胚培養士として、生命の最前線から見た不妊治療の世界。「患者さんのためにできることは全てしたい。胚培養士の技術力で、後押しできる余地がある」ー。

卵子と精子を掛け合わせ、誕生した受精卵を子宮に戻す胚に育てる「胚培養士」は、不妊治療施設にとって心臓部ともいえる存在です。しかし、これまで胚培養士の方がクローズアップされることはほとんどなく、「培養室の中の人」として漠然と認識されてきたのが現状ではないでしょうか。
今回のインタビューでは、胚培養士である川口優太郎さんに、改めて胚培養士の仕事内容について伺い、また顕微鏡を通して見える卵子の老化問題や着床前スクリーニングの課題、理想的な不妊治療の在り方、そしてそのなかで今後、胚培養士はどうあるべきか、川口さんならではの見解をたっぷり語ってもらいました。

川口優太郎 / Yutaro Kawaguchi 埼玉医科大学卒業後、総合病院勤務を経て国際基督教大学大学院博士前期課程にて生命科学を専攻。大学院修了後は、加藤レディスクリニック(新宿区)に勤務し、同クリニックの系列病院となる中国上海永遠幸婦科医院の立ち上げにも携わり、培養室の運営や現地スタッフの育成指導を行う。2019年より船橋駅前レディースクリニック培養室室長。

 


腕のいい胚培養士の見極め方

  「検卵」~「胚移植」まで一手に担う

ー まずは改めて、胚培養士さんの基本的な仕事内容について、具体的にお聞かせいただけますか。

採卵直後から胚移植に至るまで、一連の作業を胚培養士が担当しています。まずは、「検卵」といって、医師が患者様から採取した卵胞液をすぐさま受け取り、実際に卵胞液のなかに卵子が入っているかどうか顕微鏡下で確認します。

卵子が無事に存在すれば、その成熟度を判定したうえで、卵子を培養液の入った専用のディッシュに入れ、精子と掛け合せる作業、「媒精」を行います。

媒精には、卵子に精子をふりかける体外受精と、顕微鏡下で針を用いて卵子に直接精子を注入する顕微授精があります。

特に顕微授精は胚培養士の技術が求められ、いかに卵子にダメージを与えずに受精させるかがとても肝心です。その後の受精卵の成長に大きく関わるんですよね。

近年は、「紡錘体可視化装置」というものを導入し、卵子の紡錘体(広義に染色体)を傷つけないようにより安全に顕微授精を行う施設もあります。しかしながら、まだまだ未導入の施設も多く、胚培養士の腕一つで、その後の受精率や胚への発生率が変わってくるのが現状です。

無事に卵子が受精したら、そこからいよいよ「培養」に移ります。受精卵の状態によって分割胚、あるいは胚盤胞という着床する直前のステージまで育て上げ、状態のよいものを患者さんの子宮に移植していきます。たくさん卵子が採れて胚盤胞が複数ある場合は、凍結保存もします。

ー まさに不妊治療の「要」の工程を担っているのですね。近年の培養室の技術革新は、目覚ましいと聞きます。

そうですね。たとえば、受精後の胚の培養は、インキュベーターという湿度や温度、pHなどが一定に保たれた装置のなかで行います。

従来、受精卵の様子を見るには毎回、インキュベーターからディッシュを取り出さなくてはならず、その都度環境の変化にさらされるリスクがあったのですが、近年はタイムラプス撮影が可能なカメラが内蔵されたインキュベーターが開発され、培養器の扉を開けることなく、受精卵の発育過程を継時的に確認できるようになりました。

これにより、受精卵を常に一定の環境下で育てられるだけでなく、発育過程を連続して観察できるため、発育が異常な胚を移植せずにすむようになりました。

ー 「発育が異常」というのは?

