株式会社ライフサカスは、20代から50代の方に、「子どもをもつ、もたない、産む、産まないについてのライフプラン」に関するアンケートを実施し、132名(女性112名、男性20名)の方から回答をいただきました。今回はそのアンケート結果から、「生殖物語」―私たちがもつ何らかの家族のイメージや理想像―とその後の人生におけるギャップ、そしてそのギャップから生まれる葛藤について、明らかにしていきます。
【回答してくれた方々の基本情報】
・年齢:30代後半~40代前半を中心に20代~50代 (30代後半33%・40代前半27%・30代前半20%・40代後半10%)
・性別:女性85%・男性15%
・未既婚:既婚90% (119名)・未婚7% (9名)・事実婚 (パートナーシップ) 1.5% (2名)・シングルマザー1% (1名)・離婚1% (1名)
・子どもの人数:1人35% (46名)・2人34% (44名)・3人以上9% (12名)・ 子ども無し23% (30名)
・就業有無:仕事をしている92% (122名)・仕事をしていない (育休中含む) 8% (10名)
【結果概要】
・生殖物語は「9割」の人がもっている。
・生殖物語と現実の人生に「6割」の人がギャップを感じている。
・ギャップを感じている人のうち「7割以上」が葛藤し、悩んでいる。
・家族や周りの人と話すことで乗り越えたり、SNSやブログがサポートツールとなっている。
生殖物語って、みんなもっているの?
みなさんは「生殖物語」という言葉をご存知でしょうか。生殖心理学の用語で、もともとほとんどの人には、幼少期などから作られたなんらかの家族のイメージや理想像が備わっている、という概念のことを指します。
子どもの頃、おままごとでお父さん、お母さん、赤ちゃん、自分といった役割を自然と設定していたことに始まり、例えば「結婚して、子どもは2人で、1人が男の子でもう1人が女の子・・・」といったように、自分自身が形成する家族についても、なにかしらのイメージや刷り込みを潜在的に持っている場合が多いようです。
では、どれ位の人が実際にその生殖物語をもっているのでしょうか。
1. 生殖物語は「9割」の人に存在
今回のアンケートでは、「9割以上」が実際に何らかのイメージをもっていたことが明らかになり、多数の人が有すると考えられてきた生殖物語の存在を、ファクトとして裏付ける結果となりました。
なお、その内訳は、「8割以上」が「子どもをもつイメージ」を持ち、逆に「子どもをもたない」イメージをもっていた人は「1割以下」という結果でした。
生殖物語の理想イメージを、どのような観点で具体的にもっていたかという質問については、「子どもの人数」について考えていた人が最も多く、続いて「出産の年齢」が続きました。
中でも、23%(31件)が「30歳」を結婚や出産の一つのターゲット年齢としてあげています。また、36%(48件)が「子どもは2人欲しい」と考えていた/いると回答、14%(19件)は「男女1人ずつ」をイメージしていた/いるという結果に。
「30歳までに結婚し、子どもは2人」というイメージが、知らず知らずのうちに多くの人の中に刷り込まれてきたのかもしれません。
「自分が3人兄妹なので、子ども3人ほしいと思っていた」(30代後半女性・子ども1人)
「30歳までに結婚 1男1女に恵まれたいと漠然に思っていた」(40代後半女性・子ども1人)
「子どもをもつことが当たり前と思っていたので、いつか結婚して産むと、子どもの頃から思っていました」(30代後半女性・子ども2人)
「漠然と、結婚して子育てをするという感じ」(40代前半男性・子ども2人)
「子どもが好きでもなく、制約が増える印象があり、子どもをもつことに対しネガティブだった」(30代後半女性・子ども2人)
「子どもなどもたずバリバリキャリアウーマンとして生きていく、と思っていました」
(50代女性・子ども2人)
2. 生殖物語と現実の人生に「6割」がギャップを感じている
では、その後の人生は過去のイメージ通りに進んでいるのでしょうか…?
