【スタートアップ経営者対談】「不妊・産む・産まない」に向き合う人たちに、伝えたいこと~vivola角田夕香里さん✕ヘルスアンドライツ吉川雄司さん~<前編>

日本の不妊治療や妊活を取り巻く環境は、今一つの変革期を迎えています。
ここ数年で不妊治療関連のサービスや情報は増え、最近は保険適用や法制度の拡充が議論され始めました。このように社会の流れが急速に変わる一方、残されたままの課題も山積しています。その課題は何か、またどのように解決できるのか。現在治療中の当事者やこれから「産む・産まない」に向き合う人たちに、必要なことは何かー。
今だから考えたいことを、不妊治療や生殖にまつわる課題解決の最前線にいるプレイヤーたちと探求していく新企画。その第一弾として、スタートアップ二社の代表お二人にお話いただきました。
(インタビューは2020年11月に実施。聞き手は、株式会社ライフサカス代表でUMUファウンダーの西部沙緒里です。)

 

【ゲスト】
角田夕香里/Yukari Tsunoda
vivola株式会社 CEO
不妊治療データ検索サービス「cocoromi」を提供。

不妊治療の経験から、客観的なデータが全く足りていないという課題を感じサービスの立ち上げを決意。治療中の患者さんに向けて、不妊治療に関するデータ(統計データと自分と似た人=参考になる同質データ)の提供を行っている。

 

吉川雄司/Yuji Yoshikawa
株式会社ヘルスアンドライツ 代表取締役
相談できる生理管理アプリ「ケアミー」、性をただしく知るメディア「Coyoli」「生理のトリセツ」の提供。著書「やさしく正しい妊活大事典」
日本の未来をより良くするために創業。正しい生殖知識を適切なタイミングで届けるアプリ&メディアを運営している。

 


サービス立ち上げに至った原体験

ー本日はよろしくお願いします。まず初めに、簡単に自己紹介をお願いできますか。

角田 よろしくお願いします。私は2009年に新卒でソニーに入社し、研究開発や新規事業の立ち上げをやっていて、その後フリーになりいくつかの会社の事業支援をしながら自身の新規事業を立ち上げて、現在はvivola株式会社の代表をしています。

私自身が不妊治療中の当事者として、治療にまつわる客観的なデータが世の中に全然足りていないという問題意識があり、その課題を解決するためのサービスを2020年の6月に立ち上げました。具体的には、不妊治療を経て妊娠した方のデータベースから、みんなの統計データだけでなく、年齢やAMH、疾患で自分と似た人の体外受精の治療データをチェックできる「cocoromi」というアプリになります。

自分たちに参考になるか分からない統計データではなく、個人にとって付加価値のある情報を提供することで、妊娠を望むご夫婦の不安を少しでも減らし、二人で納得のいく生き方をサポートしていくことを使命として事業を行っています。

吉川 よろしくお願いします。僕はヘルスアンドライツという会社の代表で、生殖に関する正しい知識を提供するスマホアプリやWebメディアを運営しています。

僕は新卒でP&Gに入社し、その後ワンキャリアという会社で新卒採用メディアの立ち上げに関わり、執行役員をしていました。その後、日本の未来をより良くするような事業を作りたいと思って、2018年にヘルスアンドライツを創業しました。

 

  不妊治療も、課題に対して戦略的に対処したい

―ありがとうございます。お二人ともある意味、医療やヘルスケアど真ん中領域“ではない”ところからの転身になりますね。それぞれ、この不妊や生殖にまつわるサービス立ち上げに至った原体験は何かありますか?角田さんは、ご自身が当事者になったことが直接のきっかけでしょうか?