通常だと受精卵は受精後に1細胞から2細胞、4細胞と細胞分裂を繰り返して段階を追って成長しますが、なかには「ダイレクト(ストレート)4セル」と我々は呼んでいるのですが、1細胞から突然4細胞になる受精卵もあるんです。
ダイレクト4セルの胚は、最終的にきれいな胚盤胞に見かけ上は育つのですが、移植をしても着床せず、私の知る限り、妊娠例は報告されていません。

これまでのように、時間ごとにインキュベーターから胚を取り出して確認した場合、ダイレクト4セルだと気づかずに「きれいな胚盤胞だから」と移植してしまうケースがほとんどでしたが、タイムラプス付きのインキュベーターでは、ダイレクト4セルになった時点で培養をストップすることができるんです。

これはあくまでも一例で、タイムラプス付きインキュベーターには他にも様々なメリットがあります。

ー それは患者さんの心身にとっても、費用の上でも有難いですね!さらに最新のものでは、自動で良好な胚を見分けるAI搭載型のインキュベーターもあるとか。ついに不妊治療も、AIの恩恵を受けるときがきたのですね。

はい。タイムラプス付きインキュベーターに、さらにAIが導入されたことで、受精卵の前核の状態や分割の早さ、胚の大きさ、細かなグレードなど、着床に影響するポイントを自動で判断でき、移植する胚の優先順位がより明確になりました。

ただ、タイムラプス付きインキュベーターは機器によっては1台2000万円と高額で、現段階で全ての施設が導入できているわけではないんです。
ですから、やはりこれまでのように、胚培養士の観察眼や技術力が問われることに変わりない、とも思っています。

ー なるほど。そこで気になるのは「胚培養士さんの技術力」なのですが、一般の私たちはそれを、どうやって見極めればよいのでしょう?

一つの手がかりですが、不妊治療を行う施設によっては、医師だけでなく、胚培養士についても経歴をホームページで出しています。
全国的によく知られた患者数の多い大手のクリニックや病院で、長年経験を積んできた胚培養士であれば、それだけ経験してきた症例数も豊富なはずで、特殊な症例も経験していますから、一般的に技術力は高いと思います。

それともう一つ、もし、通われている施設の胚培養士さんと直接話をする機会があれば、「今の年齢で、どれぐらいの確率で出産までたどり着けますか?」、「妊娠にまつわるこういったニュースを見ましたが、どうお考えですか?」といった質問を投げかけ、しっかり答えてくれるかどうか試してみるのもよいでしょう。

日頃から意欲的に仕事に取り組んでいる胚培養士であれば、熱心に勉強もしているはずですから、こうした質問にも丁寧に答えてくれるはずです。

ー 参考になります。ちなみに川口さんにとって、胚培養士としての仕事の面白みはどんなところにあると感じますか?

私は大学院で生命科学を学び、生殖行動や生殖医療に興味を持ち胚培養士になりました。今では後輩や同僚からよく「卵マニア」と言われています(笑)。
確かに、生殖に関する新しいトピックに触れたり、卵子や精子を眺めているだけで楽しくなってくるので、ある意味、マニアなのかもしれません(笑)。

培養の過程は、植物を育てるのと似ていると感じます。種から育てて花や実がなるとすごく嬉しいように、顕微鏡で卵を見続けているうちに、だんだんと卵に愛着が湧いてきて、さらに移植後、判定日に患者様のホルモン値が適切に上がればなおさらです。

「よっしゃー!」って気持ちが高ぶっていくのが、自分でも分かるんですよね。

 

卵子凍結より、若いうちに出産できる社会的支援を

  老化により「遺伝子を修復する機能」が低下

ー 少し話題が変わりますが、いま、「卵子の老化」問題が社会的に広く認知されるようになりました。実際に胚培養士の方は、顕微鏡を覗きながら、どの時点で「卵子が老化している」と感じるのでしょう?

