現在4歳の双子の母である水野かおりさんと、3歳の双子の母である松本彩乃さん。<前編>では、ポジティブなイメージとは裏腹に意外なほど知られていない多胎育児の現実、親が抱えるリアルな心情を語っていただきました。
続くこの<後編>では2021年に設立し、水野さんが代表理事を、松本さんが監事を務める「一般社団法人関東多胎ネット」の活動内容、そして活動を通して見えてきた手応えと課題について伺います。
さらに、今なお多胎育児真っただ中にあるお二人に、多胎育児に関わるママやパパ、おばあちゃんおじいちゃん、そして地域社会に向け、ときに言葉を詰まらせつつも、率直な想いを語っていただきました。
水野かおり/Kaori Mizuno 1984年兵庫県生まれ。大学卒業後メーカーの海外営業職を経て、妹とオリジナルブランド「OTTONAL(オットナル)」を立ち上げる。また全国通訳案内士として訪日外国人のプライベートツアー「Field Trip+」を企画・運営。2018年に双子の男の子を出産し、フランスやイギリスでの育児を経験。語学や海外生活が大好き。2019年自身の住む地域でふたごの会を設立。「一般社団法人関東多胎ネット」代表理事。
松本彩乃/Ayano Matsumoto 1984年生まれ、岐阜県出身の会社員。2012年に結婚後、約6年の妊活・不妊治療を経て2018年に双子男児を出産。地域の双子会は平日開催のため、土日にも集まれるよう復職前に設立した杉並区の多胎児サークルの代表として「関東多胎ネット」に参画。その後2021年に一般社団法人化し、監事に就任。関東多胎ネットピアサポーター、NPO法人Fine認定不妊ピア・カウンセラー、国家資格キャリアコンサルタント。
支援の輪を広げるため「関東多胎ネット」設立
当事者同士のピアサポートをメインに支え合い、横連携を進める
ー本来なら親子を支援するはずの子育て支援センターや児童館が、かえって孤独感や絶望感を深めるきっかけになってしまう。双子のママたちがそのような悩みを抱えていたことを、今まで想像したこともありませんでした。お二人ともそれぞれのお住まいの千葉県流山市や、東京の杉並区で多胎サークルの代表をされていますが、改めて、2021年に「一般社団法人関東多胎ネット」を立ち上げられた思いについてお聞かせください。
水野 双子のママ特有の悩みを分かち合い、支え合える場所を作りたいと、最初は2019年に自宅のある流山市で「流山ふたごの会」を作りました。他の地域でも同じように多胎のサークルがあって、たまたま代表者が集まる機会があったんですね。
話しているうちに、サークル運営の話など共通する課題がとても多いことが明らかになり、そこから話が発展して、関東各地で活動している多胎サークルの代表者が中心となって、医療や行政を巻き込んだ支援の輪を広げていこうとなったんです。
でもサークルのままでは、子どもが成長するにつれそれぞれの悩みが変わってくるため当事者感がなくなってしまうし、サークル自体も数年で活動が終わることが多いのが実際でした。
そこで、自治体に継続的に支援の必要性を訴えるためにも、また企業と連携するためにも、任意団体ではなく法人を設立したほうがよいだろうと考え、私が代表理事となり、2021年にサークルの主催者らで「一般社団法人関東多胎ネット」を設立したんです。
ー具体的にはどのようなご活動を?
水野 メインにしているのはピアサポート事業で、多胎育児の当事者(ピア)が、多胎の家庭を支えるという取り組みです。実際に訪問したり、今はオンラインで多胎家庭をサポートしています。
ピアサポーターの養成講座やフォローアップ講座も実施しています。多胎家庭への訪問は第一のスタートでして、そこから、今後は定期健診に行くときなどに同行することも考えています。赤ちゃんを二人連れて、一つひとつ検査を回っていくのは本当に大変ですから。
松本 加えて、長年、サークル活動をしていると、次第に経験やノウハウが培われてくるのですが、それらをもっと活かしたいという思いがあり、各地のサークル活動の支援にも力を入れています。当団体に登録するサークルは31になりました。
ピアサポートとサークル支援、多胎家庭同士の交流会、多胎のプレファミリー教室の4本柱に加え、多胎のことをもっと社会に知ってもらうための啓蒙活動にも取り組んでいます。
「善意の搾取をしない」ためにも、資金調達が課題
ー「関東多胎ネット」を設立したことによる周りからの反響や、見えてきた課題はありますか?