イメージ通りに進んでいる人は26%で、子どもの頃思い描いていたイメージと現在を含むその後の状況に「ギャップを感じている」人が、「約6割」という結果になりました。
ギャップの内容として多かったものを見ていきます。
「子どもを産む時期が自分のイメージより早かった、または遅かった」(56%・50件)
が最も多く、
「子どもの人数や性別が、思い描いていたイメージと異なった」(40%・36件)
「キャリアと産む時期に関しての悩みに直面している」(32%・28件)
が続きました。また、
「不妊に直面している」(28%・25件)、「不妊を経験し、出産した」(25%・23件)、「流産を経験した」(20%・18件)
という結果から、4~5に1人が、不妊や流産などの「産む」に至るプロセスにおける苦労やハードルを経験していることも分かりました。
一方で、
「本当に好きな人が居なければ、子どもはいなくてもいいと思っていた。拒食症になり生理も5年止まっていた経験から出来ないことも覚悟していたが、無事、本当に愛する人に出会えて子どもにも恵まれた」(40代前半女性・子ども2人)
「子どもを産んで育てるイメージが持てなかったが、ゆくゆくは産むかもしれないと漠然と思っていた。子育てにはネガティブなイメージしかなかったが、とても楽しい」(30代後半女性・子ども1人)
という、ポジティブなギャップを持つ方もいらっしゃいました。
3. ギャップを感じている人のうち「7割以上」が葛藤し、悩む
さらに、そのギャップに対して、過去、及び現在悩みや葛藤を抱えていたことがある人が、「7割以上」という結果に。生殖物語とのギャップがもたらす「負のインパクト」の大きさも、垣間見えてきました。
具体的な悩みの内容を、多かったものから順に見ていきます。
第1位:仕事との両立(53%・52件)
「想像以上に子育てが大変だった」(50代女性・子ども3人)
「周りに不妊治療や流産経験者が多く、妊活を始めてから妊娠できるまでの期間の不安と、妊娠後も安定期に入るまでの不安がとても大きかった」(20代女性・子ども1人)
「自分のキャリアが制限される」(40代前半女性・子ども3人)
「年齢との戦い」(30代前半女性・子どもいない)
第2位:体への負担(28%・28件)
「不妊治療のゴールの見えない不安の辛さ」(40代前半女性・子ども2人)
「自分とパートナーの年齢が高いことによる、第二子治療するかの迷い」(30代後半女性・子ども1人)
子どもを産む前、産むまでのプロセス、産んだ後に至るまで、体力的な面も含めた仕事との両立の困難さが明らかになりました。
特に女性は、キャリアを優先して子どもをもつのが遅くなったり、その結果、自然妊娠ができる年齢を過ぎ不妊を経験せざるを得なくなったり、「仕事が生殖物語を狂わせる要因になっている」という一面もあるのかもしれません。
第3位:自分の思い描いたライフプランにならなかった(28%・27件)
「社会からおいていかれる」(40代前半女性・子ども1人)
「心の闇がどんどん深くなる」(30代後半女性・子どもいない)
自分の思い描いたライフプランにならなかったことに対する悩みや葛藤が、心身への負担となって重くのしかかっている実態が分かります。
4. 家族や周りの人と話すことで乗り越える、SNSやブログもサポートツールに
では、その辛さや苦しみをどの様に解決したり、乗り越えようとしたりしているのでしょうか。
家族や同じ境遇の人、経験者に話を聞いてもらう、など周りの支援やサポートを受ける人が3~4割に上っています。また、不妊治療のブログやTwitter、WEB記事を読んでいる人も約4割となり、オンライン情報がサポートツールとなっていることも分かりました。一方、未だ解決していないと答えた方は2割を超え、中には「1人で耐える」、「自分で抱えた」、「仕事をやめた」といった回答も。「子どもをもつ、もたない、産む、産まない」というテーマがまだまだ社会の中でオープンに語れる空気がない、ということの現れかもしれません。