老化の程度は卵子の見た目だけで評価するのは難しく、媒精させても受精卵が育たなかったとき、はじめて「老化しているのかな」と感じます。

胚から細胞を採取して、遺伝子の異常が細胞のなかにどれだけあるかを調べる検査があるのですが、高齢になるとその異常の割合が高くなることが、以前から言われています。それは精子も同じで、高齢化に伴い、染色体の異常が高くなると考えられています。

ただ、これはあまり知られていないことですが、卵子には元来、DNA(広義に遺伝子)を修復する機能が備わっていて、DNAが損傷している精子が入ってきても上手く修復し、赤ちゃんに向かって育っていく力があるんですね。

ところが、老化した卵子ではその修復の機能も下がってくるため、結果的に受精しなかったり、受精しても胚がうまく育たなくなるのです。

ー 治療成績に直結する、切実な問題ですね。

それはもう切実ですよ。2019年の出生率が、統計を取って以来初めて90万人を下回ったという発表がありましたが、経済的な問題に加え女性の社会進出が進み、どうしても出産を考える年齢が上がってきてしまうことが、出生率低下の一因です。

もちろん、女性の社会進出は素晴らしくどんどんすべきだと思いますが、一方で、キャリア、結婚、妊活、出産というライフプランニングを早いうちからしっかり考えるべきだと、生殖医療の現場に携わる人間の個人の見解として、切に思います。

ー 一方で最近は、未婚女性の卵子凍結にも関心が高まっています。

確かに、未授精卵子の凍結自体はおもしろい取り組みだと思います。ですが、出産というゴールを考えた場合、胚培養士の立場からすると、それほど有効性の高い取り組みではないと、私は考えます。

まずは技術的な問題で、卵子は細胞が一つのため、たくさんの細胞の集合体である胚盤胞よりも弱く、凍結の際にダメージを受けてしまうことが稀にあるんですね。それから、卵子を凍結保存しても、いざ妊娠を考える時期に、そもそもパートナーがおらず、結局活用されないという話もよく聞きます。

もちろん色々な考え方があるでしょうが、仮に20代で、結婚しているのであれば、ひとまず卵子よりも胚盤胞に育てて凍結保存しておいて、その後妊娠を考えた時点で融解し移植する、という選択肢も取りやすくなると思います。

あくまで私個人の見解としては、若い人たちが早くに結婚・出産できるような経済的な援助、産後のキャリア支援、あるいはパートナー探しを後押しする施策のほうが、少子化対策としてより有効ではないか、と考えています。

 

  「妊活サプリ」? 妊活のビジネス化に警鐘

ー 川口さんは、いち胚培養士の視点だけではなく、生殖医療・不妊治療における社会全体の動向についても広く関心や意見を持たれていますね。そんな川口さんは現在、妊活中の男女に「科学的な見地に基づいた正しい情報を提供したい」と、精力的に妊活セミナーなどで登壇されています。こうした活動をするようになったきっかけは?

はい。数年ほど前から、妊活中の女性に対しセミナーをさせていただいてきましたが、特に最近は妊娠にまつわる「正しい」情報をきちんと提供せねば、と強く思うようになっています。

というのも、参加される方は30代後半から40代の女性が多いのですが、妊娠の仕組みや妊娠のためのタイミングの取り方など、ごく基本的なことを知らない方が多いことにとても驚いたんです。

セミナーでは、「いつタイミングを取ればよいのか、考えたこともなかった」と言われることもしょっちゅうです。加齢に伴う卵子の質の低下や妊孕率の低下についても、まだまだ知らない人が多く、「ご自身の年齢における体外受精の出産率はどれぐらいか知っていますか?」と伺うと、多くの場合、とても楽観的な答えが返ってきます。

意外かもしれませんが、これだけ情報にアクセスしやすい世の中にあってさえ、正しい情報を知らない人が、非常に多い。

ですから、不妊治療の現場にいる者として、こうした基本的な生殖の仕組みはもちろん、「妊娠に至るのは決して簡単ではない」という点も含めしっかりお伝えしたうえで、どうすれば自分に最適な治療法に最短でたどりつけるか、その判断の一助になればと、セミナーにも積極的に関わるようになりました。

ー 現状を目の当たりにして、生殖補助医療に携わる立場として何とかしなければ、と思うのは当然ですね。川口さんは、最近では妊活がビジネス化し、サプリメント一つとっても、誤った情報で購入意欲を高めようとする商品が一部出回り、危機感を感じていらっしゃいます。

そうなんです。たとえば「葉酸」。生まれてくる赤ちゃんが二分脊椎症などの障がいを抱えないよう、その予防のために、妊娠を考える女性には「葉酸を摂ってください」と厚生労働省からも啓発しているのですが、世間には、あたかも「これを飲むと妊娠しやすい」というイメージで、葉酸を含む「妊活サプリ」が出回っているのを目にします。

