不妊治療終結後の高齢夫婦が、特別養子縁組に挑むときー「親になる」ための戦略と、実行方法。そして伝えたい「治療の先の選択肢」について。

実子を授からなければ他の選択肢もある」2017年の取材当時、こう話されていた石井大輔・留衣夫妻。二人三脚で不妊治療に取り組んでいた前回取材から4年半を経て、2021年の11月に特別養子縁組のマッチングが成立したとお聞きしました。

いわば「続編」とも言える今回のインタビューでは、いま46歳と48歳になられたお二人がこの4年半、どのように不妊治療に区切りをつけ、特別養子縁組に向け歩んで来られたのか、その道のりを伺いました。

石井 大輔 / Daisuke Ishii(夫)  株式会社キアラ代表取締役。1975年岡山県生まれ。京都大学卒業後、伊藤忠商事に入社しPaul Smith等の事業開発。2011年独立。働いた事のある街は、岡山、関西、東京、上海、ロンドン、ミラノ、ローマ、バルセロナ、ロサンゼルス、サンフランシスコ、という転勤族。ミラノの3年間を通じ、ラテンの国の陽気に人生を謳歌するライフスタイルに大きな影響を受ける。(社名もイタリア語で明るい=Chiaraという意味)

石井 留衣 / Rui Ishii(妻)  株式会社キアラ オペレーションマネージャー。1973年東京都生まれ。東洋短期大学卒業後、デサント、IBM、富士通、PGMなどで勤務。自分のやりたいことをしたく、職も転々とし最後はゴルフの世界へ。「ゴルフは奥が深くハマったこともありましたが、今は練習ゼロのお気楽ゴルファーです」

 


不妊治療の終結から「養子」という選択へ

  願いを叶えるための不妊治療終結

― 特別養子縁組のマッチングが成立したとのこと、まだ正式な縁組が確定したわけではない前提ですが、ここまでも大変な道のりだっただろうことを想像します。
2017年に取材させていただいた時、留衣さんは44歳、大輔さんは41歳で不妊治療の最中でした。そして現在留衣さんは48歳、大輔さんは46歳。まず、お二人の不妊治療のヒストリーから聞かせてください。

留衣 はい。不妊治療の期間としては、私が42歳から46歳の5年間です。採卵回数は合計7回、移植は5回です。

5回の移植のうち、最後の移植で妊娠しました。それが2019年の7月、46歳の時です。ただ残念ながら3ヶ月目で流産してしまいました。その後の治療継続については、私の年齢を踏まえると病院側から状況は厳しいと告げられ、私自身も、気力体力ともに現実的ではないと感じていました。

その時までにかかった治療費も、約1,500万円にのぼっていましたから。そして「親になる」ための別の選択肢、「養子縁組」に切り替えようと考えました。

石井 彼女がいわゆるアラフィフという年齢になったこともあり、私も養子縁組へのスイッチが本気で入りましたね。

― 実子をあきらめて養子縁組という選択肢を選ぶ。気持ちの整理に時間がかかることはありませんでしたか。

留衣 全くなかったわけではありません。「やっぱりあともう一回だけ採卵してみようか」なんて頭をよぎって、別のクリニックへ相談にも行きました。

ただやはり46歳という年齢での治療成功率は非常に低く、さらに治療にお金と時間を費やすなら、それを養子縁組に使った方が合理的だと判断できました。それにもともと私たちは、その選択肢に対して前向きでしたからね。

― 不妊治療のことも養子縁組のことも明るくお話されるお二人の姿から、夫婦関係がとても良好なことがうかがえます。夫婦二人の人生、という道は考えませんでしたか?

