【世界を知るコラム】スウェーデンから学ぶ「子持ち様問題」解決へのヒント──労働者の声で実現した、誰にとっても“合理的な働き方”とは?<前編>

政府や企業が子育て支援を拡充するなか、子育て中の従業員が残業を控える必要が生じたり、急な早退を余儀なくされたりする場面では、業務の調整が求められることがあります。こうした状況から、子育てをしている従業員と、していない従業員の間の不公平感が強調され、SNSやメディアなどで「子持ち様問題」という言葉が用いられるようになりました。

職場内でこのような見えにくい緊張が生まれることもありますが、UMUではこのテーマについて子どものいる人・いない人500人以上にアンケートにご協力いただき、その結果を共有しながら、分断が生まれてしまう原因や分断を防ぐためにできることについて考えてきました(働く場における『子持ち様問題』のリアル)。

一方、他国に目を向けてみると、子どもの有無が職場での対立の原因とはなっていません。たとえば、男性による育児休業(以下、育休)取得率が高いことで知られるスウェーデンでは、子育ては大きなハンデにならないといいます。その理由について、20年にわたり人事スペシャリストとして同国でキャリアを積んできた、マリア・フランクさんから話を聞きました。

そこから見えてきたのは「ほとんどの人が人生のどこかで親になる」という感覚に加え、子どもの有無にかかわらず、誰もが働きやすい環境を作るための、極めて合理的な法制度や仕組みがありました──。


*【世界を知るコラム】は、海外の不妊治療事情や子育て環境、当事者の抱える悩み、もやもやのリアルを知り、日本との違いや共通点を探るシリーズです。多様な選択肢とそのあり方に目を向け、日本の抱える課題の解決のヒントも考えていきます。


 

  男性の育休取得で進んだ職場の男女平等

スウェーデンは男女平等が世界でもトップクラスに進み、世界経済フォーラムによる2025年のジェンダー・ギャップ指数では148か国中第6位に位置しています。しかし、初めからそれほど進んでいたわけではありません。約50年前には育休を取るのは母親だけで、企業はそれゆえに若い女性の採用を渋ることも珍しくなかったといいます。

「かつてはスウェーデンの企業でも、いつか妊娠して休みを取る女性よりも、その必要がない男性を採用しようという傾向がありました。
しかし、男性も育休を取得するようになった今、採用にあたってジェンダーは以前のように気にされなくなりました。男性の育休取得の意義は大きかったと思います」

大学で労働法を中心に人事を学び、20年間、スウェーデンで人事の経験を積んできたマリア・フランクさんはそう言います。現在は国立大学で人事パートナーを務め、学部長などの管理職に人事上の問題をアドバイスしています。マリアさん自身、二人の子育てを経験し、パートナーとそれぞれ育休を取得したそうです。

スウェーデンでは1974年に育児休業保険が改革され、世界に先駆けて男性も有給の育休を取れるようになりました。しかし、当初はそれでもほとんどを女性が取得し、育児や家事の多くを女性が担うという状況が続きました。パートタイムで勤務する女性も多く、90年代に入っても育休の90%を女性が取得するという状態だったそうです。

そこで男性による育休取得を促進すべく、1995年に再び制度が改革され、「パパ・クオータ(割り当て)」が設けられました。給付日数のうち30日ずつは、それぞれ父親か母親しか受給できず、少なくても1ヶ月分は父親が取得しなければ、その分の有休が消えることとなったのです。その結果、男性の育休取得率が約40%から約80%へと急増し、平均取得日数も大幅に伸びました。

「こうした変化が起きたのは、社会を維持するためには女性の労働力が必要だと社会が気づいたからでしょう。その結果、育児や家事を男性と分担する必要性が高まったのです」

2002年には育児休業給付日数が30日追加され、パパ・クオータは60日に延長されました。

「20~30年前は多くの母親がパートタイムで勤務し、より多くの育児を担っていましたが、今は女性も男性と同等のキャリア形成を当然に望みます。
私たちも子どもが小さい頃は夫とともに一時的にパートタイムで勤務しましたが、数年後に二人ともフルタイムに戻りました。一時的に労働時間を減らしても、その後週40時間に戻す権利は法律で保証されており、子どもが小さい数年間だけ労働時間を減らす人は多いです」

