このコーナーでは、コラム形式で「不妊・産む・産まない」にまつわる国内外のニュースやリサーチを紹介していきます。書き手は、UMU編集部メンバー。専門家ではない個人の立場から、思ったことや感じたこと、読者の皆様と考えたいことなどを綴っています。
ある日、ロサンゼル市内でLyft(スマホアプリで利用する配車サービス)に乗っていた時のこと。
ひょんなことからドライバーのキャシーさん(57歳)のご家族の話になり、4人いる彼女のきょうだいのうち、両親と血がつながっているのは一番上の兄と末っ子のキャシーさんだけで、真ん中の兄と姉は養子だと聞きました。
初めの子を授かるまでに両親がとても苦労をしたので、一人目の兄が生まれた後もう子どもは授からないだろうと思い、男の子をギリシャから、女の子をメキシコから養子に迎えたところ、後になって末っ子のキャシーさんを授かった、という経緯でした。
「あの子は養子だから」が、特別視されないカリフォルニア
血のつながらない子どもたちも両親は実の子と全く同じように育て、キャシーさん自身も普通の、どこにでもある家庭だと思って育ったと。周りから奇異な目で見られることはなく、なんできょうだいなのにそんなに髪や目の色が全然違うの? と聞かれた時だけ、「だってあの2人は養子だから」と答えていたということでした(周りも「あ、そうなんだ。」という反応で終了)。
私が住んでいるアメリカ・ロサンゼルスでは、こうした話を聞くことは珍しくありません。
親と子の肌の色が違う家族もよく見かけますし、同性カップルが養子や卵子・精子提供で子どもを迎える話も聞きます。
養子縁組で迎えられた子を対象にした、日本国内の調査
2017年1月、日本国内で、養子縁組をした親と暮らす子の意識調査結果が発表されました。
養子縁組で迎えられた子どもを対象にした日本国内の調査は珍しいので、興味深く読みました。
<10~17歳の9割「養親の愛情を感じている」>
(出典:毎日新聞/2017年1月4日)
ー以下、内容抜粋
▼ 民間の2団体のあっせんで養子縁組した263世帯に昨年8~9月に調査し、10歳以上の子を対象とした質問には89人が答えた。2団体は養親に対し、子に養子縁組であることの告知を促している。
▼ 子どもに「自分自身に満足しているか」を聞いたところ、26%が「そう思う」と回答。「どちらかといえばそう思う」を加えると71%になった。「親から愛されていると思うか」の質問では「そう思う」が64%で「どちらかといえば」を足すと93%に達した。
▼ 内閣府の中3を対象にした2011年調査では、同じ質問に対する「そう思う」の割合はそれぞれ10%台と40%台。直接比較はできないが、養子縁組家庭の子の方が高かった。
家庭養育の重要性が国内のデータで示された
調査結果は今までほとんど語られてこなかった、「養子として迎えられた子」の実態を知る上で大変意義があると思う一方、何が子どもの自己肯定感に寄与しているかは、養子というだけではなく、複合的な要因があるのではないか? というのが率直な感想でした。
特別養子縁組の養親になるためには、縁組を仲介する児童相談所や民間団体、また法律が定める「条件」をクリアしている必要がありますし、縁組を成立するかを判断する家庭裁判所の面接でも繰り返し「どういう子育てをしていくか」を詳しく聞かれることになります。
産みの親が育てる場合と養親が育てる場合とでは、親になる入り口が違うこともあり、育つ子どもを一概に比較はできないと思います。
この調査の意義は、「養子」と「他の同年代の子ども」との比較ではなく、子どもが家庭で育つことによって愛情を感じながら自己肯定感を育んでいくプロセスを、国内のデータを使ってファクト(事実)として示せたことではないかな、と。
日本の養子縁組の今とこれから
現在、日本で乳児院に預けられる子どもの数は年間約3,000人。児童養護施設で暮らす子どもの数は約3万人とも言われています。対して、2015年の特別養子縁組の成立件数は、474件。
実の親が育てられない場合、国連は、特に 3 歳未満の子どもには施設ではなく家庭環境下での養育を推奨(厚労省仮訳:児童の代替的養護に関する指針)していますし、諸外国に目を転じると、家庭環境で育つことが子どもの発達に良い影響があることが調査研究で明らかにされているため、すでに家庭養育が主流になっています。しかし日本はまだ、施設での養育がほとんどです。
前述のキャシーさんに、日本ではなかなか特別養子縁組がすすまないという話をしたら、「親が育てられない子どもたちがいて、子どもが欲しいというカップルがいて、それなのになんですすまないの?」と訊かれました。
日本では実親の権利が強いこと、特別養子縁組の選択肢がまだ一般的ではないこと、血のつながりへのこだわり、などを説明しながら、私自身も「でも本当に、なんでだろう?」とモヤモヤしてしまいました。
しかし、日本でも変化は始まっています。
2016年に改正児童福祉法が成立し、原則として子どもたちには養子縁組や里親、ファミリーホーム(小規模住居型児童養育事業)などの家庭養育を提供することが明記されました(2017年4月施行)。
親が育てられない子どもの8割以上が施設で育っている現状からの、大転換です。
現実が大きく乖離している現在、どのようにその転換をすすめていくのか、注目しています。
今まで脈々と続いてきたことをいきなり変えるのは難しいかもしれません。
でも、「子どもの幸せ」を中心に議論が進んで、こうした方針が決まり、現実が動いていくのは希望です。
子どもたちが精神的にも身体的にも健やかに育つ環境をつくるための動きを、微力ながら応援していきたいと思っています。
どのような養育形態が子どもの中長期の成長発達にとって望ましいのか、また、子どもにどのような影響をもたらしているのかについて、日本財団が海外との比較研究を行っています。
とても貴重な報告ですので、ご興味のある方はぜひ。
(文・瀬名波雅子)