石井 それはなかったんですよね。なんとかなる、なんとかできる、と考えていましたから。不妊治療がうまくいかなければ、親になるための別の手段を考えれば良い、と。

二人の過去の海外経験からも、身近に養子をもらう人や、自身が養子であるという友人知人もいたので、養子をもらうことが何か踏み切った決断、という感覚はもともとありませんでした。

留衣さんが昔お世話になったホームステイ先(米国New Hampshire)のPeetさん、お宅に暮らす韓国人養子Lillyさんと再会

 

  「養子を迎える」とは

― なるほど。不妊治療がうまくいかなければ養子という選択肢を考えることは、お二人にはごく自然な流れだったということですね。「養子」といっても、新生児を養子にしたいとお考えでしたか?

石井 はい。最終的には、そうなりました。まずはじめに養子制度の概要を説明したいのですが、日本には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」という二つの制度があります。どちらの制度も、子どもが健全な養育を受けられるための、子どもを守ることを目的とした制度です。

この二つの制度の大きな違いは、普通養子縁組は、戸籍上「養子」または「養女」と記載され、生みの親(実親)との関係も継続する一方で、特別養子縁組の場合は実親との関係は解消され、戸籍上も親子として記載されるんです。
つまり特別養子縁組とは、その親子関係が唯一となることで、子どもが生涯にわたり安定した家庭を得るための制度なんです。

だから不妊治療をあきらめて「養子」を考える夫婦の多くは、この戸籍上も親子となる、特別養子縁組を望むようです。対象となる子どもも、私たちが調べた限りでは新生児の委託が一定数あると聞きます。

私自身はそこへのこだわりは強くはありませんでしたが、妻が新生児から育てたいという希望を持っていたので、できれば特別養子縁組でご縁があることを望みました。

 


特別養子縁組、マッチングへの道のり

  ふたつの入り口「児童相談所」と「民間団体」

― 確かに不妊治療をしていたご夫婦は「我が子」を望んでいたわけですから、新生児や月齢の小さい子を家族として迎え、法的にも親子関係が成立することを希望するのは自然なことかもしれません。
では、お二人は、特別養子縁組のためになにから始めたのでしょうか。

石井 特別養子縁組をするためには、大きく分けて2つの方法があるんです。ひとつは自分の住む自治体の「児童相談所」を通じて子どもと出会う方法。もうひとつは縁組の仲介をする「民間団体」を通じて出会う方法です。

私たちは、妻が46歳、私が44歳の時に本格的に動き出したので、高齢という条件と共にスタートを切ったわけです。まずは、当時住んでいたエリアの児童相談所に電話をしました。

しかし公的機関である児童相談所は養子縁組の業務だけをしているわけではなく、子どもの保護や家庭や学校からの相談や支援、そして里親研修や乳児院との連携といった、様々な業務に日々追われている多忙な機関。なかなか電話口だけでは、自分たちの年齢がどの程度許容されるのかは掴みきれませんでした。

民間団体にも数カ所問い合わせましたが、やはりその年齢になるとマッチングの機会は少ないとのことでした。児童相談所であれ民間団体であれ、何組もの夫婦がマッチングを待っているなかでは、高齢夫婦にそのチャンスが巡ってくる確率は決して高くないことを知りました。

出典:厚生労働省「特別養子縁組に関する調査結果(2016年12月時点)」

 

― そういった厳しい条件を踏まえた上で、まずは児童相談所を通してのマッチングに希望を託されたんですか?

留衣 はい。わずかでも可能性があるなら挑戦したかったので、不妊治療を終えた2019年8月に特別養子縁組の里親登録をしました。里親になるための二日間の研修を夫婦で受け、その後職員による家庭訪問があり、登録から半年後の2020年の2月に里親認定がおりました。

そこからマッチングがスタートするのですが、定期的に参加していたセミナーの出席者の多さに、里親を希望する夫婦がいかに多く、その競争率がいかに高いかを実感しましたね。

― 民間団体を頼るのではなく、児童相談所を通してのご縁を待ちたい、というお考えでしたか。

留衣 もちろん民間団体も考えました。ただ民間団体も研修を受ける必要があり、所在地が他県にあることも多く、都内在住の我々にとってあちこち遠方へ行くには費用もかかります。そのため、まずは児童相談所を頼ろう、と二人の間で決めたんです。
児童相談所が開催するセミナーを定期的に受けながら、マッチングの連絡が来るのを待ちました。

