【世界を知るコラム】スウェーデンから学ぶ「子持ち様問題」解決へのヒント──労働者の声で実現した、誰にとっても“合理的な働き方”とは?<後編>

制度が整っている国、と聞くと、どこか遠い話のようにも思えます。しかし、<前編>でお伝えしたように、”誰もが働きやすい環境”を作ることを目指すスウェーデンの変化は、行政が一方的に作り上げたものではありませんでした。働く人たちの声や、目の前の違和感を見過ごさなかった積み重ねが、少しずつ社会の形を変えていったのです。

<後編>では、その歩みを支えてきた労働者の声と働きかけに焦点を当てます。子育てをめぐるすれ違いを“誰かの問題”にしないために、社会や職場は何を選び取ってきたのか。そのプロセスをたどりながら、スウェーデンの事例を手がかりに、いまの私たちにもできる「子持ち様問題」解決のヒントを探っていきます。


*【世界を知るコラム】は、海外の不妊治療事情や子育て環境、当事者の抱える悩み、もやもやのリアルを知り、日本との違いや共通点を探るシリーズです。多様な選択肢とそのあり方に目を向け、日本の抱える課題の解決のヒントも考えていきます。


  改善をもたらしてきた労働者の働きかけ

合理的なスウェーデンの仕組みは初めから完成していたわけではなく、長い年月をかけて試行錯誤の末に、徐々に作り上げられてきたものです。そこにあったのは、労働者からの継続的な働きかけと、政府による明確な意図を持った政策の積み重ねだといいます。

スウェーデンでは労働組合への労働者参加率が70%以上と高く、労働組合は産業ごとに団結し、雇用主団体に対して賃金上昇だけでなく、残業時間制限など、ワークライフバランスの実現に向けた労働条件の改善を求めてきました。

「産業ごとに団結した労働者団体が、雇用主団体と協議して決定する業界協約は、基本的に中小企業にも適用されます」

日本では、資源が限られる中小企業では改革できないと指摘されることがあります。しかし、スウェーデンでは各企業は業界で定められた最低限のルールに従う必要があるため、企業規模による格差は少ないのです。

さらに、業界別の労働組合を束ねる労働者組合連合は、政府の法案に対しても意見表明し、政策に影響を与えてきました。特に、ワークライフバランスの改善、パパ・クオータの導入・拡大については、女性の構成員も多いTCO(The Swedish Confederation of Professional Employees / ホワイトカラー専門職労働組合連盟)が制度改善に向けて大きな役割を果たしてきました。[1]

男女が平等に働くためには、育児も男女で分担する必要が出てきます。家族内での分担にまで政府が干渉すべきではないという人もいましたが、個々の自発的な努力だけで変えられるのは一部だけです。男性が育児をするのが常識となるまでは、法律で強制力を持たせ、道筋をつける必要があると思います

TCOはかつて、地域別・特性別の男性の平均休暇取得状況をまとめた「パパ指数」を発表していました。データ化して男女平等がいまだに実現していないという現状を、社会に示してきました。労働者団体自体が自身の働きかけによって世論を形成してきたのです。

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  ストレスをためがちな管理職

しかし、労働者の働き方が改善される一方、大きな責任を持つスウェーデンの管理職は、より強いストレスにさらされていることも問題視されています。労働時間制限は管理職には適用されないため、長時間仕事をする人も多いのが現状です。

 「管理職は育児と仕事を両立させるのは難しいと思います。家事代行サービスやベビーシッターなどの外部サービスを利用している人が多いようで、そういうサービスが今成長しています」

企業健康サービス会社ファルクが、2023年にスウェーデンの管理職約4,200名を対象に調査したところ、36%が健康リスクを招く可能性のあるレベルのストレスを抱え、半数がリラックスするのに苦労していると回答しました。従業員を対象とした同時期の調査では、ストレスを感じていると答えたのは30%で、管理職のグループがよりストレス状態にあることがわかります。現代の管理職は上層部と従業員双方から多大な要求とプレッシャーを課せられ、十分に休めていないと、同調査では分析されています。[2]

