「マイノリティが生きやすい世の中は、きっとみなが生きやすい世の中」 ゲイやレズビアンなど、性的マイノリティが子どもを持てる社会を考える<後編>

前編>では、お二人の育児や妊娠への想いを振り返りながら、日本社会でも性的マイノリティの方が「子どもをもちたい」という気持ちを話せるようになってきた変遷について、語っていただきました。

とはいえ、日本で今後提出される生殖補助医療法の改正案の方向によっては、レズビアンカップルなどへの生殖医療へのアクセスが一時的に閉ざされるかもしれないという、緊迫の状況が続いています。

また、LGBTQと一言で言っても、子どもを持つ方法はそれぞれの立場で異なります。特にゲイの方は代理母出産でしか、自分と血の繋がった子を持つ方法がありません。この<後編>では、長村さんとみっつんさんに、代理母出産に抱く率直な想いを含め、語り合ってもらいました。
(インタビューは2021年9月末実施、取材内容はその時点のものになっています)

 

みっつん/Mittsun 動画クリエーター。東京で出会ったスウェーデン人の夫と2011年結婚。ロンドンへ移り、代理母出産で男児を授かったのを機にスウェーデン・ルレオに移住。ブログ「ふたりぱぱ」が話題になり2019年書籍化。YouTubeチャンネル「ふたりぱぱ」は登録者数16万人を突破(2021年12月現在)。LGBTQや育児などをテーマに発信を続ける。12月に初の翻訳本「RESPECT 男の子が知っておきたいセックスのすべて」を刊行。

 

長村さと子/Satoko Nagamura LGBTQで子どもが欲しい人、すでにいる人をサポートする当事者団体、 一般社団法人こどまっぷ代表理事。新宿2丁目で、カテゴライズから自由になって人が繋がれる場所「足湯 cafe & bar どん浴」他、複数店舗を経営。本プロフィール作成時は妊娠10ヶ月(記事掲載時には念願だった子どもを出産)。違いについて描いた絵本、「あおいらくだ」の作者の一人。YouTubeで「ママンズチャンネル」も始動。

 


子どもを持つ権利の不平等性を、もっと深刻に受け止めて

  「生殖補助医療法」がもたらすインパクト

ー日本の現状の話に戻ると、国内では生殖補助医療に関する民法特例法【生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律(生殖補助医療法)】で、今後ドナーチルドレンの「出自を知る権利の保障」を盛り込むかどうか、今まさに議論が交わされていますね。
また、医療機関でAID(第三者からの精子提供を前提とした非配偶者間人工授精)を行う対象を法律上の夫婦に限るのか、それとももっと対象を広げていくかについても方向性が示される予定ですが、この点につきまして、長村さんはどうお考えでしょう?

長村 現時点の報道をみる限り、医療機関でのAIDを同性婚やシングル女性にも広げるかについては「法改正後に検討する」ということで、とりあえず一度法律婚の夫婦に限られてしまうようです。

ですが、実際私が議員連盟の人たちとコミュニケーションを取るなかで希望を感じるのは、シングルでも同性カップルでも、「子どもを持ちたい人が持つ」ことに問題を感じていない議員さんもいる、ということです。

セクシュアリティにより平等に扱われず線引きをされてしまうことや、本来全ての女性にあるはずの産むことを選ぶ権利がそうなっていない現状は、一種の差別ではないかと私たちも声をあげていますが、それをもっと深刻に受け止めていっていただきたいです。

ー実際にすべての当事者に子どもをもつ権利が認められるのは、どれぐらいの期間を要するのでしょうね。

長村 同性カップルも医療機関AIDが可能とする法改正が、どれぐらいの期間で実現するかは分かりません。
でもまったく可能性がないとは思いませんし、同性婚の実現とセットで話すのか、それとも生殖補助医療の話として進めていくかでも違ってくると思います。

個人的には、必ずしもセットで話す必要はないのかなと考えています。
だって、別に結婚していなければ、子どもを育てられないということはないですから。もちろんどんな形態であれ、いろんな大人がいて、助けてくれるほうがいいと思いますが。

いずれにしても、婚姻の有無と子育ての適格性とは切り離して語られるべきだと思いますし、「法律婚の二人だから子育てができる」というのは、あまりにも誤ったバイアスがかかりすぎているのではないでしょうか。

ーでも実際、「医療機関AIDは法律婚の夫婦に限る」と法律で一時的にでも明記されてしまうと、これまで水面下で同性カップルの方たちにAIDを行ってきた医療機関は、慎重にならざるを得ないかもしれませんね。生殖にまつわる個人の権利の平等性という観点からも、どうなっていくのでしょうか。