角田 そうですね。それが原体験と言えると思います。結婚してからも仕事が大好きで、忙しい部署で成果を出すことを一番に働いてきました。夫婦ともに仕事優先で、「子どものことは35歳を過ぎたらちゃんと考えよう」と話していたんです。もし35歳を過ぎてできなかったら、なんとかお金をかけて、何かしら治療をすれば産めるだろう……そう思って過ごしていて、実際30代半ばになった時に「そろそろ本格的に治療をしなきゃ」と思って治療を始めました。

最初は「不妊治療ハイ」のような状態で、クリニックに通い続けたり情報収集をたくさんしたりしていました。でも、半年ぐらい続けたところで疲れてしまって。漢方を飲んだりしながらお休みしていた時に自然妊娠を2回したのですが、いずれも流産、死産で無事出産までたどり着けませんでした。

流産や死産の理由について、医師からは染色体異常と言われましたが、その時まで染色体異常の割合を意識したことはありませんでした。実際にデータを調べてみると、日本にはなくて。アメリカのデータを見ると、35歳以上で30%以上、38歳では40~50%近くは染色体異常になっている胚盤胞があると。※1

このデータを見た時に、「もしこのデータを知っていたら、もっと早く動いたのに」ととても衝撃を受けたことを覚えています。死産してから約半年後に治療を再開するのですが、「やみくもに不妊治療にトライするのがすごくもったいない」と思い、さらに情報収集を始めました。

でもその時、ネットに情報が溢れすぎていて、何が正しくて何が正しくないのか分かりづらいと感じました。初歩的なところから、ちゃんと知識や情報を体系化して情報を整理したい。

その中で「自分にとって本当に参考になる情報」をきちんと選定できる術を身に付けたいと思い、戦略的にその課題に対して対処したいと思ったのが、サービス立ち上げに繋がるきっかけです。客観的なデータと、その人にとって有用な情報を提供していく、そんなサービスを作りたいと思いました。

※1 Jason M. Franasiak, Eric J. Forman, Kathleen H. Hong, Marie D. Werner, Kathleen M. Upham, Nathan R. Treff, and Richard T. Scott Jr.(2014)Fertil Steril,101:656–63. 2014 by American Society for Reproductive Medicine.
www.fertstert.org/article/S0015-0282(13)03257-3/pdf

 

  不妊治療は明らかに日本の課題であり、マーケットとしての可能性もある

ー吉川さんはいかがでしょうか。

吉川 僕は不妊治療経験者ではありませんが、「夫婦の幸せ」「カップルの幸せ」などについて学生時代から興味がすごく高かったんです。あとは、幼少期からの母親の教育もあり、男性主体な社会システムに対する違和感を抱えていました。女性が輝ける社会と言うと平たい言い方かもしれませんが、そういったものが実現できたらいいなという思いがずっとありました。

「日本の課題解決のための事業をしたい」と起業を考え始めた当初は、子育てと教育の領域で何かやりたいと思っていたのですが、色々と調べてみると、日本は不妊治療件数がとても多い国だということがわかりました。

今後ますます少子化が進むこの国で、子どもが産まれて育つことの重要性を感じるようになり、「子育てや教育のスタートポイントは子どもが産まれるところだから、そこに日本の課題があるのであればそれを解決しよう」と決めた時が、本当のスタートラインでしたね。

また僕は三兄弟なんですが、実は僕自身も含め全員、両親の不妊治療の末に産まれたんです。事業を考えている際に「不妊」という言葉を聞いて、両親が大変だったと言っていたことを思い出しました。

自身の構想をきっかけに、彼らからもあらためて色々な話を聞けましたし、この事業をとても応援してくれました。なので、不妊治療は自分にとってある程度身近なものであった、というのもあるかもしれません。

 


人生において、妊活・不妊治療の領域で事業をする意味とは

  生きていくための原動力に変えたい

ーお二人が、全く違う角度からこのテーマに導かれてくるプロセスが面白いですね。そんなお二人に、序盤でいきなりですが聞いてみたいことがあります。この妊活・不妊治療支援という領域で事業者としてサービスを作ることは、お二人の人生にどのような意味がありますか?
冒頭から重くてすみません(笑)が、テーマとして問題解決の難易度、ユーザーの真剣度ともに高く、覚悟が必要な領域だと思います。生半可な気持ちで参入していないことを感じるので、だからこそ聞かせてください。

角田 とても考えさせられる質問ですよね。事前に質問票をいただいた時から色々振り返って考えてみたのですが、2つ視点があると思っています。

まず個人的な視点で言うと、自分が不妊治療で感じた負の気持ちみたいなものを、ちゃんとアウトプットとして残したい、生きていくための原動力に変えたいという思いがあります。私はずっと仕事を中心に生きてきて、人生=仕事というタイプでした。仕事は失敗やチャレンジが次の人生の肥やしになるというか、学びになると思えます。

