性や生殖について自己決定が難しい日本社会は、どうすれば変わるか。ピッコラーレ代表・中島かおりさんと考える、これからのSRHR。 <後編>

妊娠や出産への葛藤相談窓口、「にんしんSOS」を運営する、NPO法人「ピッコラーレ」。<前編>では、代表の中島かおりさんに、活動を立ち上げたきっかけと、毎月1,000件の相談に対応するなかで見えてきた課題について語ってもらいました。

<後編>では、ピッコラーレが今まさに手掛けようとしているアフターケア事業の中身、そして「性と生殖に関する健康と権利」(SRHR:セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)について、グローバルな視点からお話を伺います。

 

中島かおり/Kaori Nakajima
第2子の出産をきっかけに助産師を目指し、その後病院や助産院で助産師として働く。女性の隣で、その力を信じ支える助産師でありたいと地域でも活動する傍ら、認定NPO法人ピッコラーレ(旧:一般社団法人にんしんSOS東京)の運営に代表として携わる。著書に『漂流女子』朝日新聞出版(2017年)。内閣府「性暴力に関するSNS相談マニュアル作成に係る検討会」委員、内閣官房「こども政策の推進に係る有識者会議」臨時構成員(2021,22年)、社会的養育・家庭支援部会委員(2023年、こども家庭庁)

 


  応の基本は、ジャッジしないこと

―「にんしんSOS」では毎月約200人から1,000件の相談が寄せられるということですが、相談に対応するうえで留意されている点はありますか?

性に関して経験してきたことやどんな考えを持っているかは一人ひとり違っています。

少し話を聞いたくらいで「この人はこういう人だ」と相談者さんをジャッジしたり、「こういうことを相談したいんだろう」とこちらが先回りして思い込みで話さない、という点に気を付けています。

たとえば、10代で妊娠した女の子に、「育てられないから、きっと産みたくないって思っているだろう」と決めつけてしまったり、中絶ができる期間が迫っていると、「相談の流れからこの女性は中絶したいんだよね」などと思い込みで対応してしまったり。

不妊治療についても、治療してやっと授かったのだから、妊娠を嬉しく思っているはずと、話を聞く側はつい一方的なストーリーを作りがちです。

本来は妊娠や出産をどう受け止めているか、どうして悩んでいるのか、その気持ちを丁寧に聞かせていただく必要があるのに、こちらもつい焦ってしまって、「早く病院に行ってね」とか、「何かあったら救急車呼ばなきゃだめよ」、と強めに言ってしまうことが、かつてはあったんですね。

相談者さんはそうした圧というか、空気感を敏感にキャッチするものです。それで「咎められている」、「育てられないって思われている」と感じてしまって、せっかく相談に繋がってくれたのに、離れてしまった方もきっといるはずなんです。

その方の長い人生の中で、私たちが知っているのはほんの一部分ですし、どうして今その状態になっているか、私たちは全部を知る必要はないと思っています。

私たちに何を話すかは、その方が決めることであって、語られないことがあってもいい。大事なのはその人が何に困っているか、そしてどうなりたいか、今と未来にフォーカスをあてて聞くことだと思っています。

 

―「にんしんSOS東京」は寄付によって活動をされていますが、「にんしんSOSちば」と「にんしんSOS埼玉」はそれぞれ県からの委託を受けて活動されています。妊娠相談窓口の充足度についてはどうお考えですか?

そもそもこうした妊娠葛藤相談は、不妊の相談も含め、厚生労働省の「性と健康の相談センター事業」の中に位置付けられています。実施主体は県や市区町村で、予算は国と実施主体が半分ずつ負担しています。

事業に積極的な県や市区町村であれば、自治体で予算を確保し事業化していくわけです。なかには相談窓口までは作ったけど、週に3日、4時間ずつしか稼働していない窓口もあります。

そもそも全ての都道府県に相談窓口があるわけではなく、あったとしても、365日空いていないなど、実施主体の市区町村の予算や積極性によって対応が変わっています。

私たちの「にんしんSOS埼玉」と「にんしんSOSちば」はそれぞれ埼玉県と千葉県から委託を受けて実施していますが、千葉や埼玉県以外の住民の方の相談にものっていいことになっています。他の都道府県の場合、他県からの相談は居住地域の相談窓口を紹介することもあります。