実際、2020年は新型コロナの対応などで、児童相談所も通常とは異なる緊急性の高い業務や対応に追われていたと思います。ですからこちらも具体的アクションにつなげることができないまま、2年が過ぎました。

石井 さすがに2年も手応えのないまま過ぎてしまったので、2021年に入ってから、二人で児童相談所へ出向き直接状況を伺いました。その時に改めて色々と相談にのっていただけて、現状の厳しさを伺えたので、直接お話ができて本当に良かったと思っています。直接話すことでわかることがたくさんあり、次のステップに進めたわけです。

 

  民間団体、全国総当たり作戦

― なかなか思うように進まなかったのは残念ですが、すぐに別の戦略に切り替える思考がビジネスマン的で頼もしいですね。「次のステップ」について具体的に教えてください。

石井 地方の民間団体の調査と申し込みを、スピード感を持って進めることに決めたんです。妻が50歳になるまでにアクセルを踏もうと決め、丁寧にステップを進めようとする妻を押し切り、私が主導で論理的戦略を決行していったんです。

具体的に言うと、厚生労働省が認可している民間あっせん機関は現在(2022年時点)全国に22箇所ありますが、その22団体と非認可団体を調べ、独自のリストを作成しました。そして一箇所づつ電話をかける「総当たり作成」を実行しました。

私たちは東京在住ですが、北は北海道から南は熊本まで全てにコンタクトを取りました。意外と皆さん、ここまではされていないのではないでしょうか。2、3件限定して問合せをして諦めてしまう方もいるかもしれない。私たちの場合は、この「総当たり作戦」が最終的に結果につながりました。
早くマッチングを成立させたい、という思いが強くなり、私のやる気に火がついて、必死でしたね。

― 実際、ひとつひとつに電話をかけてみていかがでしたか。

石井 直接コンタクトすることでそこのホームページだけではわからない情報を得られたり、手応えの温度感を掴めます。もちろん電話口で年齢を伝えて断られてしまうケースもありました。ただ、総当たりして感じたのは、地方の団体は都心に比べ、養親となる人の年齢への許容度により幅がある、ということです。

例えば西日本にある団体は、年齢の壁はなく「まずは直接会いたい」と言われたので二人で訪ねました。そして「あなたたちなら大丈夫ですね。登録しておきます」と。地域によっては、夫婦の年齢よりも人柄を重視する傾向が大きいのかもしれません。実際にお会いした地方の方々は、皆さんとても親切に色々教えてくださり、親身に話を聞いてくれました。

私たちは、認可・非認可含め調べられる範囲で全ての団体にアプローチしましたが、個人的な感覚として、厚生労働省が認可している22の団体はどこも一定の信頼ができると思います。

そして2021年の11月に、先ほども触れた西日本の団体の一つからマッチングの連絡をもらったんです。8月に民間団体へのアプローチを開始してから、たった3、4ヶ月後のことです。

― それは早いですね。それまでのプロセスと比較すると突然加速した印象を受けます。地方の民間団体にもアプローチするというのは、ご夫婦の道のりにとって、とても重要な分岐点となったんですね。

留衣 はい、そうだと思います。あくまで私たちのケースではありますが、東京の民間団体の研修も何度も行ったものの、東京は面接回数が比較的多く、やはり競争率が高い印象でした。それだけ苦労している夫婦が東京に集中していて、申込先も東京に集中しているということを感じたんです。

言い換えれば、地方も含めた申し込みを検討していない東京の人が多いのではないかな。だからそこにチャンスがある、ということを私たちは伝えたいです。

― 確かに、地方の情報を知らないまま東京だけで頑張り続けているご夫婦にとって、石井さんたちの事例は非常に価値のある情報ですね。

留衣 そうだといいですね。東京と地方と、それぞれの良さがある中で、地方は情でものごとが動く傾向もあると感じましたし、その良し悪しも含め、地方でのマッチングにはぜひ挑戦してほしいです。

― お二人が直接、民間団体や斡旋している産婦人科の医師などのご担当者に会われて、彼ら彼女らがマッチングに託している一番の思いはなんだと思いますか?

