性や生殖について自己決定が難しい日本社会は、どうすれば変わるか。ピッコラーレ代表・中島かおりさんと考える、これからのSRHR。<前編>

妊娠や出産、中絶など性や生殖に関することについて、十分な情報を得て、複数の選択肢のなかから自己決定していく権利を指す「性と生殖に関する健康と権利」(SRHR:セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)。

1994年にカイロで開催された国際人口開発会議で初めて提唱され、現在はSDGsのターゲットにもSRHRに関する目標が含まれるなど世界的に関心が高まっていますが、日本ではまだなじみのある言葉ではありません。

そんななか、任意団体として2015年に活動を始めた認定NPO法人「ピッコラーレ」は、設立以来、置かれた環境や状況により「産む」、「産まない」の自己決定が難しい人たちの悩みに対峙し続けてきました。

「『にんしん』をきっかけに、誰もが孤立することなく、自由に幸せに生きることができる社会の実現」をミッションに掲げる「ピッコラーレ」の活動を通じて、「今こそSRHRを」と訴える代表の中島かおりさんにお話を伺います。

中島かおり/Kaori Nakajima
第2子の出産をきっかけに助産師を目指し、その後病院や助産院で助産師として働く。女性の隣で、その力を信じ支える助産師でありたいと地域でも活動する傍ら、認定NPO法人ピッコラーレ(旧:一般社団法人にんしんSOS東京)の運営に代表として携わる。著書に『漂流女子』朝日新聞出版(2017年)。内閣府「性暴力に関するSNS相談マニュアル作成に係る検討会」委員、内閣官房「こども政策の推進に係る有識者会議」臨時構成員(2021,22年)、社会的養育・家庭支援部会委員(2023年、こども家庭庁)

 


  第2子の出産を機に助産師に

―「ピッコラーレ」は、妊娠の葛藤について相談できる窓口が必要という思いを持つ助産師、社会福祉士で始められたのですよね。中島さんも助産師の資格をお持ちですが、現在の活動を始められた経緯についてお聞かせください。

私自身、第1子の出産では心身ともにかなり疲弊してしまって、子どもはかわいいものの「できないことが増えた」という気持ちのほうが強かったんです。妊娠中から出産、産後の身体のキツさを考えると、もう第2子はいいかなと思っていました。

かたや同じ保育園のママ友には何人も産んでいる方がたくさんいて、「子育ては大変だけど出産だったら何度してもいい」とまで言う人もいるほど。「一体どういうこと?」と尋ねてみたら、あるママ友は妊娠中から助産師のケアを受けていたそうなんです。

それで私も実際に第2子は助産師が寄り添ってくれる助産院で出産したところ、身体がとてもラクで、心から子どもがかわいいと思えたし、自分の力で何かを達成したという実感が得られました。

思わず、「助産師っていい仕事ですね」と助産院の院長さんに伝えたら、「今からでもなれるわよ」って言われて。普通なら「命の誕生に出会えて、すごくやりがいがあるわよ」とか言いそうなところなのに、「今からでもなれる」って(笑)。勢いのまま次の年のAO入試で大学に入りました。

ーそれで助産師に。まさに一念発起ですね。

運がよかった、恵まれていたと思います。30代でもう1回、大学生になれる環境だったわけですから。

当時は大学の4年間で看護師と助産師と保健師の資格を一度に取得できたのですべて取って、病院や助産院で働き、地域の新生児訪問もしました。

それぞれの現場で若年の妊婦さんや経済的に困窮した妊婦さんなど、あらゆる背景の妊婦さんと出会いましたが、助産師になって7、8年目でしょうか。熊本県で「こうのとりのゆりかご」を開設している慈恵病院を見学する機会がありました。そこで慈恵病院に届く相談の3割が、首都圏からだというのを聞いたんです。

なかには一人で産んだ赤ちゃんを抱え、東京から新幹線に乗って預けに来る女性もいるということでした。ものすごい衝撃を受けました。相談できる場所が首都圏にないんだと。

ちょうどそのとき、私が地域で出産のサポートしていた10代の女の子がいたのですが、その子は地域の人たちの力を借りながら、とても上手に育児をしていたんですね。その子が「妊娠中から中島さんみたいな存在がいたら自分も相談したかったなって」って言ってくれて。

私にも何かできることがあるかなと考え、思いを共有する助産師と社会福祉士の7人で2015年に「ピッコラーレ」の前身となる、妊娠や出産に悩む人たちを支える相談支援窓口「にんしんSOS東京」の活動を始めることにしました。

 

  「産んでいい人」と、「産んではいけない人」がいる?

