【世界を知るコラム】親と暮らせない子どもは「里親」の元へ─社会みんなで子どもを育てようとするドイツが目指すもの

日本では近年の民法改正で、特別養子縁組制度が利用しやすくなり、里親制度の普及も以前より進んでいると言われます。しかし、親元で暮らせなくなった子のうち、養親や里親の下で暮らす子の割合が、欧米の先進国に比べて低いという現状があります。

そんななか、ドイツ在住で現地での不妊治療を数年経験し、養子・里子養育についても情報収集を始めていた筆者・駒林が現地の養子・里子斡旋団体の担当者に話を聞き、日本との制度や考え方の違いも含め、そのあり方について考えました。


*本記事は、【世界を知るコラム】と題して、海外の不妊治療事情や当事者の抱える悩み、もやもやのリアルを知り、日本との違い・共通点なども浮き彫りにするシリーズの第三弾です。


 

  子どもにとって最適な生育環境を考える

「うちの市では養子を斡旋することはほとんどありません」ードイツで養子・里子を斡旋しているソーシャルサービス・カトリック・フラウエン(SKF)という団体の担当者、ティナ・ロゴジンスキさんから、筆者はまずそう伝えられました。

ドイツで長く不妊治療をしても子どもを授かれず、周辺国での卵子提供などさまざまな方法を模索してきた私は、外国人として「他の親から生まれた子どもを育てる」という選択肢がありうるのかを知るため、在住国のドイツで情報収集をし始めていました。

在住しているドイツ北西部のミュンスター市には、養子を斡旋する団体が複数あったのですが、インターネット上でより情報を得られたSKFに連絡をとりました。そして2022年後半、夫婦揃ってティナさんとその同僚の女性から説明を聞く機会を得ました。

お話を伺ってみると、ドイツでは、実の親が子どもを養育できず育ての親が面倒を見ることになった場合、養子ではなく、より多くの関係者との関わりの中で育てる「里子」という制度が重視されているようです。

「この国での養子と里子の大きな違いは、まず親権が育ての親に渡るかどうかです。養子であれば、育ての親が親権を持ち、正式な『親子』ということになります。一方、里子の場合は、親権を持つのは育ての親ではなく、裁判所が任命する法的な後見人です。里親は里子の面倒を見ても、登録上は『親子』とはなりません。そしてその養育には、青少年福祉事務所、後見人、家庭裁判所など、多くのアクターが関わります。里親になることに興味を持てたら、まずそういう状態を受け入れられるか、考えてみてください」

さらに、里子の場合、養育するのは18歳までで、それまでに支給される養育手当も、それ以降の支払いはなくなるそうです。子が成人すると制度上の繋がりがなくなり、残るのは当事者同士の関係性だけになります。

なお、長期で養育する里親が見つかるまでの間、短期間だけ委託されて子どもの世話をする人もいますが、里親になれば、基本的に成人するまでの間は面倒を見ることになります。

「元の親子関係を完全に断ち切る養子縁組の形式が取られるのは、主に親の身元がわからない場合など、ごく限られたケースです。市で年に数件といったところでしょうか。生まれたばかりの子どもを匿名で置いていける『赤ちゃんドア』や、匿名で出産できる制度で生まれ、引き取られた子などです」

SKFミュンスターの里子担当ソーシャル・ワーカーであるティナ・ロゴジンスキーさん (本人提供)

ドイツ連邦統計局のデータによると、2022年、ドイツの家庭裁判所が子どもの保護のために停止した親権数は14,955件にものぼります。一方、同年のドイツでの養子縁組数は、外国からの国際養子を含めて3,280人います。そのうち親戚や継親の子となる場合を除くと1,038人にとどまりました。

1年に里子に出される子どもの数は発表されていませんが、2021年時点で里親家庭で生活する子どもは全年齢で87,300人おり、単純に割ると各年齢で大体5,000人程度いると考えられます。実親の元で生活できなくなった子が繋がりのない家庭に入る場合、里子になる数のほうがずっと多いのです。

里子になった場合も、生みの親との関わりを積極的に持つわけではありません。でも、どんな親でも、あえてその関係性を完全に断ち切るという制度設計にはなっていないそうです。

ドイツの福祉制度は「子どもが安全で良い生育環境で育つ」権利を守るように作られています。もし、子どもを養育する家庭が問題を抱えていれば、ソーシャルワーカーなどが介入し、まずはその家族が支援されます。

「たとえば16歳で妊娠した女性がいて、その女性が出産・養育を希望した場合、ソーシャルワーカーが支援に入ります。さまざまな支援プログラムがあり、母と子で支援を受けながら暮らせる施設もあります」

しかし、さまざまな専門家の評価の上で、それでも実の親が子どもに安全で良い環境を提供できない、と行政・司法が判断すれば、子どもは親から引き離され、生みの親が親権を失うこともあるとのことです。