個人の思いとして、そういった、妊活をターゲットにして患者さんをミスリードしかねない売り方をしている一部のビジネスには、怒りを覚えます。

なかには、イソフラボンやザクロエキスといった、女性ホルモンに似た美容成分を葉酸に添加して商品になっているものもありますが、これは不妊治療の成績を下げる原因になる可能性が、大いにあります。

不妊治療では、卵子を育てるため、あるいは移植した胚が着床しやすくするために女性ホルモンを良好な状態にコントロールしますが、こうしたサプリメントを摂取していると、いざ治療の際にホルモンが過剰な状態を作り出したり、あるいは抑えたいときに抑えられず、治療に影響を与える可能性が非常に高いと考えられます。

ー 特に妊活中は、「身体にいいなら、なんでも試してみよう」という心理につけこまれがちです。

もちろん、科学的な検証に基づいた有用な情報もあります。たとえば、2018年に発表された論文では、「魚介類を沢山食べたカップルのほうが、妊娠率が高い」という結果が出た、と報告(*注1)されています。

魚介類に多く含まれるオメガ3系の脂肪酸は、ヒト以外の多くの動物種で生殖機能を高めることが示されていますが、人でも同じことが言える可能性が高いことが、分かったのです。こういった科学的な検証がしっかりされている情報であれば、役に立ちますよね。

先ほどの妊娠のためのタイミングについても、そうです。もっとも妊娠しやすいのは、一般的にそのイメージが浸透している印象のある「排卵日の当日」ではなく、より正しくは、その2日前だという研究報告(*注2)が、すでにあるんですね。

同じ発信をするなら、正しい情報をもっと発信すべきだし、受け手側も情報の出所が信頼できるかどうか、確認したうえで取り入れるべきだ、と考えます。

ー そうした情報を入手し読み解く力を付けることや、そもそも自分の身体のメカニズムについて正しく理解しておくことは、その後の妊娠や出産への影響を考えるうえでは、不可欠です。社会全体でヘルスリテラシーを高めるには、どういった取り組みが必要と考えますか?

たとえば、高校生や大学生に、排卵の機能や妊娠の成り立ちなど、改めて自分の身体の仕組みについて教えたり、将来のライフプランニングについて考えるような授業を必修科目として設けるなどは、一つのアイデアとして良いかもしれません。
義務教育の過程で性教育も行われてはいますが、実際にいざ妊娠を考える年齢になったら、忘れてしまっている方がほとんどではないでしょうか。

それから、すこしでも妊活や不妊治療に興味をもったら、一番いいのは、不妊治療の施設が開催する説明会や勉強会に行くことです。体外受精を行っている病院やクリニックでは、定期的に不妊治療の説明会を開催しているはずです。

治療の方針は施設によってそれぞれですが、そうした勉強会では妊娠の成り立ちや、排卵のタイミングといった基本的な話を、必ず盛り込んでいます。そこで話される内容は必ず医師が監修していますから、基本的には信頼できるはずです。

(*注1) academic.oup.com/jcem/article/103/7/2680/5001729
JCEM(The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism)掲載(2018年)

(*注2) academic.oup.com/humrep/article/13/2/394/876199
(上記論文内のFigure.1参照)


 

LGBTの出産に対する、新たなルール作りを

  AIDや着床前スクリーニングの問題点

ー 現在は不妊治療を公表する方も多く、今や不妊治療は「隠したい特殊な治療」というものではなくなってきました。これからは、さらに多様化していく価値観やニーズに対し、生殖補助医療の技術がどう対応するか、が問われています。

そうですね。たとえば、性の多様性に関する理解が広まりつつあるので、LGBTのカップルに向けて、今後、日本でも非配偶者間人工授精(AID)のニーズがますます高まってくると思います。
AIDは一部のクリニックで行っているところもあるようですが、なかには個人で精子を提供している人もいて、金銭的な要求や感染症の問題が大きなトラブルになるケースも散見します。