―当時から今も続けていらっしゃる、ピッコラーレのメイン事業である「妊娠葛藤相談事業」の主な役割を教えてください。

この窓口の役割は、「にんしん」にまつわる全ての「困った」「どうしよう」に寄り添うことです。相談者が必要とする正しい情報や利用可能な社会資源を伝え、関係機関を探し、繋いでいきます。

あまり知られていませんが、産前産後の女性の死亡原因でもっとも多いのは自殺です。そして、虐待によって命を落とす子どもは、0歳0ヵ月児が多い。しかも生まれたその日に亡くなることが最も多いです。

これは、女性が妊娠を誰にも相談できず、一人で抱え込み、社会から孤立した結果だと私たちは考えています。どんな状況にあっても、母子の安全を守りたい。そんな思いで活動しています。

―現在は「にんしんSOS東京」に加え、「にんしんSOS埼玉」、「にんしんSOSちば」も運営されています。寄せられる相談内容の傾向についてお聞かせください。

具体的な相談内容については、2017年に出版した『漂流女子』(朝日新聞出版)に事例をいくつか書かせてもらっていますが、ピッコラーレって、“予期せぬ妊娠に困っている女性をサポートしている団体”と思われがちですが、実際に寄せられる相談内容はもっと多様なんですね。

もちろんそうした女性たちからの相談も多いのですが、活動を続けるなかで気づかされたのは、10代だけでなく20~40代の女性の方、しかも未婚の方ばかりではなく、既婚の方も妊娠について葛藤を抱えているということです。

妊娠をするまだ手前の相談、例えば「生理が遅れている」「避妊に失敗をした」というものから、「誰の子かわからない」「性被害にあった」なかには不妊治療を経て妊娠したけれども、その妊娠の受け止めが夫婦で食い違ってしまい「あんなに欲しいと思っていたのに」と悩まれているケースもあります。

男性からの相談も16%ほどを占めています。このように妊娠が困りごとになっている人たちは、私たちのごく身近に存在しているんですよね。

たとえば、日雇いで日給6,000~7,000円で配送の仕事をしている方に話を伺ったときは、その日稼いだお金で、ネットカフェで生活をしていました。

6,000円ほどあれば、2泊はネットカフェに滞在できます。日雇いの仕事をして2日ネットカフェで過ごし、また日雇い労働をして2日分のネットカフェ代を稼ぐ。

そうやっているうちにお腹が大きくなって、ネットカフェで産まれそうということで、相談に繋がった方もいらっしゃいます。もしかしたら、私たちが普段何気なく受け取っている荷物を梱包していた方かもしれませんよね。

そういう方の存在と、私たちの生活って本当に地続きで、活動をするなかで「妊娠に悩んでいる人はすぐそこにいるよ」というのを思い知らされる日々です。

ピッコラーレHPより

 

―相談内容は多岐にわたり、かつ、実は相談者は身近なところに存在している、ということですね。寄せられた相談に対しては、具体的にどのような支援をされていますか?

ケースによりますが、多くの場合、まず産む病院を決めて、衣食住の確保をします。性暴力を受けて妊娠した場合は、警察への相談に同行することもあります。

妊娠以外にも問題を抱えていることもありますから、相談を機に、そうした問題についても少しずつでも解決できるよう働きかけています。

たとえば未成年の場合、日本では中卒だと仕事がないので高卒認定試験を勧めたり、生まれた後は子どもが保育園に入れるよう働きかけたり、また親との関係改善のお手伝いをしたりもします。

ピッコラーレができることはこちらでサポートし、できないことはピッコラーレと繋がりのある団体や行政にお願いして、サポートを継続します。

妊娠、出産の支援をして終わりにできるケースは多くなく、背景に個人的な問題や社会課題が複雑に絡まり合っているので、どうしても多様な支援が必要になります。

活動を始めた当初は、産む病院さえ見つかればなんとかなる、行政の窓口に行けばなんとかなると思っていましたが、実際に行政の窓口に相談者さんと行っても、何の支援も受けられないケースもあれば、妊娠したことをすごく非難されることもあります。

そうしたことに遭遇するなかで、「まるで、産んでいい人といけない人がいるみたいな社会だな」と思うようになりました。やはり日本は性や生殖に関して「自分で決めていく」「本人が決めていい」という観点が抜けているんだと、強く感じます。

 

  人に相談できる人、できない人

―「にんしんSOS東京」には現在、毎月どれぐらいの相談が寄せられていますか?

「にんしんSOS東京」の相談窓口には月200人ほどの方から相談を受けています。実際のやり取りは月1,000件ぐらいでしょうか。7名の相談員から始まった活動も、現在では国家資格を持つ51人の相談員が所属しています。

多くのメンバーが本業を持ちながら、問題意識を持ち、本業を通してではリーチできない層の方からの相談に懸命に対応してくれています。

―そんなに多くの相談が寄せられているのですね。きっと200人のなかには、相談にすら繋がれない人も多く存在すると思いますが、人によって相談できる、できないの違いは何が関係していると思いますか?