松本 まずピアサポートを始めるにあたり、実際に当事者のモニターを募集したところ、「先輩ママの話を聞けてよかった」という声をすごくいただけて。小さな一歩ではありますが、私たち自身が一番そういったサポートが欲しかったので、それを手掛けられて本当に良かったと思います。
課題としては、メンバーが家事も仕事もしながら活動に携わっているので、人手が足りないという点。また、こういう事業や活動はどうしてもボランティアベースになってしまうことが多いのですが、それだけでは続かないところもあります。
「善意の搾取をしない」というポリシーのもと、資金調達の仕組みをもっと充実させ、組織として成り立たせていかなくてはと思っています。
水野 私も手ごたえはめちゃくちゃ感じています。サークルの立ち上げの支援をして、実際にいくつかサークルが立ち上がるなかで、初めて同じ地域の双子ママに会えましたとホッとしてくれる方もいて、大変ですが活動してよかったと感じる日々です。
多胎プレファミリー教室や交流会にもかなりたくさんの方が参加してくださっていますし、自治体や育児支援関係の方からの問い合わせも多くいただいています。コンタクトくださる自治体もどう多胎家庭を支援したらよいか分からず、その業務委託先もないということなので、うまく連携していきたいと考えています。
もっと手掛けたいこともたくさんありますし、意義もあるなと思っていますが、一番の課題はやはり先ほど松本さんが言ったように、資金をどう獲得していくかです。それから多胎ネットは、当事者だけではなく、いろんな機関が連携するプラットフォームであるべきで、医療や福祉の専門機関との連携も必要だと思っています。
多胎は発達障害を抱えていたり、医療的ケア児も多いのが現状です。私の周りにも療育センターに通っていたり、胃ろうをしている子たちがたくさんいます。ですから、専門機関とも連携して、もっと深くサポートしていきたいなと思っていて、それはこれからの課題ですね。
父親も周囲も当事者意識をもって、みんなで支え合ってほしい
「うまく母親だけでやれてるじゃん」は、誤認
ー団体の今後の発展にとても期待したいですし、社会が多胎育児の家庭にもっと関心を寄せることも大切ですね。今、現在、多胎育児をされているお母さんにお伝えしたいことはありますか?
水野 実は、事前に質問書をいただくなかで、この質問、どうしようと思ったんです。例えば「いつかは大丈夫になる、楽になれるからがんばってください」などと言うのも違うと思うし……。
卒乳したら楽になるという言葉も違うし、その言葉で救われるかというと救われないから、安易にそういうことも言えない。今、妊娠中の方も含め、双子、三つ子としてちゃんと生まれるかっていえば、それは分からないから、安易な言葉を掛けられなくて。
もちろん、団体としては頼ってほしいし、私たちができないことでも、多様な連携機関をもっているので、何かしらの支援に繋ぐこともできます。ですが、個人への言葉かけとしては責任を伴うし、すごく難しいですね。
松本 そうですね。私も、団体としては、困ったら私たちに頼ってほしいというのは、メッセージとしてはお伝えしたいです。ですが、私自身としては、まだ伝えられる立場じゃないかも……。それは、私たちがまだ3歳、4歳を育てているからかもしれません。
以前、私よりも年齢が上の方に「いつか楽になるから」っておっしゃっていただいて。でも、「その年齢なりの悩みが常にでてくるよ」ということも笑いながらおっしゃっていました。そういうものなのかなって。
ーなかなか先輩ママとして、アドバイスが伝えられないというまさにその点が、双子育児の困難さを象徴していますね。それでは、多胎育児をされる父親に何かお伝えできることはありますか?
松本 うちの夫は異常ともいえるほど子育てにコミットしている人で、妊活中から当事者意識がすごかったんですね。「なんであなたはそうなの?」と率直に聞いたこともあるのですが、かえってきた答えが「自分の子じゃん」って。やっぱりそれは当事者意識なのかなと思います。
ですから、父親になる方には協力者ではなく、当事者になってほしいなと思います。多胎育児は、母親と一緒にやっていかなくては、絶対に立ち行かなくなります。これは私がずっと伝えていきたいことですね。
実際、それでもしんどくて、父親側が産後鬱になったという話も聞きます。それだけ大変ですから、手は多い方がいいし、ぜひ夫婦で支え合っていってほしいです。
水野 そうですね。ただ、最近、ピアサポート活動をしていて一つの課題だなと感じるのは、だんだん母親が育児に慣れてくると、なんとなく、母親だけでうまく回せているように見えてしまうんですよね。
本当はしんどいのに、「意外とできてるじゃん」と。家族からそう思われてしまって困る、という話を耳にします。ですから、とにかく、表面的なところだけを見ないでほしいなと思っています。
もし、自分が仮にそれを全部やっていると想像したら、どうかと。それこそ当事者意識ですよね。どの段階や月齢においてもそれだけは、忘れないでほしいなと思います。
松本 「どの段階でも」、というのは大切ですね。
水野 うん。慣れてくると回せているように見えてしまうので。最初の頃はがんばれていても、その半年後に産後鬱や、燃え尽き症候群になることだってあるんです。そこは、一番近くのパートナーがちゃんと支えてあげてほしいですね。
ー多胎児のおばあちゃんおじいちゃんには、何か伝えたいことありますか?