「にんしんSOS東京」については、公的な資金は入っておらず寄付で動かしており自治体の仕様に縛られることがないので、どこからの相談も受けられる状況です。必要な人には食料を送ることができるなど、対応できる範囲が広いのが特徴です。

理想は相談者がどこに住んでいようと、必要なときに必要な支援が得られることだと考えると、少なくとも各都道府県に1つは妊娠に関する相談窓口が必要だと思います。

また行政の保健師さんたちと協働して、何かあれば相談者さんのもとに駆け付けるなど、柔軟に対応できる仕組み作りが、今後の日本全体の課題だと感じています。

居場所づくりproject HOMEの協働団体「認定NPO法人 PIECES」と一緒に

 

  「孤立した妊婦の潮溜まり」をつくる

ー相談員の方それぞれに本業があるなかで、相談窓口の維持だけでも相当な労力が必要だと思いますが、さらにピッコラーレさんでは新しい取り組みもされようとしているとか。今後の展開についてお聞かせください。

ピッコラーレは妊娠相談窓口事業だけでなく、相談者さんが安心して出産を迎えるための居場所も運営しています。きっかけは住居がない妊婦さんたちとの出会いでした。ネットカフェを点々としていたり、友達の家のソファで毎日寝泊まりしていたり。

みんなに家があると思ったらそれはまったく違っていて、安全な家を持たず居場所を点々とするなかで妊娠したり、あるいは妊娠したことでその場所にい続けられなかったり、というケースも多いんですね。

そういった女性たちに妊娠何週からでも使うことができる家を用意したいと思って、クラウドファンディングで支援者を募って居場所を作り、今年で4年目になります。

そこを拠点にして出産した人もいれば、中絶した人、死産になってしまった人、産んだあとに特別養子縁組に出した方など、本当にいろんな方が利用してくれました。

でも、その人達の人生は、そこから先も続くわけです。一時的な居場所をこちらが用意できたとしても、やっぱり帰る家がないことに変わりはないわけで。ですから、これからはアフターケア事業も始めたいと考え、実際に動きはじめています。

妊娠が終わったあとも、いつでもまた戻ってこられて、ちょっと休んで、そこで勉強や就労の支援、キャリア形成のアドバイスを提供する。

地域の里親さんとも繋がれて、自分の実家がもう一つ増えたような、そんな居場所づくりを今年の下半期の目標にしていて、すでに場所も構えています。

彼女たちに周囲との良い関係をもう一度作ってもらい、社会に対する信頼を取り戻すきっかけになればと思っています。

妊産婦のための居場所「ぴさら」

  妊娠出産は「ヘルスケア」の話でもある

―まさに、ピッコラーレがめざす「孤立した妊婦の潮溜まり」のような居場所なのですね。改めて中島さんにお伺いしますが、妊娠相談の最前線に身を置かれているお立場として、今の日本において「性と生殖に関する健康と権利(SRHR)」が根付くために必要なもの、あるいは足りないものがあるとすれば、それは何だと思いますか?

SRHRは、一言でいうと「あなたが決めていいよ」ってことですよね。何人子どもを持つのか、いつ持つのか、そもそも持つのか持たないのか。

セクシュアリティについても自分で決めていいし、あるいはそのために必要な教育や医療がいつでも受けられる権利のことで、世界的にも、SRHRへの意識は高まっています。

一方で、性に関することは相手があることで思い通りにならないなとも思っています。なので自分で決めていいと言われてもどこまで自分で決められるのか、という問いもあります。

日本では性や生殖に絡んだ話は、「自己責任」とか、「個人的なこと」になりやすいですよね。もう少し社会全体で支える雰囲気が作れないのかなと思うのです。自己責任とされやすい理由の一つに、避妊や中絶、出産の医療費の問題があると思います。

日本では、基本的にケガも病気も医療保険の対象となります。その際、ケガや病気の理由が問われることはありません。

一方で、避妊も中絶も出産も、公的な医療保険に入っていたとしても医療保険が使えません。毎月みんな保険料を払ってるのに、その保険が適用されない。これって、「妊娠は自己責任だから」という社会通念があるからですよね。

ケガであれば、何もないところでよそ見をしていてうっかり転んだとしても、自己責任だからと言われることなく、医療保険で守ってもらえるのに。

本当に性に関することってみんなの目が厳しく、社会に守ってもらえず、かつとても不平等だと思います。なぜならお金がある人は医療にアクセスできますが、お金がない人は互助すらないわけですから。

