【イベントレポート】キャリアと出産をめぐる もやもやフィールドワーク~産む?産まない?産みたい?第5回【エピローグ】2022.8.19開催

  はじめに

産む・産まないにまつわる人生をリアルに伝えてきたストーリーメディア、 “UMU”と当事者世代の有志数名が手がける「キャリアと出産をめぐる もやもやフィールドワーク~産む?産まない?産みたい?(通称:キャリもや)」が2022年4月より5回にわたり開催され、8月19日に最終回を迎えました。

~「キャリもや」とは?~

ステータスの異なる5名の女性がナビゲーターとなり運営。各回にゲストをお迎えし、「産む?産まない?産みたい?」にまつわる自身の状況や未来のイメージ、今知りたいことなどを座談会形式でワイワイおしゃべりするシリーズイベントです。全5回を通して、それぞれにとっての“わたしの答え”がちょっとでも見えてくることを目指します。

※第1回プロローグ、UMUファウンダー西部沙緒里およびナビゲーターのプロフィールはこちらから>
【イベントレポート】キャリアと出産をめぐる もやもやフィールドワーク~産む?産まない?産みたい?第1回【プロローグ】2022.4.29開催

 


  各回のダイジェスト

<第1回> プロローグ 〜”ワークとライフ、キャリアプランとライフは切り離しては語れない”

産む・産まないを決めるのは女性にとって本人の選択ではありますが、「そろそろ子どもが欲しいな」「妊活しようかな」と、意思決定をするタイミングは、ちょうど仕事でも責任のあるポジションについたり、本腰を入れてもっと頑張りたいタイミングと重なったりしてしまいがちです。

両者は常に影響しあっていて、多くの人にとって産むことをポジティブにとらえられない社会になってしまっている現状。何かを犠牲にするのではなく、誰に遠慮することもなく、理想のタイミングで自分がありたい姿でいられること、そんな社会の実現のためにできること、考えられることはなにか?

そんな大きな問いをたてて、本イベントシリーズがスタート。

初回は、特別ゲストの秋本可愛さんも交えて、ナビゲーターがそれぞれのもやもやを話し合いしました。

 


<第2回> ”産む時期”を考える

第2回では、「卵子凍結」「プレコンセプションケア」をテーマに研究者の前田恵理先生、医師の松本玲央奈先生をゲストにお迎えし、産む・産まないの選択をするために事前にできることは何か、医療的な視点を踏まえてお話を伺いました。

ナビゲーターや参加者の皆さんから「出産タイミングをどこまでハンドリングできるの?」「不妊治療をしながら卵子凍結はできるの?」「まず自分とパートナー、お互いの体の状態を知るためにやった方がよいことは?」「パートナーと上手く話し合って進めていくことの難しさを感じました」といった質問や感想が寄せられる中、正しい知識や情報を得て、選択肢を持つことで、年齢や社会の考える理想に囚われ過ぎることなく、主体的に「産む」ことについて考えることができる、という結論に至りました。

 


<第3回> 生殖物語にとらわれない、”私なりの生き方と家族のつくりかた”を考える

※”生殖物語”とは:生殖心理学の用語で、ほとんどの人には、幼少期から作られた家族のイメージや理想像が備わっている、という概念のこと。例えば、「将来は結婚して、子どもは2人で、1人が男の子でもう1人が女の子…」といったもの。(参考)「生殖物語」から考える家族像の“理想と現実”、そのギャップとは?〜「子どもをもつ、もたない、産む、産まないについてのライフプラン」アンケート結果から

第3回では、生まれつき生理がなく、産めないと思っていたけれど奇跡的に出産した徳瑠里香さん、8年間の不妊治療を経て、夫婦ふたりの人生を生きることを決断をしたボレンズ真由美さん、子どもを望まず、産まない人生を歩む若林理央さんをゲストに迎え、多様な生き方についてお話を伺いました。