石井 赤ちゃんのために、少しでも早く家庭で育ってほしい、という思いです。スピーディーな対応を取ることで、短時間でマッチングを成立させたいという姿勢を感じました。孤児を減らしていきたい、という気持ちを語られた医師もいらっしゃいましたね。

 

  不妊治療中から情報収集を

― ここまで伺ったお話しを整理すると、マッチング成立への近道は、児童相談所と民間団体を並行して進め、尚且つ民間においては全国の団体にあたってみる、ということですね。

留衣 はい。児童相談所でのプロセスは少々多いかもしれませんが、児童相談所に里親認定されれば、民間団体との話もスムーズなことが多いと感じました。団体によってはその里親認定書の有無を聞かれることもあり、信頼性の指標のひとつになるようです。

石井 ですから、児童相談所の里親認定には一般に最低半年かかることを考慮すると、何事も早くから動いた方が良いでしょう。

もちろん不妊治療中は実子を望んでいるのでなかなか実感が持てないものですが、少しでも養子縁組という選択肢を考えているのであれば、治療中からの情報収集を勧めたい。45歳で治療を終わりにしてから動き出すと、不便なことが多いのも事実なんです。

― そういった現状を受けて、厚生労働省が今春(2022年)、不妊治療に従事する医療機関からの里親・特別養子縁組の情報提供の強化に関する指針を出すようですね。それは患者が不妊治療に行き詰まった段階ではなく、治療開始前に、医療機関から実子以外の選択肢についての説明を促すものになりそうだ、とのことです。
養子という選択肢と不妊治療がもっと密接なものになれば、お二人のように不妊治療終結を前向きに決断できるようになる方も増えるかもしれませんね。

留衣 そうなんです。45歳を過ぎても希望を持ってまだ採卵を望んでしまう、そして医療機関も治療を続けてしまう、という傾向はまだまだあるように思います。

肉体的にも精神的にも苦痛や疲労を伴う治療を続けるよりは、養子という選択肢も早い段階から視野にいれられるよう、医療機関からの働きかけも必要ではないかと私たちも感じます。
そしてご夫婦に予算があるなら、卵子ドナーや代理出産、というその他の選択肢も知っておくに越したことはないですね。

 


子どもを迎えるための様々な選択肢

  卵子提供による出産の道を考える

― お二人も、第三者からの卵子提供といった他の選択肢も含め検討されたんですか?

石井 はい。夫婦でこの“養子縁組プロジェクト”をキックオフした時、実は海外からの情報収集も同時進行させました。まずは海外にいる友人知人で養子縁組をしている人たちや、弁護士や卵子ドナークリニックなどにコンタクトを取り、主に「卵子提供」「海外からの養子縁組」「代理出産」について有益な情報がないかリサーチしたんです。

― 「卵子提供」も調べたということは、留衣さんがご自身で出産する可能性も引き続き探っていた、ということですね?

石井 そうですね。というのも、“養子縁組プロジェクト”が年齢の壁に阻まれてなかなか思うように進んでいかない中、卵子ドナーという選択肢に妻が興味を示したんです。第三者からの卵子提供によって妊娠できれば、半分は私の遺伝子です。検討する価値はあると思いました。

留衣 50歳近いと、養子縁組をどんなに希望してもマッチングの機会はなかなか期待できません。そうであるならば卵子提供を受けて自分で産む、という道もあるかもしれないと考えたんです。

― なるほど。若い卵子があればそれは確かに、妊娠の可能性が高くなりますね。とはいえ卵子提供は、時間、費用、プロセスそのものの難易度の高さなどの観点から、日本人夫婦にとって現実的な選択肢だと思われましたか?