水野 そうですね。特におばあちゃんは、ご自身がしてきた育児を一切忘れていただきたいです。例えばセルフミルクで哺乳瓶を固定して、自分たちで飲んでもらっていると「かわいそうじゃない」と言われたりすることがありますが、全くかわいそうじゃないですし、完全にミルクで育てても健康上まったく問題ないはずですよね。
双子育児をやっていくには、何かを諦め、適当にならざるを得ないことが必ずあるんです。お風呂も2日に1回だっていい。私たちは、生かすために育児をしていて、生きていればいいという心持ちで育児をしています。
ですから、子の安全が守られている限りは「ちょっとこれどうなのかしら?」と言わないでほしいですし、そう言われたら時にはメンタルが崩壊してしまうことだってあります。祖父母世代の方には、私たちの育児をどうか尊重してほしいし、寄り添ってほしいなと思っています。
多胎に優しい社会は、みんなに優しい社会
ーなるほど。今回、多胎育児のリアルな声に触れることができ、双子のママたちが日々どのような想いで育児をされているのか、認識を新たにすることができました。貴重なお話をありがとうございました。最後に、多胎育児をされる家庭にとって、社会はどうあってほしいと願いますか?
水野 そうですね。やはり、社会のみんなで子どもを育てたいなと思っていて。我が家は夫の仕事の都合で生後7カ月からフランスに半年、イギリスに半年滞在したんですね。その期間、双子育児、大変なんですけど、楽しかったんです。
どうしてかなって考えたら、周りの人がすごく優しかったんですよ。双子を見かけたら「本当にかわいいよ」、「あなたよく頑張った」ってすぐに声をかけてくれて。大変ねというよりは、「子どもは社会の宝だから」、「あなたは素晴らしいことをしているのよ」といった言葉をかけてもらえるだけでも、すごく気持ちが楽になりました。
あと、人手という面で、向こうはエスカレーターやエレベーターがあまりなくてバリアフリーにはほど遠いんですけど、それでも楽しかったのは、当たり前のようにみなさんがさっと手伝ってくれるんです。そして「ありがとう」と伝える前に、もう立ち去っている。そんなことが当たり前の社会だから、私は割と楽に育児ができていたと思うんです。
日本では、双子用のベビーカーを電車に乗せたら、蹴られてしまったこともありました。もちろん、制度も必要ですが、社会が、多胎に限らず子どもに優しい社会になれば、多胎育児も全然違うものになるのかなと思っています。
多胎というのを特別視してほしい訳ではなく、多胎に優しい社会は、みんなに優しい社会になるはずだと思って、私たちも活動しています。
松本 私は逆に、日本で暮らしていて、助けてもらったことがたくさんあるので、それが普通になるといいなって感じています。もちろん、単胎のママも大変なことが同じようにたくさんあると思いますので、特別に自分が声をかけてもらいたいというよりは、「元気?」ってさらっと気にかけてくれたら十分うれしいですね。
ただ、どうしても物理的に手が足りないときがよくありますので、たとえば子どもが公園の外に出ていってしまいそうだったら、「外にいきそうで危ないですよ」など、緩やかに見守りの目を向けてもらえたらうれしいなと思います。単純に、一人がうんちをしてしまったら、確実にもう一人をどうしよう、となりますから笑。
そんなとき「みていましょうか」と声をかけてくださるだけで、どれだけ有難いか。 双子だから、三つ子だからというよりも、困っている人がいたら手を差し伸べる。そんな社会であってほしいし、私たちもそれを自分から、実践していきたいと思っています。
取材・文/内田朋子、写真/本人提供、協力/高山美穂
※一般社団法人関東多胎ネット
Webサイト>sites.google.com/view/kanto-tatai-net/
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