長村 そこはもう、先生たちの判断によるのではないかと思います。ただ、確かにこれまでは日本産科婦人科学会のガイドラインだけだったのが、法律として定められてしまうことのインパクトは大きいと思います。

今までグレーゾーンでできていたことができなくなることで、個人間のやりとりが増え、それこそ重視しているはずの「出自を知る権利の保障」が守られないケースも増えていくと思います。

子の福祉の観点や倫理観といった点で、私たちのような存在は、婚姻関係にないという理由で省かれているわけですが、でもそもそも現行法制度では、我々当事者が望んでも結婚はできない。
さらにいえば婚姻していないとだめであるなら、一般のカップルが離婚することについてはどうなんだ、とも感じてしまいます。

みっつん 同性カップルに対する医療機関でのAIDが公に違法になってしまうというのは、僕としては間違っていると思うけどね。

長村 本当にそうだと私も思う。一時期、フランスでも同様に違法になったことがあったけど、フランスはお医者さんたちが「それでもうちはやります」という意見を、新聞で表明してくれたという事例があったんですね。

日本でも、現段階で法規制されていなくても、ある医師の先生が言うには、日本産科婦人科学会のガイドラインは絶対というところがあると。現状の「こどまっぷ」では、そのなかであえて実施してくれる本当に限られた先生を、なんとか繋ぎとめている状況なんです。

みっつん 今の話の流れのまま、同性カップルやシングルが法律上ではじかれたとしたら、きっとそういう方たちは、海外に出るという流れがより一層できるでしょうね。

そして生まれた子を実際に日本に連れて帰ってきたとき、まず考えるべきなのが、「子の福祉」だと思います。今この瞬間もAIDで生まれてきている子は実際にいるわけですから、すでに社会に存在している子をどう守っていくか、という議論がもっと必要です。

卵子提供についても代理母出産についても、そしてAIDについても、生まれて来た子の出自を知る権利が保障され、義務を負う人がちゃんといる環境かどうか。

さらに言えばそれに関わる全ての人、親になろうとする人、精子提供をする人、サロガシーマザー(代理母)をする人すべてが損をしない、身体と心が守られる状態で何ができるかという議論を社会全体が深めていってほしいと、個人的に思っています。

 

  「代理母出産」を巡るジレンマ

ーみっつんさんは、代理母への十分な補償、適切な健康管理、適切な同意の取得かつ産後の親権に伴う法整備が比較的整っているアメリカで、代理母出産を選択されました。

みっつん 一般的なサロガシー(代理母出産)というと、大枚をはたいて女性に産ませるというイメージだけが強調されていると思います。僕自身も最初は「これっていいことなの?」という不安がもちろんありました。

そこで僕らの場合、関わる人すべてが自分の意志で選択や決定を行い、それぞれの希望が叶えられる環境が他の国と比べた時に一番丁寧に整備されているアメリカで、代理母出産することを選んだのです。

法整備や規制と言っても、選択肢がひとつしかない状態に縛るのではなく、できるだけ多くの人がそれぞれの希望する選択ができ、生まれてくる子をはじめ「誰も不幸にしない」ためのルールが必要だと思います。

そして、そのときに重要になってくるのが、平等性や公平性をどれだけ尊重するかという視点ですし、外せないところだと思いますね。

ースウェーデンでは、女性の産む権利についても、「平等」という観点でかなり踏み込んだ社会制度が運用されているそうですね。

みっつん はい。スウェーデンでは、同性カップルやシングル、事実婚であっても、子どもを持つ権利は誰にでもあるという考えのもと、自らが「産める性」である女性であれば、体外受精を含む生殖補助医療を非常に安い治療費で受けることができます。平等性が担保されているんですね。

その一方で、スウェーデンでも代理母出産については法律がありません。そこはこの社会のジレンマで、平等性を担保するのであれば、サロガシーを進めるべきだという人もいれば、それは難しいという人も当然います。

この議論はずっと続いていますが、議論するうえで大切なのは、実情を知ることだと思っています。
20年前に行われていたサロガシーと、今のサロガシーでは内容がまったく違いますし、産む環境も国によって、また時代によって大きく変化しています。

生命に関わる大切なことですし、医療も日進月歩の発展をしています。多くの人に情報をアップデートして現状を知ってもらい、議論していくことがとても大切だと考えています。

 


この社会は本来、「誰もが何かのマイノリティ」

  LGBTQ、それぞれの課題を一緒に語ることの“葛藤”

 