しかも中絶に関して言えば、刑法の中に堕胎罪があり、人工妊娠中絶は罪であるとされています。処罰の対象となるのは妊娠をしている女性と女性に手を貸す医療職です。

母体保護法で、条件付きで人工妊娠中絶は可能な状況にはなっているけれども、そこに当事者の意思だけではできない仕組みがあり、配偶者の同意やパートナーの同意、未成年であれば保護者の同意を求められることが多くあります。

避妊や中絶を含め、妊娠や出産をもっと「ヘルスケア」の話にしていきたいです。たとえば中絶の例でいうと、中絶は医療処置であるのだから「だったらより侵襲性の低いものがいいよね」という議論になって欲しいです。

身体への負担だけでなく、精神的な負担をどう減らすか。医療職がそのためにできるケアはどんなものがあるか。そんなことを考えていきたいのです。

ただ、妊娠に関することは、個人の信じているものや死生観、経験してきたことによっても考えが違うと思います。ピッコラーレの相談員も様々な考えを持っています。

自分のその考えを否定せず、自分の考えとは異なる他者の考えも尊重する、そんなあり方も可能なのに、なぜか日本では妊娠についてはやけに「こうあるべき」という倫理観や「正しい、正しくない」というイデオロギーの話にされてしまって、目の前のひとりの困難がそのままにされてしまっていないでしょうか。

中絶や緊急避妊薬については受診の際に、理由を求められたり、背景を説明しなくてはならないことが本当に多いです。妊娠や出産について、個人の人権よりも前に社会的な規範や価値観に一旦さらされてしまう日本社会の在り方に、強く疑問を感じています。

「ぴさら」のスタッフ

―そもそも人権とは人間に生まれながらに備わっている権利であるという、人権教育の部分が日本では抜け落ちてるのかもしれませんね。

特に性と生殖においては、日本社会は権利を大切にしていないと感じます。アフターピルや緊急避妊薬のOTC(一般用医薬品)化など、一つとっても、何年議論しても全然進歩しないですよね。現場にいると、怒りを通り越して、諦めの気持ちにならないようにするのが、本当に難しいです。

例えばドイツなどでは、緊急避妊薬や、低用量のピルはもちろん保険適用ですし、ドラッグストアで、医師の処方なしで手に入れることができます。しかも10代は妊娠を避けたいっていうケースが多いですから、病院に行けば無料でもらえるんですね。

このアクセスの良い状態がある世界と、ない世界がまずあるなかで、私たちが日々「にんしんSOS」で「避妊に失敗したけどどうしよう」とか、「生理が遅れていて心配」とか、あるいは「今妊娠したら困るのに妊娠してしまった」という子たちの話を聞いていると、その背景にある社会システムの不備というか、権利や平等性を大事にしていない日本社会に気づかずにはいられません。

今、2030年までの目標達成を目指し、企業や自治体を挙げてSDGsに取り組んでいますが、SDGsの「3」の「すべての人に健康と福祉を」という目標の中の「3-7」と「3-8」(※)はまさにSRHRそのもので、ちゃんとターゲットに入ってるんです。

今、世界ではそのターゲットにきちんと取り組むと、例えば性による差別や、あるいは貧困の解消など、他の目標もクリアできるっていうことに繋がることも言われ始めているんです。

だけど日本ではSRHRはSDGsの文脈でもほとんど語られておらず、置き去りにされている。性や生殖に関する不平等性を解消し、妊娠や女性の健康に関する医療を公共財にしていくためにも、もっと日本でも本気で議論していくべきだと思っています。

そして、近い将来、当たり前の権利としてSRHRを行使できる社会になるよう、ピッコラーレも活動を続けていきたいです。

※ 出典:外務省「JAPAN SDGs Action Platform」
3-7
2030年までに、家族計画、情報・教育及び性と生殖に関する健康の国家戦略・計画への組み入れを含む、性と生殖に関する保健サービスを全ての人々が利用できるようにする。

3-8
全ての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する。

「緊急避妊薬OTC化要望書」を厚労省に提出

(取材・文/内田 朋子、編集/瀬名波 雅子、写真/本人提供、協力/中山 萌)


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