしたり……。そういう家族の風景が同性カップルをはじめLGBTQの家族にもあることを、自然に伝えたいと思って、今回この映画を作りました。

まさに「何も変わらない」ことを感じました。以前、UMU のメンバーと観に行った『エゴイスト』という男性同士の恋愛を描いた映画も、相手を愛する気持ちや大事にする思いは同性同士でも異性間でも変わらないなと思ったのですが、今回の『ふたりのまま』も、子どもを産み、育てていく中での皆さんの思いは、男女の夫婦で子育てをしている人たちと何も変わらないと感じました。

だからこそ、同性同士であるというだけで、子どもを持つことのハードルができてしまうのはなぜなんだろう、そういう壁を取っ払っていけたらいいなとも思いました。

:映画の中で、不妊治療に対してや、育児と家事の分担に対する二人の意識の差を感じるシーンもありました。そういう差って、一般的には「男女の差」として語られることが多い気がするのですが、この映画を観たら、「産んだ(産む)人」と「産んでいない(産まない)人」の違い、つまり体験の違いなんだなと気づきました。そこは自分の先入観が覆ったような感覚でした。

一方で、「同じだなあ、同じだなあ」と思いながら観ていたら、職場に(同性のパートナーがいることなどを)カミングアウトをしていないから育休を取るのが難しいという話が出てきて。「同じ」をたくさん感じていたからこそ、「同じじゃない」状況に置かれていることが心にすごく迫って伝わってきました。

映画『ふたりのまま』より

私は不妊治療を6年ほど続けた後にやめて、今は夫婦で過ごしているのですが、不妊治療をしていた時の経験が自分の人生にすごく影響を与えているなと感じるものだったので、今は不妊治療中の人のカウンセリングなどの仕事をしています。その中で最近、卵子提供で子どもを授かりたいという人や、卵子提供で子どもを授かったという人にも出会うようになって、色々な家族の築き方があると知り、今回の座談会にも参加したいと思いました。

実際に映画を見て、皆さんも話していましたが、本当に変わらないんだなっていうところが私も強く思ったところです。性別やセクシュアリティによらず、二人の間で起こることはみんなそれぞれ違うだろうし、その二人にしかない関係性の中で築かれるものが大事なんだなっていうことをすごく思いました。

同時に、自分がこれまで見てきた世界や経験してきたことは、まだまだ狭いのだなと改めて気付かされましたし、いろいろな人の生き方にもっと触れたいとも思いました。逆に、自分の不妊治療の経験も誰かにとっては「知るきっかけ」になるものかもしれないと背中を押される感覚がありました。

:私は今回参加するかどうか、正直悩んだんです。案内文に「同性カップルで子どもを望む」って書かれているのを見て、ちょっとドキッとしてしまって。自分は偏見を持っていないつもりだけど、素直に見られるだろうかと不安がありました。でもやっぱり見てみないと分からないと思って参加しました。

そうしたら偶然にも、出演していた一人が友人でした。あの二人の話なんだなと思ったら、不安はなくなりました。

一方で、友人だとしても踏み込んで聞けないところや、もちろん知らない姿もあります。今回の映画を通じて、二人の日常のやり取りやこれまで知らなかった想いなどにも触れることができて、嬉しかったです。

今回この映画を観たいなと思ったのは、私の周りの友達や家族で同じような背景の人がいなかったからです。どういう思いを持っていらっしゃるのか知りたいと思いました。

映画の中で、同性婚などに対する政治家たちの差別的な発言についても出てきましたが、ただ子どもを持ちたいと思って、ありのままに育てている4組の方々を見て、何がそんなに違うというのか、なぜそんなに区別をしなければいけないのか、そういう政治家たちに問いたくなりました。

特に、1組の同性カップルに育てられた17歳のお子さんが、すごく堂々としていて、多様な家族の形についても自分なりの意見があって、印象的でした。ああいうふうに育ったのは、きっとお母さんたちが「あなたは望まれて産まれてきたんだ」ということを伝え続けていたり、真摯に彼女と向き合い続けてきたからなのではないかなと思いました。

一方で、私は特定生殖補助医療法案(*詳細後述)のことも知らなかったですし、自分がすごく関心が低かったことに気付かされました。だから私も、監督が話していたように、同性カップルをはじめLGBTQの家族のことを「透明にしてきた」一人なんだということを“見せつけられ”ました。”見せつけられ”たいと思っていたので、観てよかったです。

映画『ふたりのまま』より。中央が17歳のお子さん。

私は長村さんのことやこどまっぷさんの活動の概要は、過去の記事などから知っていたのですが、普段の生活の中で当事者の方から直接お話を聞ける機会がなかなかないので、今回参加しました。