というのは、ドイツでは、民法で「子どもは、暴力によらない養育を受ける権利を有する。体罰、精神的傷害その他の品位を傷つける措置は許されない」と定められているからです。

児童または青少年の健全な成長が危険に晒されている場合、行政はそのリスクを評価し、必要に応じて保護することが社会法で義務付けられているそうです。

「さまざまなサポート、評価を経て、子どもを育てられないと裁判所に判断された親は、親権を失います。親権が法的な後見人に渡ると、その子どもにとって最適な養育方法が、支援機関・行政・司法の協議で検討されます。その結果、家庭で育つべきだと判断された場合は、成人するまで里子に出されることになります。でも、たとえば、ティーンエイジャーで成人まで数年しかなく、新たな家庭には馴染みにくいと判断されれば、その子は養育施設に行くことになります。このプロセスの中で重視されるのは、何がその子のためになるか、ということです」

2021年のドイツ連邦統計局のデータ(※1)によると、親元で暮らせないドイツの子どもの約42%が里親の元で養育されています。不安定な環境下で育った子どもには、安定し、信頼できる人のもとでの生活が必要と考えられています。

特に乳幼児などの低年齢の子どもは、交代で働くスタッフのいる施設やグループで育てられるよりも、里親家庭で長期的に育つ方が信頼できる養育者を見つけやすく、望ましいとこの国では考えられているそうです。

※1 www.destatis.de/DE/Presse/Pressemitteilungen/2022/10/PD22_454_225.html

Credit: Oleksandr Canary Islands / Pexels

 

  重要なのは、最適な家庭とのマッチング

家庭で養育されることになった子に関しては、すぐに里親探しが始まります。里子を斡旋する各地の公的な青少年福祉事務所や民間の福祉施設は、登録されている里親希望者のなかから、子どもに合った家庭を探すことになります。

里親希望者は随時募集されており、どんな子どもを希望するのかあらかじめヒアリングされています。マッチングでは、その希望や家庭の性質と、その子のニーズとの適合が重要とされ、大勢のソーシャルワーカーの協議によって選定されます。

説明を受けに行っただけの私たちも、里子を育てるとしたら、どんな子がいいのか聞かれ、「まだ言葉が解らない赤ちゃんがいい」とだけ答えました。

子どもを受け入れる場合、我が家はドイツ語家庭ではないので、それ以上の年齢になると、子どもとコミュニケーションをうまく取れない可能性があるからです。

里子になる子ども側にも、さまざまな特徴があり、里親家庭に求められる要素もその一人一人によって変わってきます。

「LGBTQのカップルの元に里子が行くこともあります。たとえばその場合、里子が男性に恐怖心を持つ子だったら、女性同士のカップルの方が馴染みやすいのではないかと考えられます」

子どもにマッチしそうな里親候補者が見つかった場合、その家庭に受け入れの打診があります。里親候補の合意と、青少年福祉事務所の同意が取れれば、里子はその家庭に入ることになるのです。

なお、私が在住する地域には、より多くの困難を抱える子を対象としたプログラムが別途ありました。

特別なケアが必要な子を受け入れたいという家庭は、それに応募し、該当する子どもを受け入れます。必ずしも、里子になる子すべてが重いトラウマを抱えているわけではなく、そこも個人差が大きいようです。

外国人としてドイツに住む私は、わからないことが多く、頼れる人も限られる環境で、よりケアを必要とする子を自分たちが責任を持って養育することはできないと思いました。

一般に、トラウマを抱えた子を受け入れるのは、里親自身がソーシャルワーカーや医療従事者であるケースをはじめ、さまざまな家庭がいるそうですが、共通して「大きな心」を持った人たちだと、ティナさんは言います。

昨年、生後8ヶ月の女の子を里子として受け入れた、北ドイツのハンブルグ市在住のアナ・クロストンさんの場合、「妊娠中の飲酒で、アルコール障がいが出ていない子どもがいい」とだけ、希望を出したそうです。

しかし、受け入れを打診された子は、生みの母親が「妊娠中に飲酒した」と答えていた子でした。ただ、アルコールによる典型的な障がいが見られなかったことから、提案があったようです。

「アルコールをどの程度いつ摂取したのかという情報もなく、障がいがないとは確実には言い切れませんでした。でも、短期の里親としてその時点で赤ちゃんの面倒を見ていた女性の後押しもあって、この子を受け入れることに決めました。実際とても可愛くて、いい子です」

Credit: Picsea / Unsplasch

 

  さまざまな関係者と育てる「里子」

里子の養育には里親だけでなく、複数の関係者が関わることになります。子どもの学校選びや外国への長期渡航など、ある程度大きな判断には、親権を持つ後見人の合意が必要とされるようになっています。

後見人に任命されるのはソーシャルワーカーや弁護士など、子どもの福祉や権利に詳しい人です。そうやって子どもに責任を持つ大人を増やし、みんなで考えることで、より良い生育環境を確保しようとしているようです。