でも不妊治療は、少なくとも私は「経験してよかった」って思えないなって……。私が未だ道半ばだからかもしれませんが、一般的にもあまりそういう風に思える領域じゃないなと思うんです。そんな負の気持ちを原動力にして、結果を出したい、というパーソナルな視点が一つあります。

もう一つはソーシャルな視点です。もともと私が働いていたソニーでは、エンターテインメントやワクワクする世界を提供したり、人に感動を与える製品を作ったりしてきました。時代の先を行く技術に触れたり、自分が開発したりととても面白かったです。でもそういうことは、人が健康な体であったり、思い描くベースのライフスタイルみたいなものがある程度は叶えられているこそ、楽しめるのだと気付きました。

そう思うと、自分の後半の人生においては、人が生きる上でのベースの部分をもう少し整えることに繋がるテーマ、具体的には「子どもを産みたい人が産める世界をつくる」ことにかけたい、という思いが芽生えました。

ー角田さんは現在進行形で、不妊治療の当事者でもいらっしゃいます。私(西部)自身、当事者から起業した身として聞きたいのですが、サービスを運営する中で負の記憶やネガティブな気持ちが助長されてしまうことはありませんか?

角田 人によると思いますが、私の場合は仕事にすることで自分の経験を疑似化でき、ある程度息抜きになっている、という側面もあるかもしれません。患者さんによっては、オンオフをきっちり分けることで精神的に楽になれるも方もいらっしゃると思います。私の場合は、不妊治療の期間が長いこともあり、通院や自己注射もライフワーク化しているので、どうせ四六時中、頭の中に治療のことがあるので、仕事をしていても同じことかなと思っています。

あとは、辛くなった時に逃げる場所を皆さんそれぞれ用意していると思いますが、私の場合、夫が「二人で生きていくのもいいね!」というタイプなので、そこで気持ち的に少し救われているというのはあるかもしれませんね。

 

  人の記憶に残るサービス・プロダクトを作りたい

ーでは吉川さんにも、同じ質問です。吉川さんの人生において、妊活・不妊治療の領域で事業をする意味とはなんでしょうか?

吉川 僕はこの事業を始める時に、「人の記憶に残るサービス・プロダクトを作りたい」という一つの軸を持っていました。妊活や不妊治療の領域というのは、人生に与えるインパクトがすごく大きいので、記憶に残るサービスを作りたいなと。

以前不妊治療の相談に乗るというプロダクトを考えていた時、その仮説検証としてベータ版のような形で、相談受付のLINEをやっていたんですね。その時には、たくさんの方々から相談をいただきました。ある日、ずっと相談してくださっていた方が「やっと陽性反応がでました!」と連絡をくれたんです。その後、「心拍の確認もできました!」と連絡をもらって。

しかし、その2ヶ月後にその方から「流産しました」という連絡がきました。その方は、「今すごく辛いですが、またこうやって相談できる場所があるから、私は頑張ろうと思ったし、皆さんのような存在がいてくれて本当に良かった」と言ってくれました。

「不妊治療をしていることはなかなか人に言えないので、本当はたくさん当事者がいるのにマイノリティみたいな扱いをされます。そのため孤独を感じることもありますが、こうやって話を聞いてくれる人がいると思うだけで頑張れます。本当にありがとうございます。」というようなメッセージをいただいたんです。

僕らはそれを見て、泣きそうになりました。おこがましい言い方かもしれないけど、その方にとって記憶に残るサービスを、たぶん僕らは作れるだろうなと。そして同時に、僕らも、記憶に残る仕事をさせてもらっているなと思いました。人生にとってどんな意味があるかと言うと難しいですが、人の記憶に残ることができる働き、仕事ができるのかなと思っています。