石井 ええ、少なくとも私たちにとっては、かなり現実的な選択肢に入っていたと思います。日本国内で行う場合は特殊ケースに限られてしまうので、海外で卵子提供を受けるのが現実路線です。

例えば台湾は、一回の費用も200~300万円と決して安価とは言えませんが、日本語対応なのでそこについては安心です。私たちの場合は、新型コロナの影響で希望する時期に台湾に行けませんでしたが、行けていたら養子縁組同様に有力な選択肢でした。

留衣 ある九州の不妊治療専門病院では、台湾のクリニックと連携していて、卵子提供を受ける患者の体調管理をし、状態を整えてから台湾に行けるような医療サービスがあるそうですよ。

 

  海外からの養子縁組は、情報整理と優先順位が決め手

― 確かに台湾のクリニック情報を見ていると、日本語ですし、まるで日本国内のクリニックへ通うような感覚になりますね。採卵が難しいご夫婦には希望が持てそうです。
では、海外からの養子縁組についてはいかがでしょう?

石井 欧米では、外国からの養子縁組は一般的ですが、日本はまだまだ事例が少ないですね。やはり時間と費用面でのハードルが大きいからでしょう。加えて、アジア圏だと特に、宗教も影響してきます。

つまり、養親となる者の宗教は何かを問われるケースもあったり、夫婦のどちらかはその国の国民であることが条件だったり、といったことですね。私たちも調査、検討しましたが、コロナ渦で海外へ行けないことや、成立まで時間がかかることがわかり、最終的には私たちの選択肢からは外しました。

参考までに私たちが行ったプロセスをお伝えすると、手順としては、まず弁護士を探しました。例えば「家族法 弁護士」といったワードで検索。あるいは英語が出来るバイリンガル弁護士を検索しても良いでしょう。

たくさん出てくるので、その中で家族法に詳しそうな人にコンタクトし、手続きについて相談するところからスタートです。その弁護士さんとの相性はもちろん、その人がマッチングしてくれる養子斡旋組織の信頼性などを判断材料に進めていくと良いのではないかと思いました。

実際やってみて、国によって法律や宗教も様々なので、専門知識と実績が信頼できるかどうかよく調べた上で依頼するのが重要だと感じます。海外からの養子縁組は、支払い授受のタイミングによっては、国際法に触れるような人身売買にもなりかねないので、そこは注意が必要です。そして話が具体化すると現地での面接になるようです。先方も、こちら側夫婦が信頼できる人間かどうかを見極めるわけです。

つまり、海外からの養子縁組を視野に入れる場合は、まずは宗教、弁護士、時間、といった諸々の条件に基づき、総合的に可能不可能を判断し、その上で国ごとに異なる予算に対して検討していく、ということが現実的ではないかと思います。

検討材料が煩雑なのは事実です。ですから私たちも条件をマッピングして可視化することで、自分たちの優先順位を論理的に整理して、結論を出していきました。

― 確かに検討すべき条件や情報が複雑に絡み合い、判断をくだしていくことも労力がいることのようですね。代理出産となるとさらにハードルが上がりますか?

石井 はい。代理出産で子どもを授かった人にも話を聞きましたが、費用面で私たちには現実的ではありませんでした。もちろん子どもを授かる為の予算にリミットを設定していたわけではありませんが、アメリカでの代理出産の場合、弁護士費用、渡航費なども含めると総額約2,000万円かかると。そうなると、簡単なことではないですね。

 


親を待つ子ども、子どもを待つ親

  特別養子縁組への不安は、赤ちゃんを抱けば消える

― ところでお二人は、ご家族や近い方々には不妊治療のことや養子縁組についての意向は伝えていましたか。

留衣 不妊治療をしていたことは話していましたが、治療内容がどういったものなのかは、特に話すことも聞かれることもありませんでした。ただ、養子を考えている、と伝えた時は、最初は驚いていたし戸惑いもあったようです。

「夫婦二人の人生でもいいんじゃないか」と言われたこともあります。親戚の中にも、血の繋がりがないことへ懸念を示す人もいましたね。でも、不思議なもので、いざ赤ちゃんを見てしまえば、私たち自身も周囲も、それまでの不安は一瞬で消えてしまいました。そして、みんな応援してくれるようになりました。