それぞれの選択の背景や、社会から感じる「常識」や「普通」、パートナーとの価値観の違いや対話の大切さ。産む・産まないは、どこかのタイミングでは誰しもが向き合わなくてはならないこと。三人のお話を聞いて、それがどんな選択であっても、決断したことを大事にできる社会であってほしい。肩身が狭かったり、重圧を感じたりすることなく誰もが自分らしく生きられる社会を作りたい、という思いを強くしました。

 


<第4回> 脱”トレードオフ”歩みたい人生をあきらめない

第4回では、女性のキャリアや心理的な支援活動を行っている猪熊真理子さん、ワーキングペアレンツ向けの転職を支援している上原達也さんをゲストにお迎えし、「働き方」「パートナーシップ」について語りました。

「働く」と「産む」が「トレードオフ」になってしまっている現実。どちらかを頑張ると、どちらかがおろそかになってしまうという印象がどうしても拭えない、というナビゲーターに対し、お二人がテンポよく問題点を追究していきます。

猪熊さんからは”自信がない(理想が高いと感じやすい)のは女性の特徴”、”人と比較しない幸せは長続きする”、など女性のライフスタイルの変化や考え方を、上原さんからは出産・復帰後に起きがちなギャップや男女でのギャップについて、具体的な転職事例とともに紹介いただき、参加者・ナビゲーターからの質問が止まらない回となりました。

 


<第5回> エピローグ〜ここまでのジャーニーを経て見つけた、”わたしの答え”

全ての振り返りを踏まえて、ナビゲーター一人一人がこのシリーズを通して考えたいこと、最終回にこうなれたらいいなと思う状態を掲げた初回から、全5回を通してどう変わったのか、BeforeAfterをそれぞれ発表しました。もやもやを色々な角度から言語化、可視化してきたこの5ヶ月。ナビゲーターそれぞれのいまの気持ちは……?

初回、もやもやの最高潮から始まったこのイベント。回を重ねるごとに、なんとなく抱えている不安や焦りから、その「なんとなく」が具体的になり、改めて自分の大切にしたい価値観、主体的な選択をするために必要なことが明確に。ナビゲーターそれぞれが、Beforeから少し変化した目標を晴れ晴れと語る様子が印象的でした。

 


  クロストーク座談会

これまでのイベントの軌跡を振り返り、ナビゲーターのBeforeAfterを発表したところで、参加者の皆さんも交えて座談会がスタートしました。以下、その一部をダイジェストでご紹介していきます。

※敬称略

参加者Aさん「今日はじめて参加しました。結婚して4年目、不妊治療も4年目。産むということが自分とかけ離れたことのように感じていましたが、『開かれた子育て』などの言葉を聞いて産むことが身近に感じられました。くりちゃんに質問です。知らないことが明確になり、落ち着いてきたということだったのですが、どのように情報を得ていますか?」

くりの「今回のイベントを通して得た知識や情報をもとになんとか調べられるようになってきた、という状況です。SNSで色々な情報が流れてくるけど、それらは断片的だったし、そもそもなんていうワードで調べたら欲しい情報が得られるのかも分からなかった。そんなときにこの会があって、学び方を知りました。」

さおり産む・産まないは、例外なく誰もが体験することなはずなのに、適切な時期に、最適な意思決定をするための情報や材料がそろっていないんだよね。だから主体的に『自分で決める』ことがとても難しい」

可愛「調べ始めると膨大すぎて。私は今回のイベントを通じて、『話す』ということが重要だなと感じました」

まり対話でいろいろなことがクリアになる、と感じました。悩みを話すのは元々苦手だし、職場でもそれなりのポジションになってくるとフラットに話せなくなってくる。目の前の大事なひととどうありたいか、お互いが気持ちよくなれる方法を、対話を通して見つけるということの大切さに気がつきました」

まい「うちは対話が基本。夫婦間でも得意不得意が違うし、こっちは心地よくても相手は嫌なときだってある。あの手この手で、パートナーと一番居心地のよいコミュニケーション方法を見つけるのが大事」

 

ナビゲーターの会話を聞いて、参加者の方もさらにチャットで参戦してくれます。

 