ちなみにその時は、本当にあまりにも嬉しくて、当時はまだ一銭も会社にお金が入ってきていませんでしたが、いいや!と思えたくらいでした(笑)。

ーいいお話ですね。妊活や不妊治療の世界は、経験してみないとわからない世界でもあるし、その後の人生設計や、人生に対する見方そのものを根底から覆してしまうくらいのパワーがあると思っています。治療自体は一過性のものなのに、いい意味でも悪い意味でも、人生を通じてずっとボディーブローみたいに効いてくる。
そんなテーマだからこそ、しっかり感情や現実と向き合うプロセスを経るべきだし、授かるにしても授からないにしてもちゃんと卒業するべきだなと。大切な意味をもつテーマなので、生半可に関われる領域でもないなということを私も感じます。お二人の意見が、それぞれとても沁みました。ありがとうございます。

 


今の日本の不妊治療を取り巻く社会と業界の、課題や問題点

  情報の在り方と局在化。都市部と地方の課題のちがい

ー次の質問では、もう少し客観的・構造的な話に移りたいと思います。最近、政治が旗を振り始めたこともあり少しずつ変わっていくとは思いますが、現状のこの領域はまだ、課題が山積している状況です。お二人から見て、今の日本の不妊治療を取り巻く社会と業界には、それぞれどのような課題や問題点が大きくあるとお考えですか?

角田 一般的な課題で言うと、先ほど冒頭でも申し上げた、吉川さんも着手されている「情報」ですね。弊社はデータからアプローチしていますが、エビデンスをしっかりと提供しているところがないので、情報に惑わされやすかったり、自分の判断基準がなかなか作れなかったりする。また、たとえエビデンスが提供されたとしても、その情報を自分から取りに行く主体性が、患者さん側にもまだまだ足りていないのかもしれません。

日本では、1人の医師から言われたことだけをそのまま受け入れる受け身な姿勢があるので、自分でその治療を理解するという主体性が欠けているというのは、自分自身も含めてですが、課題だなとは思っています。

言われるがまま治療を続けてしまう、結果ダメだった時に他人のせいにするっていうのは、どこでも起きていること、患者さんがよくやってしまっていることかなと思うので。自分に合う治療法を誰も教えてくれないので、お医者さんの言うがままに……というところで辛い思いをしているのかなと思うと、そこは本当に課題だと思います。

あとは、日本では不妊治療に対するタブー意識が強いので、孤独になりやすいというのがありますよね。私もオンラインでつながっている患者さん同志のコミュニティを持っていますが、そこでは皆さん色々な話をしたり情報共有をしたりしているのですが、なかなかリアルな世界に落ちてこないんですね。InstagramやTwitterなどSNSの中では不妊治療の話をするけれど、リアルな生活に戻ると話せなくなり孤独を感じる。情報共有できる場が局在化している状態は、すごく問題だなと思います。

そしてもう1つ。私が最近調べていて思うのは、都市部と地方では、抱えている課題が全く違うということ。例えば、不妊治療の顕微授精ができる施設の約半分が、1都3県に集中しているんですね。都市部の人たちの悩みは、「どこの病院にしよう」という方が多いですが、地方の方に聞いてみると、「そもそも選択肢が一つしかない」「着床前診断できるところは県内にない」という声があがっています。

いま集中的にヒアリングをして地方の方々の課題を聞いていますが、そもそも地方の専門医不足というのはこの不妊治療の領域に限らず、様々な専門分野の治療で起きていることだと思います。地方にも専門医の方々がいて、産みたい人がどこにいても安心して産めるような、一律の、一定以上の治療をしている医療機関が平等にあるべきだと考えています。私は、そうした地方の課題が置き去りにされているような気がしています。

また、私は、アメリカ・ブラジル・メキシコ・オーストラリア・カナダ・シンガポール・インドネシアなど各国の不妊治療患者さんにもヒアリングをしていますが、例えばアメリカの不妊治療のボリュームゾーンは、30代前半なんですね。

一方で日本は30代後半〜40代が多いです。このように体外受精をする患者さんの平均年齢が日本は高いというのは、データを知らないということやタブー意識の強さ、仕事との両立が容易ではないなど、複数の要因があるんだろうなと思いますね。

 