―― 赤ちゃんの持つ力は大きいですね。

石井 本当にそうです。今回、私たちのマッチングを斡旋してくれた団体のご担当者がこう言っていました。「赤ちゃんを抱けば説明はいらない。絶対みんなハッピーになるから。赤ちゃんが来る、という事実が一番大事なんです」それは実際に、真実でしたね。

 

  マッチング制度に望むこと

― では最後の質問です。夫婦・カップルのあり方やライフスタイルの多様化が進む中で、不妊治療以外の方法で子どもを希望する人たちも増えるのではないかと思うんです。そんなときお二人は、養子縁組という選択肢も含め、その手段や成立までのプロセスに対して、期待することはありますか?

留衣 需要と供給のバランスが取れた仕組み作りが充実していくことでしょうか。児童相談所は当然、養子縁組以外の対応業務もそれは広範囲に及ぶわけです。だからこそ、民間と連携を取りながら養子斡旋を補い合っていただけたら、と感じます。

事情を抱えて産まれた子どもが、その子どもを待ち望む養親にマッチングされる、というのは双方が幸せなことだと思うんです。

以前、乳児院を見に行った時、かわいい赤ちゃんがたくさんいました。子どもを待っている養親希望者はたくさんいるのに、目の前には実親と離れて施設にいることしかできない赤ちゃんたち。制度の面からここに切り込んでこの矛盾を解消していけないものか、と思います。

石井 そのためにも、民間団体の数をもっと増やす必要性を感じています。47都道府県全てにあるのが、当事者にとっては理想です。民間団体だからできるフットワークの軽さを生かせば、もっとマッチング数を増やせるのではないでしょうか。

厚生労働省は、特別養子縁組の成立要件として、子どもの利益のためにその縁組が必要だと家庭裁判所に認められること、としています。つまりこの制度そのものは、不妊治療がうまくいかなくて産めなかった夫婦のためのものではない、ということは理解しておかなければいけません。

でも同時に、子どもが幸せになるということは、その親もまた幸せでないといけないと思うんです。幸せな家庭環境を作る、とはそういうことではないでしょうか。ですから、不遇な子どもを守るため、という福祉の観点がもちろん一番の土台となるわけですが、当事者の目線からは同時に、夫婦やカップルの「親になりたい」という明確な動機が支えている制度だとも、私たちは思います。

子どもそのものが希望の光だし、その子どもを待っている夫婦・カップルはその光を求めている。だから、その需要と供給のバランスを最適化する仕組みを整えて、幸せな家庭が増えたら、と心から願います。

私自身、けっこう本気で、将来ここに切り込んでいくなんらかのアクションを起こしたいと思っています!

取材・文/タカセニナ、写真・一部図表(打ち手ツリー)/本人提供、協力/高山美穂


待望のマッチングが成立した石井ご夫婦。特別養子縁組を希望するご夫婦に少しでも有益な情報を提供できれば、との思いから、膨大なリサーチデータをもとに、実体験やそのプロセスを全てオープンにお話しくださいました。

マッチングから特別養子縁組が法的に確定するまでには、家庭裁判所の審判を受けなくてはいけません。これには制度上、一定の時間がかかります。

法的に親子関係が成立した時、石井ご夫婦に改めて取材をさせていただき、戸籍上の親子になるまでのストーリー、実際の子育てを通して起きていること、その後の夫婦関係の変化など、石井夫婦のストーリー完結編として伺いたいと思います。そちらもお楽しみに。

 


\あなたのSTORYを募集!/
UMU編集部では、不妊、産む、産まないにまつわるSTORYをシェアしてくれる方を募集しています。「お名前」と「ご自身のSTORYアウトライン」を添えてメールにてご連絡ください。編集部が個別取材させていただき、あなたのSTORYを紹介させていただくかもしれません!
メールを送る