参加者Bさんコメント「(このキャリもやから派生して)『産みたい』『産まない』『産めない』それぞれの分科会もあるといいな。特に、『産みたい』『産みたいと思えない』という心情を安心して話せず、気持ちを整理することができないということがありがちだと感じているので、同じように感じている方同士、感情や経験、価値観を共有できる場があってもいいなと思いました」

さおり「確かに。例えば、流産にしても誰しも経験しうることではあるのに、安心して話せる場がほとんどない。共通体験を持った人が本当はたくさんいるのに、隠されてしまっている状況がある。かたや、同じカテゴリー・ステージにいるから、必ずしも同じ気持ちであるとも限らないと思っていて。思いは行き来するものだから、どうしたらみんなにとって安心・安全に思いを吐き出せる場所ができるだろうか、とずっと考えています。
いずれにしても、今回のようにいろいろな立場の人たちで話す機会と、同様、同じ状況・同じの思いを持っている人同士で語り合える場もどちらも必要ですね」

まい「親になったけれど、子どもがあまり好きじゃなかった、という人も言いづらい。産んだ後も、きれいごとばかりではない。親が常に完璧じゃなく、人間らしくふるまえる、大変さをつぶやける社会であってほしい」

 

夫婦別姓、卵子凍結、同性のほうが理解してくれるのは実は思い込みだった、若者にとって「子育てや結婚=自分の時間をとられるもの」という認識……などなど、さらに話題は広がり、濃密なトークが続きます。

 


  キャリもやの今後

最後に、さおりから、「若い方に限らず、このキャリもやという機会を今後、どういう方法でどんなひとに届けていけたらいいか?」という問いが投げかけられます。

まい「大学のキャリアの授業で子育てのことも話す、というアプローチが必要。当事者じゃないからといって、この時期にスルーしてしまうと後で気付いても遅い。男女ともに必修授業として受けられると良いのでは」

可愛30歳という節目に焦らされる、プレッシャーを感じる社会ですよね。30歳を超えた瞬間とても楽になるのに、20代後半は焦りがあった。焦って選択してもいいことがないから、20代後半にちゃんと自分に向き合って何が大切かを考える機会があったらいい」

「周りが結婚や出産をし始めると焦ることもある。むやみに焦っても良くないけれど、年齢を重ねることで妊娠しづらくなるのは事実だから、働き始めて数年のタイミングで考えるチャンスがあったらいいなと思う」

くりの「ちょうどその頃って、転職も考え始める時期。転職とキャリア、かつ身体、みたいにセットとして考えられる機会があったらめちゃめちゃいいな」

可愛「妊娠・出産のお祝いが学びのチャンスになるといいかも。お祝いもできて、かつ学べる。お祝いする側が、休職する人(お祝いを受け取る側)とどうコミュニケーションをとればいいか、ということを知る機会にもなる」

まい「男性限定で開催するのも重要じゃない?いつもこういう話題って、女性から持ち出さなくちゃ始まらない傾向があると思うから」

さおり「女性が頑張らなければいけない構造だよね。だけど、本当はもっと関わりたい、主体的に考えたい、という男性も増えてるはず。かたや、女性の身体の中で起こることだからどうしても遠慮が生じたりするんだとも思います。双方が歩み寄るために、コミュニケーションを諦めないのが大切



こちらもまだまだ話は続きます。この後、ナビゲーターがそれぞれイベント全体の感想を述べ、さおりの「ここでキャリもやは終わりません!これからも世の中に伝えていきましょう!」という力強い宣言を最後に、キャリもや全5回が幕を閉じました。

 


  最後に

多様なゲストをお迎えし、知識や情報、そしてさまざまな生き方を知り、学んだ5ヶ月間。もやもやも不安も尽きないけれど、いろいろな価値観に触れ、安心できる空間で対話を重ねたことで、どんな選択をしても、自分を肯定できる、そんな自信を得られた貴重な機会でした。

ゲストの皆さん、ご参加くださった方、関心をお寄せくださった方、本当にありがとうございました。いつか、キャリもや続編でまた皆さんとお会いできることを楽しみにしています。

文 / 高山美穂、編集 / 青木 佑