一方で、近年は、経営層や管理職でも育休を取得する男性は増えているそうです。そうした動きはポジティブにも捉えられています。

「男性管理職による育休取得には、年配世代からは批判的な声があるのも事実です。世代間の価値観の違いはありますが、それも時間の経過とともに、減っていくでしょう」

ただ、管理職の育休取得は、他の人のキャリアアップの機会になると考えられるようになってきています。
管理職が不在の間、社内の誰かが代わりを務めることが多いのですが、そうすることでいつもと違う職務経験を積め、次のポジションへのステップにできるからです。そう考えると、管理職の育休取得はマイナスではありません。
ちなみに、私自身も現在は育休取得者の代替要員として働いています。初めは仕事に慣れるまで周囲に助けてもらっていましたが、今ではその必要もなくなりました」

上司が抜けることで部下が育つ。育休を「職場の負担」ではなく、「人材育成のチャンス」と捉えるポジティブなサイクルが回っているようです。

Photo by MART PRODUCTION, pexels

  スウェーデンの事例から学べる「子持ち様問題」解決のヒント

  1. 育児中の人だけでなく、誰もが残業を前提に働くのをやめる
    子育て社員への配慮だけに注力すると、格差や分断が生まれてしまいます。特定の誰かではなく、全員が長時間労働から解放され、趣味や休息の時間を確保できる仕組みを作るのが重要です。
  2. 業務の優先順位をつけ、業務量の調整をルール化する
    長時間労働是正のためには、優先順位に応じてやらない業務を決めたり、外部リソースを使うなど、業務量の調整を当然のものとする考えが欠かせません。そのためには、経営層や管理職や人事が主導してルール作りをする必要もあるでしょう。各人に与えられた役割の中で、何を優先すべきなのか、同僚の仕事のカバーは本当に必要なことなのか、チームで管理職とともに判断するのが大切です。
  3. 労働者として団結して声を上げる
    働く人たち自身がワークライフバランスの改善を求めて提言をし、雇用主団体と交渉を重ねていったからこそ、労働条件や制度が改善されていった面があります。はじめから交渉という形にすることは難しくても、同じような課題を抱える人たちと集い、声を集めて改善策を提示してくことで、一人では届きにくい声も大きくなります。

  おわりに

子どもの有無による対立が職場に生まれにくいというスウェーデンの背景には、極めて合理的な制度設計と、「個人の自律」を尊重するマネジメントがあります。その土台には、働く人からの継続的な要請と、それを受け止めようとする政策決定者や雇用主の姿勢があったといえます。

こうしたスウェーデンの事例を踏まえると、日本の現場では欠員が出ても業務量が減らず、それを現場の長時間労働でカバーせざるを得ない構造そのものに課題があることが見えてきます。

日本では、2022年10月に施行された改正育児・介護休業法により、男性が育休を取得しやすくなるなど、制度面では少しずつ変化が起きています。そうしたなかで「子持ち様問題」が語られるようになってきたのも、働く親への支援が進む一方で、子どもがいない従業員の労働条件や負担が十分見直されてこなかったことが背景にあるのかもしれません。いまは、そういった歪みがようやく可視化されてきたタイミングとも言えるでしょう。

労働法や産業構造をすぐに変えることはできなくても、一人ひとりが現場で感じていることを言葉にし、声として積み重ねていく。その積み重ねが世論をかたちづくり、目の前の環境は少しずつ変わっていくはずです。

Photo by Jon Flobrant , Unsplash


[1] 高橋 美恵子 (大阪大学) スウェーデンのワーク・ライフ・バランス - 柔軟性と自律性のある働き方の実践 -(RIETI Discussion Paper Series 10-J-040 2011 年 3 月掲載)
[2] FALKCK press release Report: Managers appreciate their job – but stress and drinking habits stand out when asked about their health


 

 

インタビュイー:マリア・フランク
大学で労働法を中心に人事を学び、スウェーデンで約20年間人事の経験を積む。
現在は国立大学で学部長などの管理職に人事上の問題をアドバイスする、人事パートナーを務めている。

 

 

インタビュー取材・執筆:駒林 歩美
ドイツ在住ライター。ドイツとデンマークでの自身の不妊治療経験についてUMUで寄稿したのち、子どものいない人生を選択し、夫と猫とともに暮らす。その後、ヨーロッパでの子どものいる暮らし、子どもを持つことなどについてUMUで発信。
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