長いキャリアの中でフルに働く時期もあれば、ペースを落とす時期があってもいい。自分の意思で働き方を選び、状況に応じてフルタイムと緩やかな働き方を行き来できることは、子育てをしながら仕事を続ける鍵となりそうです。

一方、パパ・クオータが延長されても、女性が育休の大部分を取得するという状況は続いたため、2018年には男性しか取得できない日数がさらに延長され、90日となりました。2022年には、1日でも育休を取得する父親の割合は90%に達したものの、男性が取得可能な育休のうち実際に取得している日数は約30%にとどまり、頭打ちとなっています。育児を二人で平等に担えていない状況が、スウェーデンでは問題視されています。

しかし、育休の取得が男女ともに社会に定着したことで、職場における育児の捉えられ方が変わったとマリアさんはいいます。

スウェーデン社会には『ほとんどの人が人生のどこかで親になる』という共通認識があります。共働きが前提で、誰かの世話をしながら仕事をすることを前提に社会制度が設計されているのです。
子育てが個人のキャリアに影響を与えることはいまだにあるものの、職場でも育児は個人の問題というよりも、働く上で当然のものと捉えられることが多いです。最近、従業員エンゲージメント調査をしたのですが、子育てを理由に同僚を責める傾向は特に見られませんでした」

 

Photo by José Jóvena on Unsplash

 

  厳しい労働時間制限と、管理職による業務調整

子育てがハンデにならない背景には、残業できる時間が厳しく制限されているというのも大きいとマリアさんはいいます。労働時間は基本的に週40時間、残業は年200時間まで、年間最低25日の有給休暇付与が法律で定められています。さらに時間外労働は業界ごとの労働協約でより厳しく制限されているため、頻繁にはできません。そのために適切に計画するのは管理職の責任と認識されています。

「スウェーデンでは長期の育休を取得する社員がいれば、通常、男女を問わずに代替となる要員が確保されます。
そういった人材を確保できない場合、育休を取る人の担当業務自体をしばらく停止することもありえます。
その仕事をチーム内で分担することもあるかもしれませんが、限られた時間で対応すべき業務の優先順位を定め、従業員の仕事量を調整するのは、管理職の仕事です」

スウェーデンでも短期的な業務量増加の場合などには、同僚同士で互いに支え合うこともあるそうです。しかし、従業員が欠けても、自動的に同僚の仕事が増えるわけではないのです。日本では従業員の育休取得・時短勤務に伴う代替要員が入ることもありますが、余裕のない現場では、その分、同僚に負担がかかることが多いのも現状です。

そもそも残業がほとんど認められていないスウェーデンでは、誰しも時間通りに仕事を完了させなくてはいけないため、同僚の仕事をカバーするにも限界があるのです。

「スウェーデンの勤務時間は通常8時から16時30分です。ミーティングは16時以降には組まれず、ほとんどの人は17時までに退社します。誰もが仕事への集中力を維持するために休憩や趣味の時間が必要ですし、早く帰るべきなのは親だけではありません。
私の組織では全員のワークライフバランスや『回復時間』について議論しています」

2000年以降、仕事の量やプレッシャーなどの問題を理由に、特に女性労働者の間で、ストレスに起因する病欠が増加し、働けなくなる人が増えました。そのため、2015年、政府は企業に従業員が心理的な健康を保てるよう義務付け、企業は労働者の仕事量を調整し、労働時間計画を立てることが求められるようになりました。

 

  専門的だからこそ、同僚に頼めない自分の仕事

スウェーデンなどのヨーロッパの国々の職場では各従業員はジョブ型で雇用され、専門性に基づく業務と役割をそれぞれ明確に持っています。特にホワイトカラーのナレッジベースの職種では業務が細かく専門化されているため、個人がその成果に対する責任を負うことが多くなります。仕事が専門的であるがゆえに、本人の裁量で進めやすくなる一方、多くの日本の会社のように課や部といったチームで責任を持ち、カバーし合うということは少なくなります。