長村 みっつんに嫌な思いをさせたらごめんね。代理母出産についての日本の現状を話すと、この国ではそもそも、議論がスタートしてもいないような状況なんです。

「こどまっぷ」が目指す社会として「LGBTQでも子どもを持てる未来を」を掲げておいて、「G」の方の想いを置いてけぼりにしているかもしれないことを感じながら、本当に葛藤なんですが、法律の話となると代理母出産は話題にも上ってこないんです。

以前、みっつんがサロガシーの当事者として顔出しでメディアに登場したことがあったけど、そのことを私が記事にして触れたたけで、今も批判が来るような状況です。それだけ、代理母出産には批判の声が強く、問題が根深いと感じています。

みっつん うん。その状況は分かっています。僕たちよりも前に別の方が代理母についてセミナーをしたときも、総攻撃されましたよね。

そうやって否定的な意見を持つ人たちがいるのは承知しているけれど、その批判がサロガシーの仕組みに対して事実に基づいたものもあれば、なんとなくのイメージだけで批判するもの、そして中には個人的な恨みをこじつけている人もいたりと、特にインターネット上ではごちゃごちゃになっているのが実状だと感じます。

でもある時、サロガシーに関して「現時点では賛成できないけど、実際はよく知らないから、むやみやたらに批判はできないな」と書いている方がいたので、そのツイートを引用させてもらって、ブログで僕の意見をお返事したことがあるんです。

するとその方は、僕の意見を聞いたうえで、最終的に「やっぱり自分は賛成できない」ということをツイートされた。この時のやりとりは、とても印象に残っています。

結局意見が同じにならなかったとしても、お互いに知ろうというプロセスがあったうえでのことなので、納得できたし、相手の意見も尊重できた。そのような形で、意見を交わすのなら、今現在どのようなかたちでサロガシーが行われているかを知り、当事者の意見や想いも知ったうえで、情報をアップデートしてもらえたらと思っています。

僕は今、YouTubeでもサロガシーについて発信するようにしていて、視聴者の90%が女性なんですが、好意的な意見が多く、それほど批判的なコメントは来ないんです。もちろん、サロガシーに否定的な方がいることも承知していますし、批判的な意見にも耳を傾けなくてはならないと思っています。

でも自分の心と体は一つしかないし、限られた時間と労力を使うのであれば、サロガシーについてしっかり説明して、理解してもらって、賛同してくれる方をいかに増やしていくかに僕はフォーカスしたいと思っています。

長村 うん。みっつんがやっているYouTubeの発信は、すごくベストなやり方だと思う。丁寧に説明しているから、誤解のない見方ができる発信方法だと思います。

一方で、少しフォーカスがずれるのだけど、私自身が今すごくどうにかしたいのが、結婚あるいは事実婚している女性でない限り、ほとんどの不妊治療施設に普通に通えないという問題なんです。

レズビアンもゲイもトランスジェンダーも、それぞれ抱えている葛藤、問題が違うし、特に子どもを持つまでの過程は全く違う。今、LGBTQが抱える問題をすべて一緒に議論されてしまうと、あらゆる意見が飛び交ってしまい、そこの法整備が進まなくなってしまう恐れを感じます。

なので、代理母出産について議論することに私自身もすごく慎重になっているのは、優先順位として今は産む側について議論するタイミングなんだということを、みっつんには伝えたいと思っていて。

みっつん さと子が言うように、議論に優先順位をつけることは大切だと思っています。
さっきもスウェーデンを例に出したけれど、同性でもシングルでも事実婚でも、不妊治療が受けられるし、精子提供を受けて体外受精を受けることもできます。

でも男性カップルのサロガシーだけは、スウェーデンでも認められていません。それはやはり、優先順位があるからだと思います。

でもその一方で、海外でのサロガシーによって実際に生まれた子どもがスウェーデン国内に存在しているというのは認められ、理解されているので、僕たちのように法律上の親権が認められる仕組みができています。

同様に日本でも、同性カップルかどうかにかかわらず、海外でのサロガシーで生まれる子が実際に存在していますが、今後そのような子どもたちが増えていくなかで、国としてどう対応していくのか。

サロガシーの実施自体を認める法律を今すぐにとは思っていませんが、「生まれてきた子どもの福祉を守るため」の法律を整備することは、優先順位として非常に高く、今すぐにでも必要だと僕自身は思っています。

 

  「家族って何?」。生まれてくる子を通じ問いかけたい

ーここまでいろいろとお話いただき、改めて、異性愛者がマジョリティを占めるこの日本社会において、多様性の理解に向け、マジョリティ側にいる方たちに求めることはありますか?