個人的には、AIDが闇で行われないよう、かえって公にビジネス化したほうがよいと思っていますが、それには社会的にAIDをどこまで許容すべきかの議論が欠かせませんし、同性愛の里親を認めるかといったことも含め、人権を尊重した新しいルール作りをする必要がある、と感じます。

ー 着床前スクリーニングにも、注目が集まっています。染色体の異常を受精卵の段階で診断し、流産の確率を下げるというものですが、患者の助けになる反面「命の選別」とも言われ、倫理面での社会的なコンセンサスがないまま、技術が先走りしている印象も受けます。

実は、今行われている、受精卵の着床前スクリーニング(PGT-A)は、それぞれの染色体の数が相対的に多いか少ないかだけをカウントしているもので、確定診断ではないんです。
ヒトには、23対の染色体が、男性側と女性側の各2本ずつ、計46本存在しています。どれか特定の染色体の数が多い場合、PGT-Aによって数的な異常が検出されます。たとえば、ダウン症を引き起こす21トリソミーは21番の染色体が1本多い状態なので、PGT-Aによって、染色体が3本あるという数的異常がわかります。

しかしながら稀に、『転座』といって染色体の一部が入れ替わってしまうことがあります。有名なものにフィラデルフィア染色体と言って、22番と9番の染色体の一部が入れ替わってしまう染色体異常があり、白血病を引き起こしますが、この場合は数的な異常では無いため、PGT-Aを行っても、正常と判断されてしまいます。

また、胚盤胞には、将来、胎盤になる細胞と赤ちゃんになる細胞の両方が存在するのですが、PGT-Aは胎盤になる側の細胞のみを一部採取して、遺伝子検査します。一方、赤ちゃんになるほうの細胞は採取できないため、検査はできません。
そのため、もしそちら側に異常があっても分かりません。海外では、スクリーニングをしたのに、実際に生まれた子に障がいがあった、というケースも報告されています。

私の現時点での見立てでは、着床前スクリーニングについては、どこまで有効かと問われると、精度や金額の点を考えると、一般に普及するにはメリットよりもまだデメリットが多いのかな、と思います。精度面の向上とともに、社会全体の議論が早く進むことを願っています。

 

一回の採卵における、最適個数とは?

  個数の確保とともに、身体に負担をかけない採卵を目指す先生が増えた

ー スクリーニングの検査技術もまだまだ、完全ではないのですね。肝心の不妊治療における刺激法一つとっても、排卵誘発剤による積極的な刺激で一度に15個以上の卵子を確保すべきか、採れる卵子は少なくても、低刺激でなるべく体に負担が少ない形で採卵すべきか、それぞれに賛否両論あり、方法論が完全には確立されていない印象です。

2013年に出された論文(*注3)によると、体外受精において、1回の採卵で6~15個の卵子が採れた場合がもっとも出生率が高く、それ以上では低下することが報告されています。また、15個以上だとOHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクも顕著に上がってしまうということが示唆されています。

実は、2014~2015年までのデータをまとめたヨーロッパの最新の論文(*注4)では、1回の採卵で採れる卵の数が「9個」の場合、もっとも高い治療結果を得ることが出来るということも、報告されています。

この論文の主旨を簡単に言うと、1回の採卵で9個の卵子が採れると、治療に使える成熟卵が多く確保でき、かつ胚移植後の妊娠率や胚凍結の到達率も高く、パフォーマンスが見合うという結果が出たというものです。

仮に、強い刺激をかけてたくさんの卵子を採ったとしても、卵胞の数が多いほど中身の卵子の発育が伴わなくなっていくため、そのうちいくつが治療に使える成熟卵なのかを考えると、個人差が非常に大きいのが現状なんですね。

かたや、最近のこの国の不妊治療では、低刺激と高刺激のちょうど中間辺りの刺激法を選択して、ある程度の採卵数を目指しつつ、一方でOHSSのリスクを回避するため、あくまでも身体にも負担をかけないことを目標とする先生が増えてきた、と感じています。

ー 一回の採卵で何個の卵子の採取を目標とするかは、読者にとっても興味のあるテーマです。胚培養士としてのお考えはどうですか?