  キャリア論が先行し、ライフプランニングが置き去りになっている

ーでは、吉川さんも、日本の不妊治療領域の課題についての考えをお聞かせください。

吉川 やはり「知識がない」というのは、大きいと思うんです。小学校・中学校・高校の性教育で習うのは「避妊しなさい」だと思います。簡単に妊娠しちゃうからと。なので、大人になっても「コンドームを使わなかったらすぐに子どもができる」と思っている人が多いですよね。

あとは、ここ10年ぐらいの流れで女性の社会進出、女性のキャリア論という話題が増えたと思います。それはいかにして仕事のスキルを身につけるか、キャリアアップしてくかという話ばかりで、ライフプランと繋げて「どうやってライフ設計をしていくか」という話が置き去りになっていると感じます。

きっと多くの方が、30歳ぐらいまではバリバリ仕事をしてキャリアを築いてそれなりのポジションについて、その後子どもが産まれたら休みやすいとか、休んだ後も仕事を取りやすいだろうなという風に考えていると思うんですね。

でももし大学生の時に、卵子の質や卵子の数の話を聞いていたり、年齢別のデータを知っていたら、それも考慮したキャリアプランニングをする人が増えると思うんです。日本では、女性の社会進出という言葉でキャリア論ばかりが語られ、ライフプランニングの話が置き去りになっているのが、大きな課題の一つではないかと思います。

 

  日本全国の不妊治療に関するデータを、詳細に収集し分析する第三者機関がない

ーありがとうございます。続いて医療業界の課題という観点では、どうでしょう。患者に生殖医療を提供する医療機関などに対して、お二人が課題に思うことや疑問はありますか?

角田 不妊治療にまつわる課題は、なかなか我々のような企業1社だけで解決できる問題ではないと思っています。医療機関と民間企業が、横の連携を強化して、日本全体で生殖に関してどんな未来像を描いていくのか、そのために個々の課題についてどう解決していくのがベストなのかを議論して、発信していくべきなのかなと思います。

さらに医療データに関しては、日本ではクリニックでデータが閉じていて、情報が分散してしまっています。グローバルにみても日本は体外受精の件数が多く、年間約40~50万件近いデータがありますが、私が知る限りそのデータを細かく吸い上げている第三者機関がないんです。日本産婦人科学会など、データを集めている機関もありますが、データをより詳細に収集して分析していく必要があると思います。

 

  不妊治療に関する法律が整備されていない

吉川 僕はいま、不妊治療そのものではなく、少し手前にいるユーザーさんに向けた事業を主に展開しているので、不妊治療の現場から離れてしまっていることもあり角田さんの方が詳しいと思います。
ですが、あえてもう1つ挙げるとしたら、法律の問題もありますよね。不妊治療に関する法律が整備されていないので、これまで保険適用になっていないというのがあると思います。これは、とても多くのことが絡み合っている複雑な問題ですね。

 


サービス、プロダクトで解決できること

  同じ条件の元で集計したデータを第三者機関が提供することで、正しい知識に繋がる

ーここまでお聞きしてきて、さまざまな課題を依然として抱える領域だと改めて感じます。医療や国を主体として解決されるべきことが多い印象ですが、その中でも、お二人が提供されているサービスやプロダクトで変えていける、または変えられると信じていることは、どのようなことでしょうか?

角田 まず、エビデンスがないということに関しては、エビデンスを提供するという1対1の答えになりますね。あとは、それを第三者機関が提供すること。

医療機関の妊娠成績などを見ていると、母数が病院ごとに違っていたり妊娠率だけ書いてあったりします。普通のグラフには当たり前に表示されているようなことが書かれてないので、それが10人のデータなのか、1,000人のデータなのかさえ分からないんです。

よって、弊社のような事業者を含むセクターが、同じ条件の元で集計したデータを提示していくことで、正しい知識に繋がると思っています。ただ、それをどうやって患者自身の中で噛み砕くか、自分の治療への向き合い方にどう使うかというのは、また別の視点かなと思っていて。

弊社としても、まだ、患者さんがデータを自分で理解して、ネクストステップを踏むためのソリューション提供の段階まで至れていないなと思います。そのデータを持って自分がどういう風に主体的に治療を計画していけばいいかというのは、今後のコンテンツで提供したいと思っています。