大きな決断をしたり、1人で抱え込んで心身に不調をきたしたりする前に、少しでも心の負担を軽減する場や、誰かに相談できる仕組み、オープンにしやすい社会への変化などが必要とされているのかもしれません。
5. 悩みをオープンに語れる安心、安全な場に対するニーズは「5割以上」
「子どもをもつ、もたない、産む、産まない」に関する悩みについて、安全安心な環境でオープンに語れる場に対しては「5割以上」の方から「興味がある」との回答が得られました。
「興味がある、と答えた方の理由は様々でしたが、女性は特に「自分と同じ様な環境の人がいないと1人で悩みを抱えてしまう」という実態がある様です。
また、悩んだ経験のある方は、「自分の経験を誰かの未来のために役立てたい」という意見も多数上がってきました。
<周りに同じ環境の人がいない>
「周囲に相談できる同じ環境の人がいないため、同じように考える人がいるなら、色々聞いてみたい」(40代前半女性・子どもいない)
「周りは未婚or子をもたないor世代間ギャップのある人がほとんどで、今の時代で子どもが欲しい自分の参考になる話や、意見を聞く機会があまり無いため」(30代前半女性・子どもいない)
<近しい人には話しづらい>
「子どもをもたなかった同世代が周りにいない、同世代の友達だと子どもありきで集まりになるので、もやもやする」(40代後半女性・子どもいない)
「働いていると悩みを話す機会が、自分から求めない限りなかなかない。もしくは身近すぎる人と深く話すことに抵抗がある」(30代後半女性・子ども2人)
<様々な人の意見を聞きたい>
「信頼できるフラットな情報が欲しい」(30代後半女性・子どもいない)
「幅広い視野や視点を得て、自分に合った選択ができると思うから」(50代女性・子どもいない)
<悩みを共有したい>
「人と共有し、他の人の経験を聞く事で、価値観を広げて苦しみを和らげたい」(40代前半女性・子ども1人)
「同じ苦しみを分かち合える仲間がいることはとても心強いから」(40代前半女性・子どもいない)
<後輩に教えたい、勧めたい>
「後輩たちがキャリア形成との兼ね合いで同じ悩みにぶつかると思うので、参加を周りに勧めたい」(40代後半女性・子ども2人)
「もっと早くに妊娠・出産すれば良かった。近くに教えてくれる人がいなかったので、そういったことを伝えていければと思います」(40代前半女性・子ども1人)
<自分の経験を誰かのために役立てたい>
「不妊治療や卵子凍結などの自分の経験談が活かされ、働く女性が不妊治療のために離職せざるを得なくなったり仕事との両立で追い込まれる、という社会課題を解決したいから」
(40代後半女性・子どもいない)
「自分の経験を、誰かのより良い未来の構築に向けて役立てたい」(40代前半女性・子ども2人)
アンケートの結果を通じて、生殖物語と現実にギャップがあり、多くの人がそのギャップに悩んだり葛藤したりしている現実があることを知ることができました。
UMUでは今後、「生殖物語」をテーマとして本アンケートから見えてきたこの様な現実や課題を引き続き追いかけ、随時記事にしていく予定です。
また、アンケート結果の詳細報告と共に、ご自身の生殖物語からはギャップがありながらも、現実をいきいきと歩んでいらっしゃるゲストのみなさんをお迎えし、自分らしい人生を考えるオンラインイベント「産む?産まない?もつ?もたない?~「生殖物語」で描いた“理想”の人生とのギャップを語ろう~」を、7月17日(金)に開催します。
イベントの詳細はこちら ⇒ UMUスペシャルイベント 産む?産まない?もつ?もたない?~「生殖物語」で描いた“理想”の人生とのギャップを語ろう~
今後の記事やイベントが、必要としている人にとっての気づきや考えを深めるきっかけや場となることを、願っています。
アンケート取材および編集・文 / 高橋 匡子、UMU編集部
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