「つまり子どもの用事で早退したとしても、その分の調整は本人の責任です。たとえば、私も最近、子どもの学校での面談のために1時間休みましたが、その分、別のときに1時間多く働いて調整することになります。
急に早退するからといって、その仕事を他の人には渡せないのです」

自分の穴は自分で埋めるという、この徹底した個人主義が、逆説的に同僚との良好な関係を維持する鍵となっているのかもしれません。

「多くの企業で求められるのは、担当業務を効率的に期待通りこなすことで、それにかける時間は週37時間でも42時間でもよいのです。
ただし、
労働時間は基本的に週40時間と定められています。小さな子どもがいる親は残業できないことが多く、仕事をより効率的に終わらせる必要があります。仕事が溜まることもありますが、何とか効率的にこなすしかないのです。
予期せず休まなくてはいけなくなり、どうしても期限通りにこなせないときにはマネージャーと相談し、業務量を調整してもらう必要もあるでしょう」

子どもが体調を崩したために、親のどちらかが何日も仕事を休まなくてはいけないこともあります。しかし、その分は有給とも本人の傷病休暇とも異って扱われ、社会保障庁から給付金が支払われる「VAB(子どもの看護休暇)」という一時的な制度を使うことになります。「子供の体調不良は社会保障でカバーする」という認識のもとに作られたこの制度によって、親は過度な罪悪感を感じずに仕事を休めるそうです。

「重要なのは、個人の責任とチームの責任のバランスでしょう。たとえば、新人であればこなせる業務量が限られるので、初めは同僚がカバーすることも多くなります。でもそれも一定期間だけでしょう。
こうした個人とチームの責任のバランスは職種によっても異なります。たとえば、医療や教育などのエッセンシャルワークであれば穴を空けられないため、突然誰かが働けなくなった場合、他の誰かが少し労働時間を増やして追加シフトに入ることになるかもしれません。
しかし、それもすぐ限界に達するので、調整できない場合、時間で雇える代替人材を外部の派遣会社を通じて呼ぶことになります」

個人主義のスウェーデンでは、自分の仕事を人にやってもらうことは簡単にはできません。しかし、それゆえに周囲の従業員に無理を強いない合理的なやり方が、現場の疲弊や余計な対立を防いでいるようです。

Photo by Anastasia Shuraeva, Pexels


男性の育休取得が進んだことで、職場における育児の捉え方や、働き方そのものが変わってきたスウェーデン。そこにあったのは、子育てを特別な事情として扱うのではなく、「多くの人が人生のある時期に直面しうるもの」として制度やマネジメントの在り方を、時間をかけて整えてきた積み重ねでした。

一方で、こうした合理的な仕組みは、初めから完成していたわけではありません。では、どのようにして社会や職場は変わっていったのか。続く<後編>では、その背景にあった労働者の声と、変化を後押ししてきた働きかけに焦点を当てていきます。そこには、いまの日本社会にも活かせるヒントがあるはずです。


 

インタビュイー:マリア・フランク
大学で労働法を中心に人事を学び、スウェーデンで約20年間人事の経験を積む。
現在は国立大学で学部長などの管理職に人事上の問題をアドバイスする、人事パートナーを務めている。

 

 

インタビュー取材・執筆:駒林 歩美
ドイツ在住ライター。ドイツとデンマークでの自身の不妊治療経験についてUMUで寄稿したのち、子どものいない人生を選択し、夫と猫とともに暮らす。その後、ヨーロッパでの子どものいる暮らし、子どもを持つことなどについてUMUで発信。

Linked ininstagram


\あなたのSTORYを募集!/
UMU編集部では、不妊、産む、産まないにまつわるSTORYをシェアしてくれる方を募集しています。「お名前」と「ご自身のSTORYアウトライン」を添えてメールにてご連絡ください。編集部が個別取材させていただき、あなたのSTORYを紹介させていただくかもしれません!
メールを送る