人に相談するのにも、力が必要です。そう考えると、私たちは「他者に相談する力がある人」と比較的多く繋がっているといえます。

一方、相談できない人というのは、これまでに誰かに相談したけれど怒られたとか嫌な経験をしたとか、そういうこともあるかもしれません。あるいはギリギリのところまで追い詰められていて、相談する力がもう残ってない人たちかもしれません。

たとえば今暴力を受けていて、明日までどう生き延びようか、今日はどこで休もうか、今日のご飯はどうしようかといった、目の前のことが大変な人たちは、妊娠の相談をしようというところまで至っていないはずなんです。

でもそういう人たちのほうがより緊急性が高いかもしれないですよね、本当は。

 

 

 

  包括的性教育は、子どもへのギフト

―相談できる、できないの段階ですでに線引きがあるのですね。

そうですね。辛い環境が常態化していると、自分のいる環境のおかしさに気付けないということもあると思います。

一方で、「SOSを出すまでもない」とずっと自分で何とかやってきた人たちが、初めて「自分の力だけでは乗り越えられない」妊娠という事態に直面して、相談に繋がるケースというのもあると思います。

妊娠って期間限定ですよね。たとえばパートナーからの暴力や、生活上の貧困は、どうにかしのぎながら何年も経ってしまうことはあっても、妊娠だけは10ヶ月という期間が決められています。

出産となるとさすがに自分ではどうにもならないことも多いですから、かえってSOSを出しやすいと思うんです。ただそのSOS出すタイミングが、「あと3時間後に赤ちゃん産まれる」といった、本当に切羽詰まったときにもなりうる。

そうなってしまう前に、小さい頃から、個人的なことでもそうでなくても、どんな些細なことでも、性に関することは誰かに相談していいんだと知っておくことが、とても大切なんだと思います。

そしてその前提として、相談の声を受け止められる大人たちの存在が子どもたちに伝わっていることも大切ですよね。

―ピッコラーレでは出張保健室の授業もされています。やはり小さなころからの教育が大事ということですね。

そうですね。人権教育を含んだ、包括的性教育の必要性を感じています。

性や生殖にまつわる自己決定権は本来生まれもった権利である、ということに加え、たとえば付き合っているからといって、いつでもセックスしていいということではなく、必ず毎回相手の同意を得る必要があること。

イエス以外はイエスではなく、セックスを強要するとそれは暴力になるんだよ、といったことを女の子だけなく、男の子も一緒に学んで、そして何か困ったときには、相談場所があるということを知ることがすごく大事だと思っています。

豊島区では、中高生のための居場所として、ジャンプという児童館のような施設があるのですが、そこで私たちが出張保健室を開くときは、男の子たちがいっぱい来てくれるんですよ。

性にまつわる知識をクイズ形式で学んでもらったり、コンドームを持っていって、実際に開けて触って、表と裏があることを知ったり、正しい付け方を知ってもらったりしています。毎回みんなとても楽しみにしてくれて、友達を誘ってきてくれることもあります。

これってどういうことなのかなと考えると、子どもたちはもっと性について学びたいと思っているし、自分も、自分の大事な人のことも守りたくて、そしてそれは自分の人生にとても必要だとわかっている、ということだと思うんです。それって素晴らしいことだと思いませんか。

―しかも普段行き慣れた場所で教えてもらえるのも、敷居が低く感じられていいですね。学校や、親御さんの反応はいかがですか?「そこまで踏み込むと、性交渉の低年齢化を助長するのでは」というマイナスな意見も聞こえてきたりは?

毎年中学校でも出張授業をしていますが、そもそもピッコラーレに頼んでくる学校の先生たちは、「僕たちが話せないから、ピッコラーレさんから伝えてください」というスタンスで声をかけてくださいます。

ですから私も、授業に入る前にいつもこう伝えるようにしているんです。「私がここにいる理由はね、皆さんがいつも一緒にいる大人である先生や、親御さんが呼んでくれたんですよ。みんなへのギフトとして、私にここで話す機会をくれたんです。だから、今日はいろんな話をさせてもらいます」と。

さきほど「相談できる人、できない人がいる」というお話がありましたが、こうした出張保健室や、学校での性教育の授業を行うことは、「相談できない人たちにも会える」という大きなメリットがあるんです。

その場にいる子ども達のなかには、すでに性暴力を受けた子も存在しているかもしれませんが、そうした子をはじめ、情報が必要な子のそばにいる人、たとえば学校の先生とか、親にも情報が届いていくんです。

ピッコラーレの活動を通じて今一番強く思うのは、子どもの周りにいる大人こそが、「これは人権にまつわる話で、一人ひとりが幸せに生きるために必要な、科学的な根拠に基づく知識なんだ」と思ってもらうことが大事、ということです。

その知識を身に付けるために、子どもたちにとって何が必要なのかなと考える大人を増やすことが大切です。

つまり、包括的な性教育の必要性や、SRHRの正しい知識を持つ大人を増やす、まさにこの部分が今一番必要で、そのために妊娠相談窓口だけでなく、性教育活動にも力を入れているというわけです。

中高生が集まる場所へ出張「ピコの保健室」

(取材・文/内田 朋子、編集/瀬名波 雅子、写真/本人提供、協力/中山 萌)


妊娠の相談に乗りながら、日本でも正しい性に関する知識を広めようと奔走する認定NPO法人「ピッコラーレ」代表の中島かおりさん。

続く<後編>では、ピッコラーレが今まさに手掛けようとしている妊娠のアフターケア事業について、また性や生殖の捉え方についてグローバルな視点からお伺いします。


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ピッコラーレでは現在クラウドファンディングを実施中です(12月22日午後11:00まで)
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