映画を観ながら、社会の理不尽さみたいなものを感じるシーンに憤りや腹立たしさ、やるせない気持ちも感じましたが、一方で私も印象的だったのが17歳のお子さんです。話している姿が本当にかっこよかったですし、こういう価値観の若い世代の人が増えたら、社会はすごく良くなるんじゃないかなって思いました。新しい家族の形も見えて、希望もすごく感じる作品でした。

私は子どもたちも一緒にいる空間で、イヤホンをつけて観ていたのですが、子どもたちから「何を観てるの?」と聞かれて少し説明すると、「女の人は全員子どもができるの?」と聞かれたんです。そうじゃない人もいるよと話をしたのですが。それぞれの子どもに合わせたタイミングはあると思いますが、先入観があまりないうちにこうした映画を観て、様々な人の人生を知ることができるといいんだろうなと思いました。

 

 登場するカップルのストーリーから(*ネタバレあり)

ここまでは映画全体を通じての感想でしたが、出演している4組の家族のうち、特に多くの感想が集まった2組のカップルについて具体的なストーリーを紹介しつつ、参加者の声をお届けしたいと思います。ネタバレを含みますのでご注意ください。

 

=======================

<家族1>

友人に精子提供をしてもらい、生まれたばかりの赤ちゃんを育てるカップル。精子提供者のDさんは海外出身・在住ですが、日本帰国中に一緒にお宮参りをするなど、生まれた子の「家族の一員」として、必要な時にはサポートをする気持ちがあることも話しています。また、カップルそれぞれの両親も、女性二人で子どもを産み育てることに理解があり、孫の誕生を心から喜び、愛情を注いでいます。

一方でDさんは、生まれた子が日本社会でいつか必ず「いじめに遭うだろう」と言います。ハーフであることと親が同性カップルであることの2つのマイノリティ性がその理由です。いじめが起きるのを避けるのは難しいだろうけれども、その時のために自分たちが愛情をたくさん伝えて、子どもが自分自身への愛情(セルフラブ)を持てるようにしたいと話します。

=======================

映画『ふたりのまま』より。中央がDさん。

「自分を愛することを伝えたい」というDさんの言葉がすごく印象的で、メモも取りました。あのシーンは泣きそうになりました。

私もDさん、本当に素敵な方だなと思いましたし、ご両親も含めてあの家族を見ていて、とても心が温かくなりました。

さんが、生まれた子にはママ二人だけでなく、二人のご両親や彼自身など、たくさんの大人が愛情を注いでいるという、いわば「新しい家族の形」の話をしていたのが印象的でした。実際、おじいちゃんおばあちゃんたちの雰囲気も温かくて、希望を感じました。

私はDさんが登場した時にびっくりしたんです。「二人のママ」の話だと思って見ていたので、男性の存在を想像できていなかったんです。でも確かに子どもが産まれているということは、女性二人だけじゃなくて、男性もそこに関わっているんだよなと。意識が向いていなかった自分にハッとしました。同時に、さんもただ精子を提供するというだけじゃなくて、家族として関わっていて、その閉じていない感じが印象的でした。

長村監督同性カップルの場合、第三者の精子提供を受けて子どもを授かることになります。具体的にはいくつかのケースがありますが、今回映画で取り上げているのは精子バンクを利用した方法と、友人であるDさんから提供してもらったケースです。

これまでたくさんの妊活・出産をしてきた女性カップルを見てきましたが、「二人で一緒に子育てをする」ことへの意識が強すぎて、どこかドナーの存在を軽く見てしまうというか……、その人の人格や人生に対して意識が向いていないように感じることも少なくなかったんです。

だから今回Dさんのような素敵なドナーに出会えてよかったですし、映画を通じて彼の思いを当事者たちにも聞いてほしいと思っています。

 

=======================

<家族2>

長年不妊治療に時間もお金も心も注いできたものの、なかなか実らず、残る受精卵は2つ。年齢的な制約と金銭的な負担に加え、第三者の精子・卵子提供を受けての不妊治療を法的婚姻関係にある人のみに制限する法案「特定生殖補助医療法案(*)」によるプレッシャーもあり、いずれにしても「これで最後」という言葉を、自分たちに言い聞かせるように何度も口にしています。不妊治療をしている側の女性Hさんは、「自然に持てないものを欲しがる人っていうのはあまり好かれないですね」とつぶやきます。

一方で、子どもを無事に授かることができたとして、職場にカミングアウトをしていないことから、休みを簡単には取れない実情もあり、とはいえワンオペは厳しい…など議論が白熱することも。

*特定生殖補助医療法案:同法案は2025年2月に参議院に提出され、同年6月に国会会期の期限切れによって実質廃案になっています。

=======================

映画『ふたりのまま』より

長村監督同じ同性カップルでも、妊活中の人と出産した人の間には大きな壁があって、別々のテーマがあるんですよね。出産後の課題としては、制度的に家族として認められていないので、産んでいない方のパートナーが赤の他人になってしまうこと、その中でどう一緒に子育てしていくかといったことです。