また、里親自身も里子の養育に心身の困難を抱えないよう、カウンセリングやサポートを受けられるようにするというのも、社会法で決まっています。福祉事務所や団体では、職員がそれぞれ一定数の家庭を担当し、必要な支援を提供するそうです。

 「他にも、里親が里子の適切なケアをできるよう、さまざまな支援があります。まず受入前には必ず研修があります。受入後も、さらなる研修機会があり、福祉団体や学校からさまざまなサポートを受けられるようになっています。問題があれば後見人にも相談できますし、ソーシャルワーカーからカウンセリングも受けられます。他の里親と繋がりを持ち、経験を共有できるような場もあります。また、通常、学校にはカウンセラーや言語療法士など、子どもの発育のための支援をする専門家がいます。心理面、健康面での問題を抱えていたら、専門家からそのケアを受けられます。里親は自分たちだけで問題を抱え込む必要はなく、みんなで解決していくので、きっと対応できるでしょう」

Credit: Clay Banks / Unsplash

アナさんの場合、今のところ、特に問題もないので特別な支援は必要ないと言います。それでも他の里親家庭との情報交換を大事にしているそうです。

また、親権を失った生みの親のなかには、子どもと関係を持ち、会いつづけることを希望する人もいます。その場合、必要に応じて、福祉団体の介入の下で接する場が設けられます。

一方、里親と関係を築くことが重視されるため、それが不適切と判断されれば、実親との関わりは最低限になります。

アナさんの場合、赤ちゃんの生みの母親は、子どもと関係を持つことを完全に拒否したそうです。そのため、接点はまったくないそうです。

 「赤ちゃんを出産したのは、16歳という若い女性だったのですが、彼女自身、親もおらず、難しい環境で育ったようです。彼女は不安定で学校もドロップアウトし、若くして妊娠したものの、帝王切開で生まれた赤ちゃんの顔を見ることすらなかったそうです。そうして、福祉事務所が、まず短期の里親家庭に養育を依頼し、長期の里親家庭としてうちに来ました」

 里親になるという選択をしたのは、自然な選択だったとアナさんは語ります。

 「私が里子を受け入れたのは、それしか子どもを持つための選択肢がなかったからです。不妊治療をして何度か体外受精(IVF)にも挑んだものの子どもを授かれず、でもパートナーは体外受精を続けるのに乗り気ではなかったんです。私は元々、里親になりたいと思っていました。2番目か3番目の子どもに里子と思っていたので、それをちょっと早めただけです。でも受け入れて本当に良かった。私たちは本当の家族のようだと感じています」

 

  「出自」を知るのは里子にとってもいい影響

ティナさんによると、親と暮らさない子も、ある程度の年齢になると、自分の実の親について知りたがることがあるそうです。

実の親とのコンタクトがずっとなくても、ティーンエイジャーになってから実の親に手紙を書いた子もいたそうです。里子として大勢の関係者が関わる里子の場合、より安全にルーツを探りやすいかもしれません。

ドイツでは、特定の事情から妊娠・出産を周囲に知られたくない場合でも、名を明かさずに病院で安全に出産できる、「匿名出産」という公的な仕組みがあります。

そのまま養育を放棄した場合でも、母親はその子が16歳になった時に本人にのみ開けられる封筒を残せるそうです。何を入れるかは母親の自由ですが、中身は他者に見られないため、自分自身の情報について書くこともできます。 

匿名出産の仕組みは、望まない妊娠でも、そこから生まれてくる子どもと、産む女性の福祉をよく考えた、きめ細やかな制度だと私は感じました。

Credit: Aditya Romansa / Unsplash

ちなみに、外国人同士の夫婦である我が家も、希望して研修を受ければ、里親候補者になれるそうです。ただ、里親を決めるのは青少年福祉事務所なので、実際になれるかはその判断によるとのことでした。

まずは私たちが長くドイツのこの地にいると約束できるかが、もっとも重要な条件になります。それは子どもが生まれた地で、そのまま成長するのが良いと考えられているからだそうです。

そして、子どもを適切に養育だけの十分な能力があり、適切な環境を提供できると判断されれば、可能性はあるとのことでした。一方、私たちのドイツ語能力も限られます。

正直、今後18年間ドイツで暮らし続ける確信が持てません。

ドイツでは里親希望者の数が必要数に満たないとのことでしたが、かたや話を聞いて、我が家が里親に選ばれる可能性も高くはないように感じました。

ただ今後、ドイツの永住権を取得できたら、里親希望者として登録することを検討しようと思います。

インタビュー取材・執筆:駒林 歩美
ドイツ在住リサーチャー・ライター。東京で外資系企業や教育ベンチャー企業に勤務した後、東南アジアで国際協力の仕事に従事し、現在は欧州事情等を日本に伝えている。
www.linkedin.com/in/ayumi-komabayashi/

 


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