そうですね。あくまでも私個人の考えですが、日々、卵子と相対している立場から率直な感想を言えば、強い刺激をかけて取れたたくさんの卵子と、低刺激あるいは自然周期で採れた1、2個程度の卵子について、一つひとつの卵子の質を比較した場合、現場の感覚値で言うと、低刺激のほうが質が高いのかなと感じています。

ただ、だからといってたった1つの卵子にターゲットを絞る必要はないと思います。一つの周期に約1,000個もの卵胞が育っていて、仮に毎月上位1つが排卵していると考えるなら、本来淘汰されるはずの卵子だったとしても、上位10位くらいまでは妊娠できる卵子ではないか、という考え方もできるからです。

そして、その10個の卵を妊娠できるレベルにまでしっかり育てていくのが、胚培養士の仕事であり、そこに大きく個人の技術が関わってくると思っています。つまり、1個採れようが10個採れようが、結局は胚培養士が技術を磨かなければ、多くを無駄にしてしまいかねない、ということです。

ー 胚培養士さんの技術次第で最適な採卵個数が変わってくるとしたら、責任重大です。

はい。体外受精についていえば、「必要な卵子は一個で十分です。あとは我々培養士にお任せください!」と言えることが、胚培養に携わる者の究極の理想だし、目標にすべきことだと思っています。

それから、先ほどの最新論文はありながら、一度の採卵で採る卵子の数は一律に何個がいい、と言えるものではなく、その方の卵子の残存数(AMH)などによって柔軟に変えるべきものだ、とも考えます。

たとえば、まだ20代で卵巣機能も高く、AMHの値も年相応であれば積極的に刺激をかけ、余剰胚は凍結すればいいと思いますし、高齢の方でAMHの値が低いのであれば、低刺激でなるべく身体に負担をかけず、数は少なくても良質な卵子の確保を目指せばいいと思います。

患者様一人ひとりで背景や病歴が全く異なりますから、「自分がどこの施設にいけば最短で出産に至るか」を考察できるよう、正しい情報を選んでほしいし、我々も臨床の人間として、そうした情報を普及していきたいと思っています。

(*注3) academic.oup.com/humrep/article/28/10/2728/621000(2013年)

(*注4) www.focusonreproduction.eu/article/News-in-Reproduction-Oocyte-number
Focus on Reproduction( online magazine of ESHRE)掲載(2019年)

ー 本当ですね。川口さんの発信される情報のように、不妊治療施設の枠を超え、自分に一番あった施設を自分で選び取るための手がかりや相談窓口があれば、治療を受ける側もより安心ですね。最後に、川口さんの今後の目標や活動について教えてください。

一言で言うと、「患者さんにやれることを全てやってあげたい」、でしょうか。施設によって治療の進め方が違うように、培養においても卵子の成熟確認の有無、胚の観察のタイミングなど方針はさまざまです。そうしたなかでも、僕はやれることは全てやっていきたいと思っています。

特に、採卵してきた卵の成熟ステージを判断する成熟確認は、媒精方法の決定や最適なタイミングで精子と合わせるなどその後の治療成績に大きく関わる、大切な工程です。中には卵子にダメージを与えるからといって行わない施設もありますが、ダメージのリスクは本来、技術力でカバーできるものです。

こちらから提供できる技術を全て出し尽くして初めて、高い治療成績を維持できるし、たとえ結果に結びつかなくても、患者さんは「治療をやり切った」という気持ちを持てるのだと思います。

不妊治療において、胚培養士の技術力で治療を補強できる余地は、まだまだあります。だからこそ、これからも胚培養士としての技術力を磨いていきたいですし、僕だけなく、一人ひとりの胚培養士が高い意識をもって、全体的な技術力の底上げにつながっていけばいいと思っています。

そして、その一方で、「妊娠は簡単ではない」ということを啓発し、それぞれの患者様が自分に合った医師、治療方法に早くたどりついていただけるよう、その判断材料となる正しい情報をセミナーなどを通して、これからも発信し続けていきたいと思っています。

取材・文 / 内田 朋子、写真 / UMU編集部

 


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