一方、子どもを産む前の段階では、同性カップルで子どもをもつなんて、身勝手だとかエゴだといったことを言われます。当事者の中でも批判的な人は少なくありません。私自身も当事者、非当事者、どちらからもたくさん言われてきました。両者、本当に全然違う壁なので、どちらも描きたかったんです。

私は、10年ほど不妊治療をしましたが子どもを授かることができませんでした。今は子どものいない人生を受け入れています。Hさんの「自然に持てないものを欲しがる人はあまり好かれない」という言葉は、自分自身が思ったことはなかったのですが、欲しいものが得られなかった経験者として、ある種共感したというか、すごく寄り添いたいなと思いました。

あの一言は、私も他人事には思えませんでした。私自身、今40歳で高度不妊治療をしているからです。特にHさんが穏やかで可愛らしいキャラクターの方だったからこそ、あんなふうに感じていることがすごく突き刺さってきました。

私は子どもを一人育てていますが、亡くなった子どもも一人います。さんのあの言葉はずっと残っていて、特に「自然に」ってところが引っかかっています。自然ってなんだろうって。それはもしかしたらさんが、自分たちの存在が不自然だと思われていると感じているのかもしれないなと思いました。

最初に全体の感想で皆さんが話していたように、私も、異性愛者だから同性愛者だからとかじゃなくて、同じだなぁと感じるところが多かったんですが、一方で、「同じじゃない」ことの理不尽さを強く感じたのが、このカップルでした。Hさんが、私も不妊治療が保険適用されたら、もっとチャレンジできるのにとすごく悔しそうに話していたのが心に残っていて……。

子どもを持ちたいという気持ちも、家族として育てていけるような環境があることも同じなのに、不利益を被らなければならないことの社会の理不尽さをすごく感じました。

長村監督あの二人は、かれこれ10年、妊活を続けてきたんです。その過程で紆余曲折あったのですが、「これで終わりにするんだ」という覚悟はすごく重いものでした。でもだからこそ、このタイミングで撮ってもらえて嬉しいって言ってくれたんですよね。自分たちのこの10年は何だったんだろうと思ってしまわないためにも、撮ってくれるのは嬉しいですって。すごく印象に残っています。

私は子どもが生まれた後の話を二人がしていたシーンが心に残りました。子どもが生まれてから、体調を崩したときに、どちらが会社を休むかという話をしていたところですね。男女の夫婦であってもその分担って大変なのに、職場に関係性を知られていない中で理解してもらうのってすごく大変だろうなと思いましたし、自分の周りにも同じような状況の人がいるかもしれないということを全然配慮できていなかったなと気づかされました。


みんなで映画の感想を話し会った前編。

感想のなかで、異性カップルでも同性カップルでも変わらない共感ポイントがたくさん出てきましたが、今回の映画とUMUとの共通点の一つは「言いづらさ」ではないかと感じます。

UMUでは、不妊や流産、死産など、周囲にはなかなかオープンに話しにくい「産む」にまつわる経験や思いを届けています。話しにくい「内容」は違えど、「言いづらさ」にまつわる経験や思いもまた重なるところがあるのではないかと思い、ここからは「言いづらさ」について語り合いました。その内容は後編でお届けします。


映画『ふたりのまま』
2025年9月20日(土)から新宿K’s cinemaほか全国順次公開!

監督・撮影:長村さと子
編集:内田尭、長村さと子
製作・配給:一般社団法人こどまっぷ
88分/日本/2025年/ドキュメンタリー
©一般社団法人こどまっぷ

公式サイト:kodomap.org/futarinomama/


取材・文/アーヤ藍
大学在学中に研修で訪れたシリアが帰国直後に内戦状態になり、シリアのために何かしたいという思いから、社会問題をテーマにした映画の配給宣伝を行うユナイテッドピープル株式会社に入社。取締役副社長を務める。2018年に独立。映画の配給・宣伝サポート、映画イベントの企画運営、雑誌・ウェブでのコラム執筆などに携わる。日本女性学習財団発行 月刊『We learn』でコラム「社会を旅するシネマ」を執筆中。著書に『世界を配給する人びと』(春眠舎)。

写真提供/©一般社団法人こどまっぷ


\あなたのSTORYを募集!/
UMU編集部では、不妊、産む、産まないにまつわるSTORYをシェアしてくれる方を募集しています。「お名前」と「ご自身のSTORYアウトライン」を添えてメールにてご連絡ください。編集部が個別取材させていただき、あなたのSTORYを紹介させていただくかもしれません!
メールを送る