さらにもう少し先進的なところで言うと、そのデータをもとに、最適な治療や必要な検査が受けられる仕組みが必要だとも思います。日本ではエビデンスがあいまいな検査も多いですよね。自由診療なので、1つの検査に10万円、とりあえず全種類受けておこうみたいな感じで。でも、本当にその人にとって必要な検査を、似たような人の過去のビッグデータから探してきてある程度方向づけできれば、治療期間を最短にする、個人に最適化できる可能性があると思います。

アメリカでは、そのような包括的プログラムをサービスとして、ある程度実現できているスタートアップもあります。そして、そのプログラムを医療機関が導入しているんです。日本も不妊治療がたくさん行われている国ではあるので、そのデータをちゃんと集約して分析していけば、もっともっと本当は効率化できるはずです。

また、データだけでなくナラティブなストーリーも大切で、UMUさんのようなメディアが個人の治療ストーリーを伝えることで、患者さんが自分と似ている人と照らし合わせてうまく活用していく……そのような方向性も、併せて必要なんだろうなとは思いますね。

 

  「記録・情報・相談・治療」4つのステップを滑らかに体験できれば、自分に必要な知識を身につけられる

吉川 僕の方は先ほど、生殖関連の正しい知識やライフプランニング・キャリアプランニングをする上で必要な知識が、若い人に届いていないということを話しました。それを今解決しようと思っています。

この生殖に関する健康管理・ヘルスケアでは、4つのステップがあると思っています。まずは、いまの自分の体をきちんと健康管理できること、記録できることですね。次に、その記録に基づいて正しい情報が手に入り、知識を身につけられること。そして、何か不安な時に誰かに相談できること。最後に、相談をした上で治療が必要な時に、医療機関にスムーズにかかれること。この「記録・情報・相談・治療」という、4つのステップがあると思うんですよね。

いま生理管理アプリを運営していますけれども、不妊治療でも一緒だと思います。基礎体温グラフを記録したり、排卵検査薬の結果を記録したり、それに関して必要な知識も学んでいきますよね。そして、もしなにか不安なことがあれば誰かに相談したい。それはもう一度検査に行った方がいいとか、いま人工授精であれば体外受精を行った方がいいとなれば新たな医療機関にかかるかもしれない。

この「記録・情報・相談・治療」の4つのステップ全てを、滑らかに体験できるようなサービスにしたいと思っています。それが「ケアミー」というアプリですが、「ケアミー」では年齢や生理周期などが記録できます。そして、その状態にあわせたアドバイスや記事が表示されるアルゴリズムを組んでいます。例えば、「生理前の眠気」という症状を記録したら、眠気対策記事が出るみたいな、簡単に言うとそういったアルゴリズムです。

また、相談チャットもあり「生理が来ない」「不正出血が続いている」という時に、相談に乗ることができます。相談の中では、病院受診の目安を伝えたり、産婦人科での診察の流れなども説明したりすることで、「治療」へのアクセスもサポートしています。

 

ーありがとうございました。同じ条件の元で集計したデータ、そのデータをもとに最適な治療や必要な検査が受けられる仕組みを望んでいる人はとても多いと思います。また、妊娠出産を考える前からずっと繋がっている体の状態をトラッキングしていける、ライフスパンで付き合っていけるサービスみたいなものも、本当に必要だなと私たちも思います。

(取材・文/中山萌、写真/本人提供、協力/内田英恵)


この<前編>では、不妊治療や生殖にまつわる事業を手掛ける経営者のお二人に、サービス立ち上げに至る原体験や人生においてこの領域で事業をする意味、また、今の日本の不妊治療を取り巻く社会の課題やご自身の手掛けるサービスで解決できることについて、お話いただきました。
つづく<後編>では、SNSの動きや政治的ムーブメントに対して思うこと、幸せに不妊治療に向き合える未来についてなど、さらに深くお二人の思いに迫ります。現在不妊治療中の方、これから「産む・産まない」に向き合う人たちに今考えてもらいたいこと、伝えたいメッセージについてお聞きしています。<後編>もあわせてぜひご
覧ください!


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