みっつん 僕が思うのは、異性愛者でマジョリティの方でも、何かしらのマイノリティ性は必ずもっているはずということなんです。

僕の場合、このインタビューの文脈だとゲイであり多数派ではないかもしれないけど、男社会で生きる男としては、身体的な性と、性自認が一致したシスジェンダーであり、トランスジェンダーの方に対してはマジョリティなわけです。

その立場から、意識的か無意識かは別として、すでに他者に何らかの差別や抑圧をしてしまっているかもしれない。
そんな風に、誰しも多かれ少なかれマイノリティであり、同時にマジョリティでもある。

そこに気づくと、ならば自分がマジョリティ側に立っているときは、マイノリティを知る努力をしよう、理解しようと思えるはずなんです。そうやっていると、回り回って自分のところにいい影響が返ってきて、みんながより生きやすい社会になると思うんです。

そして、社会はそうやってお互いに助け合うことでしか成り立たないと僕は考えています。
これは自分自身にも自戒を込めて言い聞かせていることですが、マイノリティの存在に気づいたら、大きなアクションは起こせなくても、まずは知ろうとする努力はしてほしいと思います。

長村 そうですね。私も、この問題がどうすれば自分に繋がっていることと思ってもらえるか、それについてはずっと悩んでいて、本当に難しいと思っています。でも、言わないと伝わらないから、やっぱり声を上げることが大切なんでしょうね。

今から私がすごく楽しみなのが、生まれてくる子どもを通して、今まで関わってこなかった人たちと出会い、新しい世界が見られることなんです。これまではレズビアンの方と接することがほとんどでしたが、学校の先生とか、他の親たちと関わっていくなかで、「普通って何?」「家族って何?」というのを聞いてみたい。

今まで特に考えてこなかった人も、きっと私たちと関わることで考えるきっかけになるだろうし、一歩ずつですが、そんなやりとりを通して、関心をもらえたらと思っています。

ー貴重なお話をありがとうございました。お二人とも、それぞれメディアや団体を立ち上げ「多様な性や家族のあり方と共生できる社会づくり」のためのご発信をされています。最後に、その中で今一番課題に感じていることがあれば、お聞かせください。また、実現したい社会や、今後のご活動についても伺いたいです。

みっつん インターネットというツールができて本当によかったと思うし、僕の声もこうやってダイレクトに伝えることができるので、これからもYouTubeなどを通して発信していきたいです。

ただ、ここ10年ぐらいかな、SNSが普及するなかで、インターネットは分断に繋がるツールでもあるとも痛感しています。まさに諸刃の剣。

一つの意見を言うと、当然反対意見もあり、それには耳を傾けるべきだとは思うのですが、ネット上では建設的な議論は難しく、ただの批判合戦になってしまうこともよくあります。

ですから、僕の課題としては、発信を続けるなかで、なんとか分断を助長しないかたちで、自分の考えを聞いてもらえる方法を模索しながら発信していこうと思っています。

今はYouTubeに力を注いでいますが、最近、スウェーデンの10代の男の子向けの性教育本を日本語に翻訳・刊行しました。そのような別のかたちでの発信も、今までの活動の延長線上にあるものだと思っています。

そのときそのときで今の自分を一生懸命生きていれば、次に何をしたいかや何をすべきかが、おのずと見えてくるのかなと思って、これから何ができるのか楽しみにしています。

長村 そうですね。コロナ禍によりオンラインがより普及し、遠くに住んでいる人にリーチができるようになったことはいいことなのですが、かたや、やはり繋がりが薄くなっているとも感じます。LGBTQで子どもを持ちたいという人の声のなかには、人に会えない不安な気持ちがメッセージに含まれていることも多く、ちょっと心配になることがあります。

それから団体としては、今の政権がLGBTQにフレンドリーでもないので、安心して子どもを持てる未来を叶える法改正への働きかけがなかなかうまくいっていない、というのも課題としてあります。

これから実現したい未来という点では、子どもを持ちたいと願う誰もが、それを選択できる、トライできる社会にしてほしいというのは、常にずっと思っています。そのためには、このテーマを可視化していくことがとにかく必要だと。

みっつんのYouTubeのコメントを見ていると好意的な意見が多くて、そういった媒体や活動を通じてアライ(LGBTの人たちの活動を支持し、支援する人達のこと)の方が増えていくことが、とても大切だと思います。

だから私自身も、これから迎える出産をへて、「こういう家族がいるよ」といろんな人に発信していくことで、団体の代表者として、そして一個人としても、自分たちの生き方を社会に示していきたいと思っています。

(取材・文/内田朋子、写真/本人提供、協力/内田英恵、高山美穂)

 


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